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米軍のTHAADが中東に運ばれると防空網に穴?…「大事にはならない」=韓国

登録:2026-03-13 01:56 修正:2026-03-14 11:40
5日、慶尚北道星州郡の米軍THAAD基地で、防空兵器の発射機が空を向いている/聯合ニュース

 米国とイランとの戦争で、在韓米軍の防空兵器「パトリオット」と「THAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)」の中東への移送が現実のものとなったことで、領空防衛に空白が生じることが懸念されている。このような懸念を抱く側は、在韓米軍のパトリオットの空白は韓国軍の防空兵器である程度補えるが、THAADは必要不可欠で代替不可能なため、防空網に大きな穴が開くと主張する。

 このような主張が現実に合致するかどうかを考えるために、まずは朝鮮半島のミサイル防衛システムをみていこう。

 韓国のミサイル防衛システムは、ロケット推進の弾道ミサイルを対象としている。発射された弾道ミサイルは、水辺から投じられた石のように、上昇段階-中間段階-下降段階という放物線軌道を描く。弾道ミサイルの軌道を発射初期に検知して追跡すれば、着弾点と発射点の予測が可能となる。着弾点が予測できれば、相手のミサイルを撃墜する最適な迎撃ミサイルが選択できる。

 上昇段階や中間段階にある弾道ミサイルを狙う迎撃兵器は存在しない。朝鮮半島は南北に短く、北朝鮮が発射した弾道ミサイルは5分以内に韓国に飛んでくるため、上昇-中間段階で北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃するには余裕がなさすぎるからだ。

 韓国のミサイル防衛網は3つ目の下降段階に集中している。下降段階の高度を高高度、中高度、低高度に分け、迎撃ミサイルを密に配置する多層防衛システムを構築しているのだ。具体的には、パトリオット2(20キロ前後の低高度)▽天弓(チョングン)2とパトリオット3(30~40キロ前後の中高度)▽THAAD(40~150キロの高高度)からなる三重の防空網だ。THAADに「高高度」という名が付いているのは、中高度や低高度の迎撃ミサイルと区別するためだ。

韓国の多層ミサイル防衛システム=国防部提供//ハンギョレ新聞社

 防空網の空白を懸念する側も、在韓米軍のパトリオットの移送による空白は深刻ではないと評している。

 米国で開発されたパトリオットは、1991年の湾岸戦争でイラクのミサイルを迎撃したことで有名になった。国内に持ち込まれたのは1994年の第1次北朝鮮核危機の時で、在韓米軍基地の防衛用としてだった。現在も在韓米軍のパトリオット発射機は、京畿道平沢(ピョンテク)などの韓国国内の米軍基地の周辺に配備されている。パトリオットは地域全体を広範に守るのではなく、主要施設を「ピンポイント」で防衛する(拠点防衛)。

 2000年代初頭まではパトリオットを保有しているのは在韓米軍だけで、在韓米軍のミサイル防衛における比重は絶対的だった。韓国軍は2006年に航空機の迎撃が可能なパトリオット(PAC-2)を導入し、2010年代後半には弾道ミサイルの迎撃も可能なパトリオット(PAC-3)も導入。韓国空軍のパトリオット発射機は、大統領府などの首都圏の重要施設を守っている。

 在韓米軍は8台のパトリオット発射機を保有しており、韓国軍にも在韓米軍以上のパトリオット発射機があるとされる。韓国は近年、国産の地対空ミサイルシステム「天弓2(M-SAM)」も保有している。天弓2は韓国が独自開発した国産兵器だ。防衛大国とされるイスラエルと欧州も米国と共同でミサイル迎撃システムを開発したほど、世界的にみてもミサイル迎撃兵器を独自開発した国は少ない。

 李在明(イ・ジェミョン)大統領が今月10日の国務会議で、在韓米軍の防空兵器の中東移送に言及しつつ、「北朝鮮抑止戦略に深刻な障害が生じたかと問われれば、私は『まったくそうなってはいない』と申しあげられる」、「まったく懸念する必要はない」と述べた背景には、こうした韓国軍自体の防空戦力がある。

