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ゲリマンダーが醸し出す米国の未来【特派員コラム】

登録:2025-08-09 02:00 修正:2025-08-09 12:58
キム・ウォンチョル|ワシントン特派員
今月4日、市民がテキサス州オースティンにある州知事官邸前で、連邦議会選挙区の再調整案に抗議している=オースティン/AP・聯合ニュース

 今月3日夜(現地時間)、民主党に所属するテキサス州下院の議員が、1人また1人と空港に集まってきました。秘密裏にチャーター機に乗り込んだ彼らは、2時間30分後、イリノイ州シカゴの記者会見場に姿を現します。「この身は議事堂にありませんが、職務を放棄したわけではありません。私たちは住民のために闘っているのです」(ジェームズ・テラリコ、オースティン地域選出の州下院議員)

 「ゲリマンダー」。教科書でしか見たことのないこの用語が、米国政局の台風の目となっています。来年の中間選挙で共和党が連邦下院の多数を維持しなければ自らの大統領職が安定しないと判断したトランプ大統領が、ゲリマンダー、つまり共和党に有利になるよう選挙区を人為的に操作せよとテキサス州知事らに指示したからです。

 テキサス州の連邦下院の議席数は38議席にのぼります。米国の州で2番目の多さです。そのうち民主党は「実に」12議席を占めています。トランプ大統領の目標は「選挙区の再調整による少なくとも5議席の追加確保」です。連邦下院で共和党は民主党よりわずか7議席多いに過ぎないため、5議席は米国の権力構造を左右しうる大きな数です。

 先に動いたのはテキサス州議会でした。秘密裏に行われた選挙区再調整の結果が先月末に公開されました。精巧で繊細に作り出された5つの共和党優勢地域が含まれていました。民主党の支持が強いオースティン、ヒューストン、ダラスなどの大都市圏を分散させ、共和党優勢地域と合わせてありました。新たに作られた5つの選挙区とともに、既存の共和党の現役議員の選挙区もやはり、すべて昨年の大統領選挙でトランプ候補の得票率が60%を超えるように調整された、「芸術」の境地に達した地図でした。意図は明白でした。

 テキサス州のグレッグ・アボット知事は直ちに州議会の特別会期を招集し、この案を上程しました。これこそ、州議会の150の議席のうち62議席を占めているため、修正定足数100議席を無力化する力を持つ民主党議員が集団脱走劇を繰り広げた背景です。テキサスは、州の上下院が選挙区案を可決し、州知事が署名すれば選挙区が確定します。

 民主党はテキサスを止めることができるでしょうか。簡単ではありません。州下院は無断欠席した議員に「同行命令状」を発行しました(これから逃れるためテキサスを離れたのです)。欠席の代価として罰金500ドルが毎日科されます(パートタイムのテキサス州議会議員の月給は600ドルほどです)。今月末までの特別会期が終了しても、州知事は改めて特別会期を招集できます。時間は共和党の味方です。

 焦りから、民主党の強い州であるニューヨーク州とカリフォルニア州が立ち上がりました。特にカリフォルニアは、テキサス州のように簡単に選挙区を調整することはできませんが、住民投票によって「ゲリマンダー」を来年の中間選挙前に行えます。テキサスで奪われた5議席をカリフォルニアでそっくり取り戻すことができるのです。5議席を譲り渡して5議席を取り戻せば、問題は解決するのでしょうか。

 もしかしたら、本当の問題はその後かもしれません。両党の露骨なゲリマンダーは競合地域を地図から消し去ります。ゲリマンダーが量産する「地盤」に頼る政治家が増えます。中道有権者の声を代弁する議員の数は減ります。中間選挙の結果よりも重要な、協同統治がほぼ不可能な、民主主義の根幹が揺らぐ入り口に、米国政治は立っているのかもしれません。

//ハンギョレ新聞社

キム・ウォンチョル|ワシントン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1212183.html韓国語原文入力:2025-08-07 19:02
訳D.K

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