北極の降水量が急速に増加し、また降雪より降雨の方が多くなる時期は予想より早く訪れるとの予測が示された。
カナダのマニトバ大学、英国のエクセター大学などからなる国際共同研究チームは30日(現地時間)、「気候モデルの予測結果を比較すると、北極の降水量は以前の予想よりも早く増加すると推定された。総降水量に降雨量が占める割合が降雪量を上回る転換は、予想より数十年早く起きるものとみられる。これは気候的な影響があるだけでなく、様々な生態学的、社会経済的な波及効果をもたらすだろう」と発表した。研究チームの論文は科学ジャーナル『ネイチャーコミュニケーションズ』に30日付で掲載された。(DOI : 10.1038/s41467-021-27031-y)
研究チームは、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が共同で設立した「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が進めている「結合モデル相互比較計画(CMIP)」で気候予測のために使用している全球大気モデル(大気海洋結合大循環モデル)を用いて北極地域の降水量の推移を分析した。現在、第6期結合モデル相互比較計画(CMIP6)が開発中であり、研究チームはCMIP6の予測結果を以前のCMIP5の予測値と比較した。
両モデル共に、温室効果ガスを現在のように排出し続けた場合の代表濃度経路8.5(RCP8.5)と共通社会経済経路5-8.5(SSP5-8.5)シナリオにおいて、北極の降水量が全ての季節で増加すると予測した。総降水量の増加は主に降雨量の増加による。実際に、8月14日にはグリーンランドの大陸氷河の最も高い地帯では、気象観測史上初めて雪ではなく雨が降っている。
全般的に最新モデル(CMIP6)の予測降水量の方が、以前のモデル(CMIP5)に比べて増加量が多いと分析された。主に降雨量のためだが、CMIP6は2100年の冬季の降雨量が2000年のそれに比べて422%も増加すると見込んでいる。CMIP5の260%よりはるかに多い。他の季節も似たような傾向だった。
CMIP6では、2020年から2100年までに秋の1日の降水量は0.9ミリ、秋の総降水量は81.9ミリ増加すると予測したのに対し、CMIP5ではそれぞれ0.7ミリ、63.7ミリと小さかった。
降雨量の増加率は、CMIP6の方がCMIP5に比べて秋は24ポイント、冬は39ポイント、春は36ポイント、夏は14ポイント高かった。一方、降雪量の減少率は、CMIP6ではCMIP5に比べて夏が16ポイント、秋が38ポイント高かった。
研究チームによると、温室効果ガスの排出量を中程度として、21世紀末の地球の平均気温が2.7度ほど上がるRCP4.5シナリオにおいても、似たような傾向が示された。
「3度上昇すれば、あらゆる地域で雨が大量に降る」
研究チームは、こうした結果が示されたのは「CMIP5に比べてCMIP6の方が、温度上昇に伴う降水量の変化に対してより敏感になるよう設計されているため」と解釈している。まず、CMIP6は冬の北極の温暖化をより強く描写し、21世紀初頭に比べて21世紀末には気温が15度上昇すると予測しており、CMIP5の13度より高かった。またCMIP6は、21世紀初頭に比べ21世紀末の冬季に海氷のない水域の増加面積を900万平方キロメートルと予測しており、これはCMIP5の550万平方キロメートルの2倍近くに達した。それだけ北極の水分の供給源を大きく描写したと研究チームは説明した。
研究チームは「こうした理由から、CMIP6では降水量において降雨量が優位に立つ時期が以前の予想よりはるかに早くやって来ると予測された」と述べた。特に秋には、シベリアやカナダの北極諸島などでは10~20年早く降雨量が優位になると予想された。冬と春には、北極のほとんどの地域において降雪量の優位が21世紀末まで保たれると予想されるが、バレンツ海では10年ほど早く優位の転換が起こると予測された。
研究チームはまた、ボーフォート海、チュクチ海、ベーリング海、ラプテフ海、東シベリア海などで1.5度上昇するシナリオと2.0度上昇するシナリオでは降雪量の優位が保たれるが、グリーンランド海とノルウェー海では1.5度上昇、2.0度上昇のシナリオでも降雨量優位に転じると分析した。バレンツ海とラプテフ海の海氷の状態は、韓国の冬の気候に影響を与えると評価されている。
研究チームは「世界各国が提示している現在の政策を考慮すれば、世紀末の地球の平均気温の上昇が2度にとどまる確率は5%しかないため、3度上昇するケースも分析した。もし3度上昇すれば、北極の太平洋側を除くすべての地域で降雨量優位に転換する」と述べた。