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10年たっても50万円が返せない韓国の青年たち…多重債務の悪循環(2)

登録:2022-09-14 03:21 修正:2022-09-14 08:29
貸金の広告=資料写真//ハンギョレ新聞社

(1のつづき)

延滞で督促した若者の90%は多重債務者

 少額の負債を10年近く返済できないもう一つの理由は多重債務だ。日雇いで働く30代前半のBさんは、10年前の2012年に500万ウォン(約51万9000円)を借り、その後、元金は一銭も返せないまま利子だけで1000万ウォン(約104万円)以上を支払った。他の業者からの負債まで含めれば、元金は2億ウォン(約2070万円)を超える。延滞が多かったBさんは、その日も延滞案内の電話に出なかった。3週間電話をかけ続けたが、若者たちの90%以上はBさんのような多重債務者だった。

 多重債務の悪循環から脱することは不可能に近い。30代前半だった2016年の時点で4件の債務があったCさんは、6年が過ぎた今、負債は28件に増えた。借金が増えても若者たちはさらなる借金を試みる。20代前半で2500万ウォン(約259万円)の借金を抱え、さらに貸金業者の門を叩いたDさんは、わずか3年で負債額が5500万ウォン(約571万円)に膨れ上がった。Dさんに返済能力がないと判断した貸金業者は、彼の追加融資申込みを11回も断った。融資申込みが一度拒絶されると、再び申込みが可能になるのは2カ月後だということを考慮すれば、Dさんは2年以上も追加融資の扉を叩いていたのだ。

 満期案内の電話をかけた20~30代の若者から30人を無作為に選んで調べてみると、彼らは平均で月に150万~200万ウォン(約15万6000~20万7000円)ほどの所得を得ており、その52%を返済に充てていた。また10件近い債務を抱えていた。返済に充てて残った金では生計を立てて行くことすら困難だ。多いケースでは月給の80%、または100%を利子返済に充てなければならない若者もいた。彼らはすでに何千万ウォン、ひどいケースでは1億ウォンの借金を抱えており、まさに最後の手段として貸金業者を訪ねていた。「これほどになると返済のために借金をするのも容易ではなく、借金から脱出することは不可能な水準だ。いい働き口があるわけでもないだろうし」。一緒に債権を調べていたある職員が言った。

 若者層の多重債務問題の深刻さは統計にも表れている。2017年12月から2022年4月までの4年あまりの間の、貸金業者を含む3つ以上の金融機関に対する多重債務額の増加率は、全年齢では22.1%だが、若者層(39歳以下)では32.9%に跳ね上がった(共に民主党のイ・ジョンムン議員室、金融監督院)。その間に増えた若者層の多重債務額は39兆ウォン(約4兆500億円)を超える。

きつい取り立てが必要な理由

 貸金業者の職員は厳しくなければならない。1人の多重債務者から利子を受け取るために、複数の金融機関や貸金業者が競争を繰り広げているからだ。記者が働いた貸金業者では、返済期日の2日前から案内電話をかけていた。業務開始初日、まだ延滞もしていないのに督促するのが申し訳なかったので、優しい声で話していたら、チーム長にすぐに呼び出された。「声が小さすぎる。見くびられてはいけません。複数の業者から金を借りた人たちは、先に返す債権者を態度によって決める可能性もあります」。叱られた後、同じチームの職員に愚痴をこぼしたら、その職員はチーム長の肩を持った。「神経戦のうまい職員が成果を上げているのは確か。債務者の立場からすれば『こんな電話に出るくらいなら返してしまおう』と思うみたいだ」

 現在の貸金業法は、かつてのものより取り立てに対してはるかに厳しくなっている。顧客の恐怖心や不安を誘発し、プライバシーや業務の平穏を害した場合は、処罰を受ける。怒鳴ったり暴言を吐いたりすることは内規で厳しく制限される。だから、合法と神経戦の境界を行き来しながら督促することが貸金業者の相談員の技術だ。債務者に金ができた瞬間に最初に思い出される債権者になるための唯一の方法は「まめな督促」だ。

 実績が低調なため全員まとめて叱責された隣のチームは、一日中声を張り上げている。「今月はそれで、いついただけるんですか? それまでは待てないんですけど」、「毎回こんなに遅れる理由は何なんですか? こっちも忙しいのに、毎回言い訳ばかりじゃないですか。理由もちゃんとおっしゃらないでしょう」。冷たい口調が醸し出す緊張感は、債務者ではないはずの職員すら委縮させた。

「すみません。すみません」

 督促の電話への対応も世代ごとに異なっていた。中高年層では、強気に出てくるいわゆる「相談留意」顧客がしばしば存在した。しかし、若者層は電話に出ないか、出ても委縮した声で答える。「家賃が払えなくて友達の家に居候しています」、「月給だけでは利子返済が難しくて、夜間アルバイトを始めたので少しだけ待ってください」、「テレビの受信料の2500ウォン(約259円)が二重引きされたので、利子を返す通帳残高がありません」。言葉をつなぐ沈黙には、申し訳なさと恥ずかしさが同時に含まれていた。

 借金のくびきから抜け出す道が見えないため、若者たちは謝るばかりだ。退屈な綱引きのような呼び出し音の末、電話に出た若者たちはいきなりしゃべり出す。「本当に申し訳ありません。必ず入れます。申し訳ありません」。「給料がまだ入っていないんです。明日まで待っていただけないでしょうか」。懇願された時は言葉が詰まった。

 満期以前に案内電話をかけた時には「まだ返済日でもないのに電話するのか」と文句を言ったある若者は、延滞となって24時間も経っていない電話では「申し訳ない」という言葉をまず口にした。顔も知らない相談員に対して丁寧に謝らなければならないほど、彼らの手の中には数万ウォンも残っていなかった。その数万ウォンを返済期日から2日以内に納入できなければ、彼らに対する取り立ては他のチームに引き継がれる。

 力のない声を相手にして、それにつられて憂鬱になり電話を切るたびに、研修期間中に上司に言われた言葉が思い浮かんだ。「おそらく怒って悪態をつく顧客もいると思います。そんな反応にあまり一喜一憂しないでください。相談員に腹が立ったというよりは、自分自身の境遇と人生に腹が立っているのだと考えましょう」。しかし、若者たちに取り立て電話をかけた際に最も多く聞いた声は、怒鳴り声ではなかった。浅いため息だった。しつこく電話を試みる相談員のせいなのか、あるいは今回も期限までに入金できなかった自分に対するものなのかは分からなかった。誰に向けられているとも知れぬ期待さえないため息。債務の罠から抜け出せない若者たちは怒ってはいなかった。ただただ疲れているだけだった。

どのように取材したのか

 本紙の記者は、法律検討を受けて貸金業者に就職し、1週間の研修を経て2週間にわたり取り立て業務に当たった。貸金業者への就職を取材方法として選択したのは、若者負債問題を多角的に分析するためだった。貸金市場における若者債務者の境遇を調べることが、当事者への取材とは異なる構造的側面の把握に役立つと考えたからだ。貸金業者から受け取った賃金は若者負債解決を支援する団体に全額寄付する。

キム・ジウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1058337.html韓国語原文入力:2022-09-13 05:00
訳D.K

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