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「強制動員の韓国政府の解決策、憲法精神に反する」

登録:2023-01-15 23:04 修正:2023-02-01 04:52
[インタビュー]キム・チャンロク|慶北大学法学専門大学院教授
慶北大学法学専門大学院のキム・チャンロク教授//ハンギョレ新聞社

 「2018年の大法院(最高裁)の強制動員判決の核心となるメッセージは『日帝の朝鮮半島支配は不法な強制占領であり、強制動員は1965年の韓日請求権協定の適用対象ではない』という点だ。残念ながら、この核心となるメッセージは、日本ではもちろん、韓国でもほとんど注目されないでいる。どちらかというと、努めて無視されているというほうがより適切な表現だろう。その理由は、まさにその核心となるメッセージこそ韓日関係の根本に対する大きな『法的な話題』だからだ」

 慶北大学法学専門大学院のキム・チャンロク教授は、昨年7月に出した『大法院の強制動員判決ー核心は『不法な強制占領」だ』(知識産業社)の前書きにそう書いた。発足直後の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が「韓日関係正常化」を強調し、強制動員被害者への賠償問題の解決策を設けるための官民協議会を発足させた頃だ。その後、政府は、9月までに合わせて4回の官民協議会を開き、日本側と各級レベルでの協議を続けてきた。

 政府が韓日関係正常化を急ぐ最大の名分は、北朝鮮の核とミサイルの脅威に対する共同対応などの安全保障での協力の必要性だ。そのためには、2018年10月の韓国最高裁の強制動員被害者に対する賠償の確定判決以降、輸出規制などの日本側の報復措置が続き「国交正常化以降最悪」にまでエスカレートした韓日関係を復元しなければならないと主張している。

 特に、最高裁の確定判決を履行しないでいる日本の戦犯企業の韓国内資産売却(強制執行)の手続きが始まれば「韓日関係が破綻するだろう」という話まで出てきている。政府が無理な方法を使ってまで強制動員賠償問題の解決策作りを急ぐ理由だ。「国益」を前面に掲げ、被害者の合法的な権利を侵害するのは、1965年の韓日請求権協定を締結した時に非常によく似ている。

 12日、与党「国民の力」のチョン・ジンソク非常対策委員長兼韓日議員連盟会長と外交部が、国会議員会館にて、強制動員の解決策を議論するための公開討論会を開催した。政府側は、日帝強制動員被害者支援財団(以下、支援財団)を通した、いわゆる「第三者による重畳的・併存的債務引受」を、事実上の最終解決案として提示した。最高裁の確定判決によって賠償責任を負った日本の戦犯企業の「債務」を「第三者」である支援財団が肩代わりし、ポスコなど1965年の韓日請求権協定で恩恵を受けた企業から寄付金を募って被害者に賠償する方式だ。キム・チャンロク教授は12日午後、本紙の電話インタビューで「日本の誤った主張と振る舞いを正当化させる格好」だと批判した。キム教授と交わした対話を一問一答形式で再構成した。

-韓国政府は「第三者による重畳的・併存的債務引受」側に傾いたようだ。

 「2018年の最高裁判決は、日本企業に責任があるというものだ。その理由は、日帝の朝鮮半島支配は不法な強制占領であり、それにともなう強制動員は請求権協定の適用対象ではないというものだ。したがって、日本企業が損害賠償をしなければならないというのが、最高裁判決の核心だ。尹錫悦政権が最高裁判決を尊重するならば、韓国政府は日本企業の責任を肩代わりすべきでない。判決に従って執行しなければならない。債務者がこれを履行しないのであれば、強制執行をしなければならない。それをさせないために韓国政府が乗りだす理由も、名分もない」

-政府は、強制動員の被害者が高齢であり、最高裁の確定判決を受けた原告の15人のうち生存者は3人だけだという点を取りあげ、解決策作りの緊急性を強調している。

 「昨年最高裁の強制執行の決定が差し迫った際、外交部は決定を遅らせてほしいという意見書を出した。高齢の被害者たちが最高裁の判決で勝ちとった権利を実現できないように止めたことと、解決策作りが急務だという主張は、つじつまが合わない。日本の誤った振る舞いに対して正当に向き合って正すべきであるのに、日本の誤った振る舞いを変えられないことを前提にして私たちが合わせなければならない理由とは何なのか。日本が破綻させるといって韓日関係が破綻するのであれば、韓国という国はいったい何なのか。日本が間違っても日本に合わせるべきだとすれば、韓国の外交とは何なのか。実に荒唐無稽なことだ」

-政府案は司法府の判決を行政府がひっくり返すかたちにみえるが。

 「憲法訴訟が可能だと思われる。政府の処分がなされれば、被害者は長きにわたり闘って得た正当な権利(最高裁の確定判決にともなう賠償)を侵害されることになる。韓国憲法が規定した財産権と幸福追及権などの基本権を侵害する処分であり、違憲だ。政府を相手取り『権利実現の妨害』に対する訴訟も可能だと思われる。だが、こうした複雑な話がなぜ必要なのかという思いがある。国民が、このようになじみの薄い用語についてまでなぜ問い詰めていかなければならないのか。政府が日本企業の債務を肩代わりするというのは、債務があるという意味なのだから、判決に従って債務を履行するようにすればいいのではないか」

-支援財団が債務の肩代わりと賠償過程を主導することにも法的な問題があるという指摘が出ている。

 「財団が定款を変更したのは、尹錫悦政権になって大幅に増えた施行令で法律をひっくり返すこととまったく同じだ。財団設立の根拠になる親法である『強制動員特別法』は、請求権協定について、人道的レベルの支援だけを可能にするよう規定している。下位規定である定款で法律が定めた権限の範囲を越えることは違法だ。

 財団は政府機関ではなく、財団理事長も国家公務員ではない。財団には、請求権協定の恩恵を受けた企業を相手に基金を募る権限もない。それでも基金への拠出を要請することになれば、法的に問題になりうる。最高裁判決によると、強制動員は請求権協定とは無関係だ。したがって、強制動員に関する限り、請求権協定によって恩恵を受けた企業とも何の関連もない。それでも恩恵を受けた企業側が基金に拠出すれば『背任』に該当し、企業内部で問題になりうる」

-それでも、政府は拙速な解決策作りを強調し押し通す姿勢を示している。

 「欺瞞的だ。代位弁済(第三者が負債を代わりに返済すること)は、債権者の承諾がなければならない。最高裁の確定判決を受けた被害者が債権者だ。当然、承諾しないという。それだと代位弁済にはならない。いわゆる重畳的・併存的債務引受は、債務者である日本企業と第三者が協約しなければならない。だが、日本企業もその協約はできないという。協約をすることになれば、債務があるという点、すなわち強制動員の不法性を認めることになるからだ。債務者が協約に参加しなければ、債務引受は成立しない。法的に解決する方法がないという意味だ。ところが、できないことをできると言いはり、ひとまず被害者がお金を受け取るようにしようとしているようだ。被害者たちに対する欺瞞だ。他国の利益のために自国民をだましているのであり、深刻な問題だ。

 もし政府案通りに施行すれば、日本政府は『我々が完全に勝った』と主張するだろう。最高裁判決が国際法違反だという点も、強制動員がなかったという点も、植民地支配は不法な強制占領でなく合法支配だったという点も、『韓国政府が認めた』と言うだろう。韓国という国家のアイデンティティにも、3・1運動で建設された大韓民国臨時政府の法統を継承するという憲法の精神にも反する」

チョン・インファン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/1075757.html韓国語原文入力:2023-01-15 21:18
訳M.S

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