韓国政府は、ベトナム戦争中の韓国軍による民間人虐殺被害に対する国の損害賠償責任を認めた一審判決を不服として控訴した。ベトナム外務省は「韓国政府が控訴したことを非常に遺憾に思う」と述べた。
韓国政府は9日、ソウル中央地裁民事68単独に控訴状を提出した。先月7日、裁判部はベトナム人グエン・ティ・タンさん(63)が韓国政府を相手取って起こした損害賠償訴訟で原告勝訴の判決を下した。裁判所は「被告大韓民国は原告に3千万100ウォンと、これに対する遅延損害金を支給せよ」と命じた。ベトナム民間人虐殺事件が発生してから55年にして下された、韓国政府の賠償責任を認めた初の司法判断だった。
1968年2月、当時8歳だったグエン・ティ・タンさんはベトナムのクアンナム省ディエンバン市ディエンアン区フォンニィ・フォンニャット村の自宅近くで、韓国軍青龍部隊所属の兵士たちに左脇腹を銃撃されて重傷を負った。手術で命はとりとめたものの、今も後遺症に苦しんでいる。この事件で家族5人が命を奪われ、14歳だった兄は大けがをした。グエン・ティ・タンさんは「民間人虐殺を韓国政府が認めることのみが、被害者の苦しみを和らげられる。私をはじめ多くの被害者の名誉が回復されることを願う」として2020年4月に韓国政府を提訴した。
裁判の過程で政府は、韓国軍が加害者だという事実は認められないと主張した。また政府は、ゲリラ戦が展開されたベトナム戦争の特性上、民間人とベトコンの兵士が区別できなかったために発生した正当な行為だったとも主張したが、裁判所はベトナム戦争参戦軍人、当時の村の民兵隊員などの証言や様々な証拠をもとに、韓国軍によるベトナム民間人虐殺を事実と認めた。この判決はベトナム民間人虐殺に対する韓国政府の賠償責任を認めた初の司法判断だった。
この日、ベトナム外務省のファム・トゥ・ハン副報道官は午後の定例記者会見で、韓国政府の控訴について「非常に遺憾」だとし「包括的戦略的パートナー関係の精神に則り、ベトナムは韓国に歴史的事実を正しく認識し、尊重することを要請する」と述べた。また「ベトナムは、過去は乗り越えて未来へと向かおうという方針だが、それは真実を否定するという意味ではない」と強調した。