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「あの時、人が死んだのに…」惨めでもなお半地下に住むわけ=韓国

登録:2024-07-04 08:55 修正:2024-07-04 09:54
2022年新林洞半地下浸水被害者ラジオインタビュー
2022年8月8日、ソウル冠岳区新林洞のある低層集合住宅の半地下で、40代の姉妹と10代の女児1人が豪雨のため亡くなった。写真はその翌日午前の同住宅の様子=ペク・ソア記者//ハンギョレ新聞社

 「大雨の日は不安です。惨めな気持ちになるんです。余裕があったらどんなによいかとも思います」

 2022年8月8日夜の集中豪雨により、ソウル冠岳区新林洞(クァナック・シルリムドン)のある集合住宅で発達障害を抱える一家3人が半地下に閉じ込められて死亡した。同じ日、銅雀区上道洞(トンジャック・サンドドン)でも半地下の住宅が浸水し、外に出られなくなった50代の女性が遺体で発見された。2年前に同一の浸水被害を受けた家族は、今も半地下を抜け出せずにいた。

 2022年の新林洞の半地下浸水の被害者である市民のAさんは3日、CBSラジオの番組「キム・ヒョンジョンのニュースショー」のインタビューで、「私は別の場所で暮らしているが、息子はいまも半地下に住んでいる」と語った。

 「浸水時のトラウマが強いはずなのに、どうしてそこに住み続けているのか」と司会者に問われると、Aさんは「地上と半地下では家賃が3倍以上違う。(半地下では)20万~30万ウォン(約2万3000~3万4000円)払えば1カ月いられるが、他の場所は60万ウォン、70万ウォン、多いと100万ウォン払わなければならないし、若者たちは(半地下に)住まざるを得ない」と答えた。

 本格的な梅雨にさしかかり、Aさんはとても不安だと語った。Aさんは「大雨の時は息子に私の家に来て泊まっていけと言っている。(2年前、うちの近くで)人が死んだから。とても惨めな気持ちだ。余裕があったらどんなによいかという気もする」と話した。

2022年8月8日夜、ソウル冠岳区新林洞のある低層集合住宅の半地下が豪雨で浸水し、一家3人が閉じ込められた。通報はしたものの、一家は死亡した/聯合ニュース

 Aさんは2022年8月にも、同番組のインタビューで、一家3人が死亡した半地下住宅から約100メートル離れた場所に住んでいると明かしている。その際、Aさんは「映画『パラサイト』には便器から汚物が逆流するシーンがあるが、それを自分の目で見た。汚物の中から息子と貴重品を持って外に出た時、息子に『お父さん、あまりにも惨めです』と言われた。その言葉を聞いて、父親としてとても惨めだった」と吐露している。

 最後にAさんは、公共賃貸住宅の拡充を求めた。Aさんは、「どうにかして公共(賃貸)住宅をたくさん作って、若者がより快適な環境で過ごせるようにすることが最も急務だと思う」と訴えた。

 2022年にソウル冠岳区と銅雀区の半地下住宅で、劣悪な居住環境のせいで市民の命が失われたことを受け、半地下に住む世帯を地上の「安全な家」に移動させる「住居のはしご」を十分に整えることこそ根本的な対策だと専門家らは口をそろえて指摘している。しかし、公共賃貸住宅は戸数が常に不足している。この日、同番組に出演した都市研究所のチェ・ウニョン所長も、「公共賃貸住宅は、需要は多いが供給がなされないため、若者の場合、競争率は数百対1。半地下(の居住者が)望んでも、誰もが転居できる状況ではない」と指摘した。2020年の統計庁の人口住宅総調査によると、全国の半地下世帯は32万7320世帯で、うち61.4%に当たる20万849世帯がソウルに住んでいた。

 水止め板などの浸水防止設備の設置もまだ不十分だ。先月16日にハンギョレが情報公開を請求して受け取ったソウル市の「各自治区の浸水防止設備設置実績」では、ソウル市は5月31日現在で浸水の懸念される1万5100戸の半地下住宅に水止め板と逆流防止器を設置しており、設置率は100%としている。しかしこれは、昨年ソウル市が浸水防止設備が必要だと明らかにした2万8537戸にはるかに満たない数値だ。

尹錫悦大統領が2022年8月9日、ソウル冠岳区新林洞の浸水被害現場を視察している=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 一方、大統領室は2022年、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が新林洞の「半地下障害者家族惨事現場」を訪問した際の写真を国政広報用のカードニュースに使用したことが批判を浴びたことを受け、謝罪のうえ同ニュースを削除している。このカードニュースには、尹大統領が半地下住宅の窓の前にしゃがんでソウル消防災害本部のチェ・テヨン本部長から状況報告を受けている様子を写した写真の上に、「国民の安全が最優先です。迅速な復旧、被害支援と共に、住居脆弱地域を集中点検し、脆弱階層に対する確実な住居安全支援対策を早急に整備します」という説明が記されていた。このカードニュースの公開後、SNSなどでは「悲惨な現場を見世物にしている」などの批判が相次いだ。

チョン・ボンビ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1147528.html韓国語原文入力:2024-07-03 13:34
訳D.K

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