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「尹錫悦式の第三者弁済、世界外交史に記録されるべき問題ある解決策」(1)

登録:2023-03-23 03:58 修正:2023-03-27 07:30
[ハンギョレ21]韓国外交・安保の道を模索した『チョン・セヒョンの洞察』を出版したチョン・セヒョン元統一部長官 
「『セルフ賠償』は日本が自分の手を使わず事を処理したもの…大統領の哲学と参謀の後押しがあってはじめて自主外交」
チョン・セヒョン元統一部長官が2023年3月15日、ソウル麻浦区孔徳洞の韓国統一協会の事務所で、自らの対北朝鮮政策の経験と外交哲学を語っている//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が日帝強占期の強制動員被害者に対して韓国企業の寄付金で賠償する「第三者弁済」方式を推し進め、波紋が広がっている。

 2023年3月16日、尹錫悦大統領は日本を訪問し、岸田文雄首相と首脳会談を行った。韓国政府が自主的に賠償問題を解決する方策を双方が公式に確認し、日本に免罪符を与えた。4月には米国ワシントンで韓米首脳会談、5月には日本の広島で韓米日首脳会議が相次いで行われる見通しだ。これは尹錫悦式の「セルフ賠償」解決策を公認し、韓米日3カ国同盟を固める過程だ。

 韓国政府は3月6日、2018年に最高裁(大法院)で勝訴した強制動員被害者に対して、韓国企業の寄付金で賠償すると発表した。日本政府の謝罪や戦犯企業の賠償参加は含まれなかった。日本の政府とメディアは歓迎した。米国も、韓国政府の発表からわずか1時間あまりでジョー・バイデン大統領とトニー・ブリンケン国務長官が相次いで歓迎の声明を発表した。しかし韓国では、被害当事者が「そのような金は受け取らない」として、日本に心からの謝罪と賠償を重ねて求めた。市民社会団体からも、いわゆる「セルフ賠償」は韓国最高裁判決を無視する屈辱的外交であるばかりでなく、今後の韓日関係をより一層こじらせる最悪の決定だとの批判があふれている。

 国防部は2月、尹錫悦政権初の国防白書で「北朝鮮政権と北朝鮮軍は我々の敵」と明示した。文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に削除された文言を6年ぶりに復活させたのだ。尹錫悦政権が発足するやいなや朝鮮半島は急激に安保危機に陥り、外交は「親米一辺倒」との批判を受けている。何が問題なのだろうか。

韓日首脳会談を控えた2023年3月15日、ソウル中区のプレスセンターで韓日歴史正義平和行動の主催で行われた記者会見で、ハム・セウン神父(前列中央)ら参加者たちが尹錫悦政権の強制動員解決策の無効と謝罪賠償を求めている/聯合ニュース

 ハンギョレは、金泳三(キム・ヨンサム)政権と金大中(キム・デジュン)政権で対北朝鮮・統一政策を主導したチョン・セヒョン元統一部長官にインタビューを行った。チョン元長官は最近、新冷戦と表現される国際秩序の激変期における韓国の外交・安保の道を模索した『チョン・セヒョンの洞察』という本を出した。チョン元長官とのインタビューは3月15日午後、ソウル麻浦区(マポグ)の韓国統一協会の事務所で行われた。同氏は現在、元・現職の統一部公務員が主軸となっている韓国統一協会の会長を務めている。

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加害者に「何もしなくてもいい」

-3月16日に尹錫悦大統領が訪日し、岸田文雄首相と首脳会談を行った。どう評価するか。

 「日本が望むことを自ら進んですべて受け入れた会談だった。にもかかわらず、外交プロトコル(儀典)の面でも待遇は悪かった。尹錫悦大統領個人が冷遇されたのではなく大韓民国が冷遇されたのだ。国会で問わなければならない問題だ。時遅き対処だとか、尹錫悦政権を批判するためではなく、大韓民国の国の品格を取り戻し、今後政権交代が起こった時に後続交渉の助けとするためにも、国会は問うべきだ」

-尹錫悦政権がここまで日本に屈しなければならないのはなぜか。

 「米国がインド太平洋戦略の観点から韓米日関係を緊密にするという戦略を着々と進めている過程だと考えるべきだ。それにしても、どうしてあのように慌てて拙速に交渉したのか疑問だ。日本は自分の手を使わず事を済ませたようなものだ。国の体面は傷つき、韓日関係で韓国の国益をすべて放棄し、米国の望み通りに岸田首相の前にご馳走を並べた。日本の責任が抜け落ちている第三者弁済案は、内容面では日本が要求してきた通りを受け入れたものであり、形式面では『もうすべてが解決されたのだから覆い隠して未来へと向かおう』というのは米国の要求だと思う」

