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[現場から]「ベトナム戦争での虐殺は全部うそ」と主張する韓国政府(2)

登録:2024-01-22 00:19 修正:2024-01-22 03:08
2023年2月7日、一審での勝訴直後、韓ベ平和財団のクォン・ヒョヌ事務処長(左)と原告代理人団のイム・ジェソン弁護士が、ノートパソコンでベトナムにいる原告のグエン・ティ・タンさんに感想を聞いている=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

(1の続き)

政府代理人団、補強はしたものの準備はずさん

 政府代理人団は人員を大幅に増強したが、準備はお粗末に見えた。グエン・ティ・タンさんが韓国軍の銃撃で負傷し、76人の村民が亡くなった1968年2月12日のフォンニィ・フォンニャット事件について、政府弁護団は「グエン・ティ・タンとその兄の陳述だけを聞いた」とおとしめた。だが、事件現場を直に目撃した村の住民、韓国兵、米兵など、数多くの人々の陳述が一審で提出されている。作戦を遂行した韓国軍の参戦軍人が自ら法廷で証言してもいる。政府代理人団はこれらの証拠を知らないか、わざと無視したのだ。

 唯一の新たな主張は「韓ベトナム請求権協定」だ。政府弁護団は「韓ベトナム請求権協定を参照し、そこから法的議論がなされるべきだが、原審では韓ベトナム軍事実務約定書ばかりが語られ、前者についての議論がまったくなかった」と指摘する。韓ベトナム請求権協定とは、1967年1月16日に締結された「大韓民国政府とベトナム共和国(南ベトナム)政府との間の軍隊構成員による公務執行中の人命被害および政府財産の損失に対する請求権協定」のこと。

 政府代理人団の主張どおり、両国の間で結ばれた請求権協定は原審で扱われなかったが、有効ではないというのが原告側代理人団の説明だ。原告側代理人団のイム・ジェソン弁護士は「協定そのものに個人の請求権を消滅させるなどの内容がまったくなく、請求権協定後に締結された1969年の実務約定書には『個人の請求権は影響を受けない』という内容が明示されている」と語る。イム弁護士はまた「韓ベトナム請求権協定については一審で主張もできていなかったのに、今になっておこなっており、果ては協定にもない内容なので、無理やり過ぎる」と付け加えた。

 一審で政府代理人団は、請求権協定ではなく韓ベトナム軍事実務約定書を「提訴排除」の根拠として掲げた。しかし一審は「実務約定書などだけでベトナム政府が自国民の被害者の損害賠償請求権を放棄したとか、国家間合意にもとづく賠償方式以外の、被害者が直に大韓民国の裁判所に訴訟を提起する権利を放棄したと考えることはできない」との判決を下している。

1969年10月20日に改正された韓ベトナム軍事実務者約定書の請求権についての記述//ハンギョレ新聞社

相互保証、消滅時効などの同じ論理の繰り返し

 その他にも政府代理人団は相互保証や消滅時効などを語るが、これもやはり一審が明快に結論を下している。相互保証は、ベトナム人が賠償を受けるのと同様に、ベトナム戦争で負傷した韓国兵がベトナム政府に損害賠償を求められるのか、という問題だ。一審は「当該の外国において具体的に大韓民国の国民に国家賠償請求を認めた例がなくても、実際に認められると期待しうる状態であれば十分だ」として政府の主張を退けた。消滅時効についても「この事件の被告(大韓民国)が時効の完成を主張するのは権利乱用に当たる」とした。被害者に損害賠償請求などの権利を行使できない障害事由がある場合は、国家が消滅時効を主張してはならない、という最高裁の判例に則り、政府の消滅時効主張を退けたのだ。

 政府代理人団の主張の中で注目されるのは「加害者が特定できない」という部分だ。「特定もできない1人の加害者」という表現も用いている。「このように人が死んだり怪我したりした重大な不法行為において、人物を特定することもできない場合に、責任を認めることがどうしてできようか。なぜなら人物を特定してはじめて、故意だったのか過失があったのかが分かるからだ」

 村の住民たちが銃撃された当時、そこにいた部隊は海兵隊第2旅団(青龍部隊)第1大隊第1中隊だったということは、すでに2000年に報道によってだけでなく、同年に秘密解除された米国防総省の文書からも明らかになっている。

 しかし政府代理人団は、銃を撃った兵士の名前と軍番ぐらいは分かっていないと、国家責任を認めることはできないと主張する。1950年代の朝鮮戦争期の軍や警察による民間人虐殺事件でも、加害兵士が特定されたことはほとんどない。部隊の特定だけでも事実関係の立証は十分だ。国家情報院による不法拘禁と人権侵害事件でも、捜査官の実名を特定してはじめて国家責任が認められるという判決が出たことはない。

2021年8月、ソウル鍾路区恵化洞のベトナム戦争民間人虐殺をテーマにした演劇公演の会場前で、ある参戦軍人が1人デモをおこなっている=コ・ギョンテ記者//ハンギョレ新聞社

ベトナム人は56年間もうその口裏合わせをしていたのか

 賠償問題はひとまず置くにしても、政府代理人団の結論は基本的に「原告の主張は信用できない」というものだ。準備書面では、ベトナム側の資料は「共産党の資料」だから信じられないとも記している。この主張が正しいなら、グエン・ティ・タンさんをはじめとするフォンニィ・フォンニャット村の住民たちは、1968年2月12日の事件当日から組織的かつ知能的に口裏を合わせて56年間もうそをついてきた、ということになる。ハンギョレは2001年に現場を訪ね、そのようなうそによって大韓民国に対して国家賠償訴訟を起こすようあおり、ついにグエン・ティ・タンさんを韓国の裁判所にまで来させた、というわけだ。

 控訴審の裁判長は控訴理由をすべて聞いた後、「(政府代理人団は)各争点で争うという趣旨」、「証拠の信ぴょう性が重要だが、何をするつもりなのか」と問うた。政府代理人団は「証人を様々な方面で模索している。確定すれば証人を申請する」と述べた。原告側の代理人団は、政府代理人団の証人が決まれば、それに合わせて対応すると述べた。同日、参戦軍人団体「大韓民国枯葉剤戦友会」による裁判補助参加申請は認められなかった。控訴審は2月の裁判所の人事で判事の構成が変更される予定だ。次の口頭弁論は4月5日午前10時から。

コ・ギョンテ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1125226.html韓国語原文入力:2024-01-21 11:27
訳D.K

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