韓国野党「国民の力」のチャン・ドンヒョク代表は先月8日、ソウル外国記者クラブの招きで海外メディア記者懇談会に出席し、「李在明(イ・ジェミョン)大統領は在韓米軍を外国の軍隊と呼び、戦時作戦統制権(戦作権)の移管も性急に進めている」とし、「在韓米軍の撤退を考えているのではないかと多くの国民が心配している」と指摘した。
このような主張は論理的にも現実的にも説得力が弱い。
戦作権の返還と在韓米軍の削減・撤退は、軍事的・戦略的論理構造のうえで必然的ではなく、戦作権が返還されても在韓米軍が撤退する現実的な可能性は低い。戦作権の移管は韓米連合軍の指揮構造の変更であり、同盟の解体ではないからだ。米軍による韓国駐留の法的根拠は、1953年10月に締結された韓米相互防衛条約と1954年11月に締結された韓米合意議事録だ。
戦作権の移管は、戦作権返還後に韓米連合軍司令部(連合司)を代替する未来連合軍司令部の司令官を韓国軍の大将が、副司令官を米軍の大将が務めるなどの「指揮主導権」の移管を意味する。これは在韓米軍の地位や韓米相互防衛条約の効力喪失を意味するものではない。
戦作権が返還されたら在韓米軍が撤退するという論理が成立すれば、在日米軍はとっくに撤退していなければならない。在日米軍と日本の自衛隊はそれぞれ独立した指揮構造を維持している。在日米軍は自衛隊を作戦統制できないから撤退する、という話は出ていない。
現実的に在韓米軍は韓国のみを防衛するための軍隊ではなく、中国けん制およびインド太平洋戦略の遂行におて要となる米国の前方配備戦力だ。したがって戦作権が返還されるかどうかにかかわらず、米国の国益に応じて在韓米軍の駐留の必要性は維持される、というのが合理的な判断だ。米国のトランプ政権も国防戦略(NDS)において、中国の台頭と軍事力拡大への対応を戦略上の最優先事項としている。
在日米軍基地のある沖縄は中国の腰を刺す地域で、在韓米軍基地のある平沢(ピョンテク)は中国の首を刺す地域と呼ばれる。在韓米軍のブランソン司令官は先月22日、韓国のことを「中国に突き付けた短剣」と表現したが、具体的には平沢の在韓米軍基地が短剣の役割を果たしている。
京畿道平沢にある在韓米軍基地「キャンプ・ハンフリーズ」は、世界最大の海外米軍基地だ。キャンプ・ハンフリーズは中国に最も近い米軍基地で、平沢港、烏山(オサン)米空軍基地とともに、中国をけん制する米軍の東北アジアの軍事ハブとして機能している。同基地はソウルの汝矣島(ヨイド)の5倍、京畿道の板橋(パンギョ)新都市の1.6倍の14.67平方キロの面積があり、米軍の軍人や軍属などとその家族を最大で4万3000人収容している。2004年以降、全国各地の米軍基地がキャンプ・ハンフリーズに統合されてきた。韓国は建設費の92%を負担している。
キム・ドギュン元首都防衛司令官は「京畿道平沢の在韓米軍基地は中国をけん制するうえで非常に重要なため、過度に表現すれば在韓米軍に出て行けと言っても出て行かないだろう」と述べた。キャンプ・ハンフリーズは米国が中国を抑制しロシアをけん制しつつ、インド太平洋の戦力を運用するうえで不可欠な東北アジアの戦略的拠点だ、との説明だ。
キム元司令官は「今後、米国は国益上必要なら在韓米軍削減という決定を下すこともありうるが、それは米国の地域安全保障戦略の変化によるものにすぎず、戦作権返還とは無関係」だと語った。在韓米軍が撤退するのを恐れて戦作権の返還を無限に遅らせても、米軍の戦略的判断によっては在韓米軍が削減される可能性があるということだ。
在韓米軍の撤退や削減が、戦作権のような韓米関係というよりはほぼ米国の利害関係と世界戦略の変化にかかっていることは、解放以降の韓米関係が示している。在韓米軍は、1949年6月の完全撤退▽朝鮮戦争時に最大33万人だった米軍を停戦直後の1954年に8万5000人だけ残して撤退▽1971年の第7師団1万8000人撤退▽1978年の3400人削減▽1991~1992年の7000人削減▽2005年の9000人削減と、これまで6回にわたって全面撤退または削減が行われてきた。
1990年代初頭の7000人削減は、東アジア駐留米軍を減らす米国の「東アジア戦略構想」にもとづくもの。米国は国防予算の削減によって財政赤字を解消しようとしたのだ。2005年の9000人削減はテロとの戦い、イラク戦争を経て、米国による海外駐留米軍の再配置の一環として実施された。
米国は米軍の撤退や削減に関する政策を決定する際、韓国と合意したり、深い協議をおこなったりしたことはない。米国は1969年に「アジア問題はアジア人同士で」というニクソン・ドクトリンを発表するとともに、ベトナム戦争から手を引きはじめ、1971年には京畿道東豆川(トンドゥチョン)にあった在韓米軍第7師団も撤退した。当時、韓国は5万人の戦闘兵をベトナムに派遣して米国を支援していたが、米国は第7師団の撤退を強行した。
外交安全保障の元当局者は「戦作権が返還されると在韓米軍が撤退してしまうだろう」という主張について、「米軍が戦作権を持っていないと在韓米軍は撤退し、有事の際に積極的に介入してくれないだろうという漠然とした不安から生じたもの」だとして、「戦作権の返還が在韓米軍の削減や撤退を引き起こすという因果関係はない」と述べた。