-そのような構図は置いておくとしても、「第三者弁済」という解決策に妥当性はあるのか。

 「あれのどこが解決策なのか。意地を通しただけだ。尹錫悦式の解決策は『我々が日本に支配されることになったことからして我々の過ちだった』というふうにはじまる。そして、『我々のせいなのだから我々が解決する』というわけだ。被害者が加害者に賠償を要求するのではなく、被害者が自分にセルフ賠償しつつ、加害者には『何もしなくても良い』と言ったわけで、これは世界の外交史の『新紀元』として記録されるほど問題のある解決策だ」

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米国の言うとおりについて来いということ

-尹錫悦大統領は就任直後に米国のバイデン大統領と初の首脳会談を行った後、「韓米関係をグローバル包括的戦略同盟へと発展させることで」合意したと述べた。「グローバル包括的戦略同盟」の具体的な意味とは。

 「外交では、言葉が華やかであればあるほど多くの伏線が張られている。修辞的表現の真意を把握し、相手の意中を推し量らなければならない。『グローバル』とは、米国中心の国際秩序の中で韓国を下位パートナーとして導いていくということを美化したものだ。『包括的』という言葉にも落とし穴がある。あらゆる部門で米国の言うとおりについて来いという意味だ」

-一方的すぎる解釈ではないか。

 「韓米関係は1953年に米国が韓国の安保を助ける軍事同盟として始まった。今の韓国は、過去とは異なり世界10位の経済大国、世界6位の軍事大国となっている。米国はまだ『パックス・アメリカ―ナ(Pax Americana)』体制を維持しているが、中国の挑戦は激しい。しかし今や、韓国は米国に面倒を見てもらった国から、米国を助けるほどの力を持つ国となったため、これまで韓国の安保に投資してきた分を回収するという修辞的表現こそ、グローバル包括的戦略同盟だ」

チョン・セヒョン元統一部長官が2023年3月15日、ソウル麻浦区の韓国統一協会の事務所でハンギョレ21のインタビューに応じている。同氏は最近、自身の対北朝鮮政策の経験と外交哲学を記した本『チョン・セヒョンの洞察』(右にあるのはその模型)を出版した//ハンギョレ新聞社

-尹錫悦大統領が好んで使う単語がある。自由民主主義、価値同盟、価値外交がそれだ。これらをどう解釈するか。

 「あらゆる国の目標は、第1にセキュリティー(Security。安全保障)、第2にプロスペリティー(Prosperity。経済的繁栄)、第3にオーソリティー(Authority。国の格、権威)だ。安保は自主国防が基本だ。自力だけで不安な時の補助手段が同盟だ。だが安保同盟を『価値同盟』にまで拡大してしまえば、繁栄と権威をも同盟ひとつにまとめてしまうということだ。同盟による経済的繁栄? 今はむしろ安保で米国は韓国に味方する代わりに、韓国に対する経済的要求がどれほど多いことか。価値同盟は我々の繁栄を侵害することまで正当化しうる毒素的含意がある。自由民主主義もそうだ。一国の体制には自由民主主義だけがあるわけではない。大きく分けて自由民主主義、社会民主主義、人民民主主義の3つがあるとしよう。北欧諸国は社会民主主義を掲げて豊かに暮らしている。彼らが追求する価値は、米国の価値とも少し異なる。中国も目指す価値がある。自由民主主義という言葉は、米国式の体制こそ最高だという前提が下敷きになっている」

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「価値同盟」には毒素的含意がある

-2022年11月に尹錫悦政権は「自由・平和・繁栄」を3大ビジョンとして掲げた「韓国版インド太平洋戦略」を発表した。

 「国際政治において平和とは、軍事的衝突の危険性がある関係国や近隣諸国の間で戦争が起きていない状態だと言える。平和は『ピースキーピング(Peace Keeping。平和を守ること)』が基本だが、それだけでは永続的な平和はやって来ない。ピースキーピングにとどまらない積極的な『ピースメイキング(Peace Making。平和づくり)』を行うべきだ。ところが尹錫悦政権は、米国中心のピースキーピングのための韓米軍事協力のことを『平和』という意味として概念規定した。繁栄も、米国的経済秩序の中でこそ韓国は豊かに暮らせるというニュアンスが含まれる。一言で言えば米国中心、米国偏向的な対外政策を展開するということを、そういうふうに隠しているのだ」

-尹錫悦政権の対外政策は米国の価値から抜け出せないということか。

 「大韓民国は米国による朝鮮戦争での支援と戦後の経済援助のおかげで豊かになる機会をつかんだ。今は米国の支援に頼らず独自に生きていく能力を備えていると思う。しかし保守的な政治意識を持つ国民と政治家たちは、朝鮮時代の知識人と官僚が持っていた小中華思想を持っていたり、明に対する再造之恩(滅亡の危機を救ってもらった恩)のような弱小国の口癖が今もあったりする。価値同盟だとか包括的グローバル同盟だとか、このように米国に引きずり回されるのはやめよう、主体性ある外交をしようということだ」

(2につづく)

文/チョ・イルチュン先任記者、写真/キム・ジンス先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/1084172.html韓国語原文入力:2023-03-19 11:09
訳D.K

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