今月8日、京畿道平沢にある在韓米軍基地「キャンプ・ハンプリーズ」に、パトリオットが配備されている/聯合ニュース

 このところの防空網空白論争の焦点は、パトリオットからTHAADに移っている。THAADは領空防衛に不可欠であるにもかかわらず、韓国から運び出されてしまうとパトリオットとは異なり代替戦力がないというのだ。「韓国版THAAD」と呼ばれる国産の長距離地対空ミサイル(L-SAM)が実戦配備されるのは、来年ごろになる予定。少なくとも来年までは、韓国軍の防空戦力ではTHAADを代替できないのは事実だ。

 THAADが領空防衛に必要不可欠かについては、検討が必要だ。

 THAADが絶対に必要だと主張する側は、北朝鮮が高角発射した中長距離ミサイルはTHAAD以外では防げないと語る。これに対しては、相対的に安価なスカッドミサイルのような短距離ミサイルを大量に保有している北朝鮮が、わざわざ高価な中距離ミサイルを韓国に向かって高角発射する理由を見つけるのは難しいという反論がある。

 北朝鮮が射程の長い中距離ミサイルを発射すると朝鮮半島を通り過ぎてしまうため、鴨緑江(アムノッカン)付近から通常の発射角度よりも高角度で発射しなければ韓国には落ちない。通常、弾道ミサイルは角度30~45度で発射されるが、高角発射は垂直に近い。これは射程を短くするために意図的に発射角度を高くするもの。北朝鮮は米国領のグアム、ハワイ、米国本土などを射程内に収める中長距離ミサイルの発射実験を行う際、高角に発射し、意図的に飛行距離を短くしてきた。それには、中長距離ミサイルの開発能力は高めるものの、米国をあまり刺激するようなことはしないという意図が込められている。

 一時は朴槿恵(パク・クネ)政権も、北朝鮮による射程距離3千キロ以上の舞水端(ムスダン)ミサイルの高角発射で首都圏が狙われる可能性を一蹴している。ハン・ミング国防部長官(当時)が2016年7月に国会で「北朝鮮にはミサイルの高角発射以外にも、ソウルを攻撃する火力と資産がある。スカッドミサイルだけでも数百」あるとして、「北朝鮮が正気であれば、舞水端ミサイルを高角で発射する理由はまったくない」と述べたのだ。朴槿恵政権が発行した「2016年防衛白書」も、「首都圏に脅威となる北朝鮮の弾道ミサイルはスカッド系で、飛行高度が低く飛行距離も短いため、THAADよりもパトリオットの方が有用な迎撃兵器システム」だと評している。

 米国の議会調査局(CRS)が2015年4月に発行した「アジア太平洋地域における弾道ミサイル防衛:協力と抵抗」と題する報告書は、THAADの朝鮮半島配備は日本と米国の防衛には役立つが、韓国にとっては助けにならない可能性があると主張している。この報告書は、韓国は北朝鮮と非常に近接しており、北朝鮮の弾道ミサイルは低軌道で飛行して数分以内に到達できるとして、上のように説明したのだ。

THAADは大きな傘だと説明する国防部の2016年の宣伝=国防部提供//ハンギョレ新聞社

 朴槿恵政権は2016年にTHAADの国内配備決定を公式に発表した際、「有事には北朝鮮のミサイルを、パトリオットや天弓2ミサイルの高度の上でTHAADがさらに防ぐ機会を得られる」と述べ、高高度での迎撃能力を有するTHAADを国内に配備することで、高度ごと、距離ごとの多層迎撃能力を備えるべきだと主張した。安全保障は最悪の状況を考慮しなければならないため、パトリオットが小さな傘だとしたら、その上にTHAADという大きな傘をもう一つ持てば、安全保障がより強固になる、という説明だった。

 そもそもTHAAD配備の論理は「なければ大変なことになる」ではなく、迎撃ミサイルは「多ければ多いほどよい」という補完概念に近いものだったのだ。

クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1249006.html韓国語原文入力:2026-03-12 15:51
訳D.K

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