最高裁は、野党「共に民主党」から大統領選に出馬するイ・ジェミョン候補の公職選挙法事件で、予想よりはるかに早い5月1日に判決を下すことを決めた。その背景には、政治的波紋を最小化するという計算があるとみられる。6月3日の大統領選挙の候補登録期間は来月10~11日で、12日から公式の選挙運動がはじまる。そのため、最高裁の判決は早くても来月8~9日ごろになるとの観測が流れたが、実際の判決日はそれより1週間早かった。イ候補の上告審の審理をおこなった最高裁判事全員の意見が、少なくとも「早期判決」については一致したわけだ。
イ候補の選挙法違反事件の上告審の審理は、前例のない速さで行われた。最高裁の担当小部が決まった今月22日には全員合議体への回付と同時に第1回合議が、2日後に第2回合議が行われた。通常、最高裁の全員合議体の合議は毎月第3木曜日に行われ、4月の合議日もすでに過ぎていたが、最高裁はイ候補の事件を審理する合議を2日間隔で別途おこなった。全員合議体は裁判所事務総長を除く最高裁判事全員が参加して結論を出すため、意見調整に時間がかかるが、イ候補の事件には例外が適用されたわけだ。こうして最高裁は、イ候補の事件について控訴審判決から36日後に結論を下すことになった。最高裁の関係者は29日のハンギョレの電話取材に対し、「選挙事件の上告審は3カ月以内に処理するという公職選挙法の原則に則り、チョ・ヒデ最高裁長官の就任後、選挙事件は最高裁の受理から平均90日以内に結論が下されてきた。今回の事件は平均より結論が早く出るもの」と述べた。
ソウル高裁の部長判事は、「有力な大統領候補の司法リスクに対して、最高裁として早く判断すべきだという意志が強く作用したもの」と指摘した。別の部長判事は「最高裁判事たちがこの事件の争点について簡単だと判断したのだ。全会一致の結果を必要とするわけでもないので、長くかかる理由はない」と述べた。全員合議体では採決によって過半数で結論を下す。今回の事件には、中央選挙管理委員長として回避を申請したノ・テアク判事と、裁判所事務総長のチョン・デヨプ判事を除く11人の判事、そして裁判長のチョ最高裁長官の12人がかかわっている。
7人以上の判事が上告を棄却すれば、イ候補は無罪が確定する。逆に控訴審判決には問題があるとの意見が多数を占めれば、最高裁は無罪判決を破棄し、事件をソウル高裁に差し戻すことになる。そうなった場合、イ候補は破棄差戻し審を経て、改めて最高裁の判決を得なければならない。100万ウォン以上の罰金刑か懲役刑が確定すれば、イ候補は今回の大統領選挙に出馬できない。最高裁が有罪判決を下し、刑量まで確定する破棄自判も理論的にはありうるが、そのようなケースは極めてまれだ。首都圏の裁判所のある部長判事は、「この事件は控訴審での起訴状の変更などの事情変更があったため、(一審の判断に沿って)自信を持って破棄自判する可能性はない」と述べた。
最高裁判所が事件を破棄して差し戻し、最終結論が大統領選挙までに下されず、イ候補が大統領に当選した場合は、イ候補の選挙法事件の裁判が中止されるべきかどうかをめぐって議論が起こる可能性がある。現職大統領には不訴追特権(憲法84条)があるが、この条項が既存の裁判にまで適用されるかをめぐっては意見が分かれるからだ。
選挙法違反事件でイ候補の無罪が確定したとしても、イ候補にはまだ4つの事件の裁判が残る。イ候補が大統領に当選しても、依然として物議を醸しうるわけだ。そのため法曹界からは、イ候補の選挙法違反事件の上告審の審理を迅速に進めた最高裁が、判決文に補足意見などのかたちで憲法84条の解釈を記す可能性があるとの予測も示されている。