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【市民編集者の目】“世論調査の政治”の落とし穴 朴大統領の50%支持率、回答率はわずか17%だった

登録:2014-02-03 22:31 修正:2014-02-04 07:32
朴槿恵大統領が今月22日午後(現地時間)、スイスのダボスで開かれた第44回世界経済フォーラム(WEF・ダボスフォーラム)の年次総会で、「創造経済と企業家精神」をテーマに開幕演説をしている。ダボス/連合ニュース

 とても気になっていた。朴槿恵(パク・クネ)大統領の高い支持率を支える力は何か。就任後、朴政権はずっと50%を超える支持率を記録している。

国民の声に耳を傾けない“無疎通政権”、大統領選挙の際の国民との約束を覆す“不渡り政権”、創造的気風よりは40年前の“維新”の気運がただよう“復古政権”、聖職者の真摯な忠告に対しても平気で“従北レッテル”を貼る“従北政権”、法と原則を叫びながら民主労総とマスコミを蹂躙した“無法政権”に対する評価だというから、びっくりではないか。

 世論調査はいつのまにか政治に深く関与するようになった。ほとんどの選挙で世論調査が威力を轟かせている。候補者を選定し、選挙戦情勢を読むのに世論調査は絶対的な力を発揮する。“誤差範囲”内の薄氷勝負であった大統領選挙結果を毛抜きのように引き出した“出口調査”は、すでに数回にわたって感嘆を誘っている。

 それだけではない。未来の政治も、世論調査があらかじめ示してくれる。安哲秀(アン・チョルス)は世論調査が生み出した“新しい政治のメシア”だ。 今や政治行為は、世論調査によってその正当性を審判される時代だ。 民の叫び声に微動だにしない朴大統領の信じるところも、世論調査にあると見られる。

 世論調査の虚実を点検してみる必要を感じた。まず、世論調査専門家に会ってみた。世論調査機関<リサーチプラス>のイム・サンニョル代表から、世論調査の過程とその科学的意味、マスコミ報道の問題などについて聞くことができた。

 世論調査は統計学がもたらした科学的産物であることだけは事実だ。 統計学は、極めて少数の“標本”の考えから巨大な“母集団”の考えを類推する。しかし、前提条件がある。適切な標本や設問、インタビュー方式、そして精巧な科学的分析などだ。しかし、現実はその条件を満たしていない。

 まず適切な標本の確保が非常に難しいという点だ。デジタル文明は世代間に全く異なるコミュニケーション文化を演出する。年齢帯によって疎通の手段や方式が多様だ。一部の若者層には世論調査機関の接近すら不可能だ。世論調査業界は新しい“標本プール(標本集団)”を構築する課題を抱えているわけだ。しかし、実践には難がある。時間と経費など莫大な費用が必要になるためだ。

キム・ヨンフン記者 kimyh@hani.co.kr

 前回の大統領選挙で有権者は4000万人を突破した。最近定期的に発表されている世論調査の標本は概ね1000人余りだ。代表性の欠如した標本1000人が4000万人の考えを代弁するわけだ。ましてやその標本が適切でないならば、その世論調査は現実をどれほど反映することができようか。

 低い回答率も、信頼度を下げる要素だ。最近メディアに公表されている政治関連世論調査の回答率は10%台が主になっている。 一桁の回答率もしばしば見られるほどだ。参考までに日本の最近の事例を見てみた。昨年末、<朝日新聞>と<毎日新聞>が報じた世論調査の回答率は60%を超えている。 米国のマスコミは回答率30%未満の世論調査は報道しないことを原則としている。

 イム代表は「制限された標本、それも代表性の欠如した集団を対象とした全ての世論調査は、それぞれ“一つの調査”に過ぎない」と述べた。彼は世論調査自体、即ち“生産”の問題よりは、マスコミ報道、即ち“流通”の問題の方が大きいと指摘した。読者に迎合することに長けたマスコミが“虚像”を“実体”のように報道し、既成事実化していると診断した。

 <ハンギョレ>の最近の世論調査結果の報道を見てみた。去る11日付の記事「朴大統領の支持率上昇したが…無疎通イメージも強まる」の主要部分をここに引用する。

 -朴槿恵大統領の国政遂行支持度が新年に入って上昇した。新年の記者会見などを通しての支持率管理戦略が成果をあげたものとみられる。韓国ギャラップが去る6~9日、全国の成人1219人に朴大統領の職務遂行に対する評価を尋ねた結果、回答者の53%が「よくやっている」と答えた。セヌリ党のある重鎮議員は「記者会見や旧正月の特別赦免を通して大統領府の支持率管理が一定部分成功しているようだ」と述べた。-

 韓国ギャラップが明らかにしたこの調査の回答率は17%。100人のうち83人の考えは確認する術がない。しかし、報道は「大統領の高い支持率」を“事実”として伝えている。報道は、大統領府と与党セヌリ党の政治的戦略と認識の世界も共に見せてくれる。

 <ハンギョレ>編集局のイム・ソッキュ政治・社会エディターに会って、世論調査結果の報道についての<ハンギョレ>の立場を聞いてみた。

-世論調査は現実をどれほど正確に反映すると信じているか?

「誤差はあるが、世論の流れを読むのに有用な科学的指標を提供すると信じている。」

-標本の欠陥、過度に低い回答率などは信頼度を落とすことになる。

「現実との乖離は認める。低い回答率などに対する“ガイドライン”設定は研究課題だ。」

-“虚像”を“実像”としてミスリードするのに一役買っている。

「報道に慎重を期す必要性を感じる。世論調査の結果は“一つの数値”に過ぎないという点を念頭に置いて報道しなければならないということに同意する。」

コ・ヨンジェ 言論人・前京郷(キョンヒャン)新聞社社長

-信頼度を補完する対策が必要ではないか。

「世論調査の科学的精密性を高めるために、さまざまな試みをしている。<ハンギョレ>は特に“定量調査”の限界を少しでも克服するために、“定性調査”を不定期的に行なっている。標的集団深層座談会(FGD)が代表的なものだ。」

 韓国政治を支配する“数字の魔術”の弊害は大きい。朴大統領の傲慢も代表的な弊害の一つに挙げられる。セヌリ党の鼻高々と民主党のいじけた姿も、世論調査の“集団催眠”効果とみられる。韓国を動かす核心政治集団の“誤判”は国の将来を誤る可能性がある。政界が政界に充満した偽りや偽善のゴミを率先して片づける代わりに数字遊びに陥っている姿は美しくない。

 “虚像”が支配する政治は危険だ。そもそも政治は算術の世界ではない。<ハンギョレ>が関心を持つべき部分だ。

コ・ヨンジェ言論人・前京郷(キョンヒャン)新聞社社長

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https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/621155.html 韓国語原文入力:2014/01/24 10:32
訳A.K(3335字)

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