「歴史においてこんにちのように多くの国が同時に権威主義化されたことはありませんでした。現在、民主主義の後退の規模は第2次世界大戦につながった1930年代に比べてもはるかに深刻です」
11日、スウェーデンのヨーテボリ大学「V-Dem研究所」(以下研究所)の所長で政治学者のスタファン・リンドバーグ教授(56)は、国連が指定した国際民主主義デー(15日)の前に行われたハンギョレとの電話インタビューで、このように述べた。世界中に押し寄せている権威主義化の波が短期間で引く可能性は低く、この流れが「ピークに達していない」ため、さらに懸念が大きいと同教授は説明した。
毎年179カ国の民主主義レベルを指数化して発表してきた同研究所は、5月の報告書で、91カ国を権威主義国家に、45カ国を権威主義化している国と分類した。権威主義国家の数が民主主義国家の数を上回ったのは2002年以後初めて。権威主義化は「言論の自由の弱体化」、「選挙の公正性毀損」、「権力集中」など、民主主義国家で関連指標が下がり、民主主義の質が後退することを意味するが、民主主義に分類された88カ国の半分以上が権威主義へと流れていることが分かった。
リンドバーグ教授は民主主義が後退する主な原因として、中国、ロシア、サウジアラビアの反民主主義▽極右・反動勢力運動の浮上▽社会・経済的不平等の拡大の長期化などを挙げた。そして、このような様相は、1930年代のナチスドイツと日本の膨張的野望が戦争として噴出する直前の姿に似ていると説明した。当時、ナチスは経済危機など大衆の不安を刺激して政権に就いた後、一党独裁に転換し、その後過激な民族主義と人種主義に基づいた前例のない暴圧的統治体制を構築した。
また、1980年以降、社会と経済における不平等が長期化し、大衆が極右反動勢力を支持する構造が作られ、民主主義の後退を加速化させたと分析した。教授は「社会・経済的不平等で未来に不安を感じる人のほうが、このような政党を支持する確率がはるかに高かった」とし、「現在私たちは最悪の社会的・経済的不平等を経験している」と述べた。
このような流れで民主主義の後退を克明に示す例として、ドナルド・トランプ大統領が政権に就いた米国を挙げた。社会的・経済的不平等を訴える市民に「国を再び偉大にする」というスローガンを掲げ支持を集めたということだ。教授は「米国のトランプ大統領はこのような戦略の代表的事例」だとし、「彼はロシアのウラジーミル・プーチン大統領が1990年代後半から2000年代初めにロシアで行ったことと同じ戦略を駆使している」と語った。これは、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相、インドのナレンドラ・モディ首相、トルコのレジェップ・エルドアン大統領、ブラジルのジャイール・ボルソナロ前大統領が構築した戦略とも同じだと補足した。
トランプ大統領が就任6カ月で米国を権威主義化できた理由は「雪だるま効果」のためだと同教授は説明する。過去には民主主義に対抗する国家が多くなく、「1990年当時は国際社会で民主主義の規点が依然として強力だった」という前提を述べたうえで「今はその『雪だるま』が大きくなって権威主義国家が増え、互いに協力までして民主主義を弱体化させている」と語った。
一時は、世界の民主主義の象徴だった米国に対しても「もはや民主主義国家ではない」とし、「米国は選挙権威主義体制」だと指摘した。選挙権威主義とは、形式上は選挙が存在するが、選挙が自由で公正でないため、実際の民主的競争が保障されない体制を意味する。さらに米国民主主義の後退要因の一つとしては「トランプ米大統領が(就任直後に)施行した最初の措置の一つとして、米国国際開発庁(USAID)の援助と国際的な民主主義・人権を支援するためのすべてのインフラと資金をなくした点」を挙げた。ここから全世界の親民主主義団体のための資金の半分以上が出ていたため、世界の民主主義にも莫大な損失だということだ。
リンドバーグ教授は、「米国がなくても民主主義は守れる」と自信を示した。「韓国やスウェーデンのような(民主主義)国家間の同盟と協力が強化されなければならない。外交と国際協定、貿易などを通じて連帯し、権威主義国家に立ち向かうべきだ」。さらに「欧州連合(EU)と東アジアの台湾・日本・フィリピン、ラテンアメリカのチリ・ブラジル、アフリカの南アフリカ共和国・ガーナなど、東西南北にグローバル連帯を形成しなければならない」とし、「すでにより強い連携を作ろうとする動きはあるが、そのスピードと強さをさらに強化すべきだ」と話した。
世界各国の著名な政治学者282人による尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の弾劾要求支持声明に参加したリンドバーグ教授は、韓国は以前「選挙民主主義」に降格されたものの、現在は「韓国の民主主義的欠陥は回復した」と評価した。教授は「韓国はこの10年間、二度の民主主義の危機を経験した。今回の危機のほうが最初のもの(朴槿恵国政壟断事態)よりさらに深刻だったが、政治・司法制度と市民社会が民主主義を守る力を見せ、これは肯定的なシグナルだ」と評価した。ただし、「依然として国民と政党の一部で反民主的行為を支持する動きは懸念すべき要素」だと指摘した。
また「少なくとも国家レベルで民主主義以外には他の代案がない」と語った。教授は「民主主義は少なくとも個人の尊厳を保護し、自ら選択した人生を生きる権利と、恣意的な拘禁や拷問から自由である権利を保障する唯一の体制」とし、私たちが自由に考えて望むことを保障される理由だと説明した。
リンドバーグ教授は民主主義の後退を事前に捉えるために「政党と指導者の言動を注意深く見なければならない」と語った。同教授は、政党・指導者たちが「マスコミの一部を『国民の敵』と呼び、野党を『正当性がない』とか『国家の敵』と主張する時には気をつけなければならない」とし、「このようなレトリックは通常、民主主義を弱体化させる行動へとつながる前兆」だと強調した。さらに政党・指導者たちが「市民社会に向かって、(マスコミが)『社会の安定と国家安保を脅かす』、したがって『解散させなければならない』と主張する時も同じだ」と述べた。