「伝貰(チョンセ:契約時に高額の保証金を家主に預けることによって、月々の家賃が発生しない不動産賃貸方式)詐欺の発生前と比べると、80%はお客さんが減りました。ここで20年間、仲介業を営んできましたが、こんなことは初めてです」
今月6日、ソウル冠岳区新林洞(クァナック・シルリムドン)で不動産仲介業を営む公認仲介士のKさんは、深いため息をつきながらこう語った。Kさんは「伝貰詐欺の恐怖から、若者層の客足がぱったり途絶えた」として、「さらに大きな問題は、契約満了で退去する人は列をなしているのに新しい借家人は見つからないため、(既存の借家人に)保証金が返せないという悪循環が発生していること」と語った。
ハンギョレは、ソウルで伝貰詐欺の被害にあった住宅が最も多い地域であることが集計で明らかになった冠岳区一帯の10軒あまりの不動産仲介業者を訪ねた。冠岳区の仲介業者たちは、伝貰詐欺問題が起きる前と比べ、客が少なくとも半分以下に減ったと口をそろえた。
冠岳区はソウル大学があり、大学街である新村(シンチョン)などに通学しやすい地下鉄2号線が通っているうえ、比較的安いワンルームやオフィステルが集まっているため、大学生、新社会人などの若者層が多く住んでいる地域だった。しかし伝貰詐欺が吹き荒れてからは、状況が完全に変わった。国土交通部の「基礎自治体別伝貰詐欺被害住宅所在地の状況」によると、先月2日現在でソウルの伝貰詐欺被害件数は6001世帯で、その中で冠岳区は1334世帯を占め、被害が最も多かった。
新林洞で不動産仲介業を営んで数年になる公認仲介士のクォン・イクチュンさんは、「伝貰での借家人が見つからず競売に出された家は1軒や2軒では済まない」として、「伝貰のお客さんが来ても、ほとんどが伝貰保証金返還保証保険に加入できる家を探しているので、契約締結につながりにくい」と説明した。伝貰金返還保証保険は、伝貰契約の終了後も保証金を返還してもらえない場合に、家主に代わって住宅都市保証公社(HUG)が支給する制度。高水準の伝貰金返還保証が伝貰詐欺に悪用されているとして、昨年にHUGが保証加入基準を大幅に厳格化したことで、かなりの数のヴィラ(小規模な集合住宅)が保証加入要件を満たせなくなった。C不動産仲介会社のイ・サンフン部長は、「伝貰詐欺が問題になってからは伝貰住宅の広告も出さずにいる。お客さんも半伝貰(伝貰よりも少ない保証金と月々の家賃を組み合わせた賃貸)や月家賃の賃貸を求めている」と語った。
冠岳区では今も伝貰詐欺の疑われる事件が絶えない。今年9月、奉天洞(ポンチョンドン)一帯にヴィラとオフィステルを多数所有していた70代の家主が、100億ウォン規模の保証金を返せず、借家人に告訴されている。また同月には、「無資本ギャップ投資」方式で事業を展開していた50代の賃貸事業者が伝貰契約の終了した借家人に30億ウォンの保証金を返さなかったため、警察に立件されている。
伝貰詐欺の不安の高まりには、家主ももどかしい胸の内を訴えている。集合住宅を所有するAさん(50)は、「退去しようとしている借家人は多いが入居しようとする人はいないので、やむを得ず銀行から融資を受けて伝貰を月家賃に転換した」とし、「それでも手に負えなくなり、建物を売ろうと思っている」と話した。すでに伝貰住宅に住んでいる若者たちも不安を訴える。大学生のMさん(24)は「来年初めに契約満了だが、家を見に来る人はほとんどいない。家主から新しい借家人が現れなければ保証金の返還は難しいかもしれないと言われ、心配だ」と話した。会社員のKさん(33)は「契約が満了したら、少し高くても他の地域に引っ越す計画。伝貰詐欺はもはや他人事だとは思えない」と話した。