国連の人権専門家が韓国政府に対し、言論仲裁及び被害救済等に関する法律(言論仲裁法)改正案が表現の自由を深刻に制限する恐れがあるとし、国際人権法の基準に合わせて修正するよう勧告した。
1日、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のホームページに公開されたアイリーン・カーン国連特別報告者(意思・表現の自由)の8月27日付の書簡を見ると、カーン報告官は「私が入手した言論仲裁法改正案関連情報によると、同法案の内容に追加の修正が行われなければ、情報と言論の表現の自由という権利を深刻に制限する恐れがある」と指摘した。
カーン報告者はまず、韓国政府も「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(ICCPR)に加盟しており、第19条が定めた意思・表現の自由を尊重・保護する義務があるという点を強調した。また「当局の意図は『メディアに対する大衆の信頼の構築』にある。しかし、修正なしに採択されれば、新法は正反対の結果を招きかねないことを深刻に懸念している」と明らかにした。
同氏は「法律の適法性」の側面から2017年に国連特別報告者が発表した「表現の自由とフェイクニュース、偽りの情報などに対する共同宣言」に触れ、「情報と思想を伝える人間の権利は正確な主張に限定されていない」と強調した。虚偽の情報に対する制限が適法性を認められるためには、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第19条3項や第20条と「密接かつ具体的な関連性」を確立する必要があると指摘した。第19条3項は、表現の自由が「他人の権利」や「国家安保または公共秩序」などのために必要な場合にのみ「法律によって規定」される形で「一定の制限を受けうる」と定めており、第20条では「戦争のための宣伝」、「差別、敵意または暴力の扇動となる民族的、人種的または宗教的憎悪の鼓吹」を禁止している。カーン報告官は「これらを踏まえ、言論仲裁法改正案は当局に過度な裁量を与え、独断的履行につながることを懸念する」と記した。
「法律の必要性」の側面では、言論仲裁法改正案でメディアの故意・重過失を推定し、懲罰的賠償を課すようにした「虚偽・ねつ造報道に対する特則」における「非常に曖昧な表現」が、「マスコミ報道と政府、政治指導者、その他公的人物に対する批判、人気がない意見や少数の意見を含む民主社会に必須の広範囲な表現を制限する恐れがある」と指摘した。このような懸念が、来年3月の韓国の大統領選挙を控え、情報へのアプローチと思想の自由な流れが特に重要な時期にさらに浮上する可能性があるとも付け加えた。さらに「ジャーナリストが有罪推定に反論するために取材源を漏らすよう強要されかねず、これは言論の自由にとって重大な脅威になる」と指摘した。また「過度な懲罰的損害賠償はメディアの自己検閲を招いたり、公益をめぐる重要な討論を抑圧する可能性があることを深刻に懸念する」とし、「バランスが取れていない」と指摘した。
カーン報告者は、韓国政府がこの懸念を国会議員と共有することを促す一方、言論仲裁法改正案が国際人権法、特に市民的及び政治的権利に関する国際規約第19条の適法性、必要性、比例性の面で政府の責務とどのように一致するのか、説明を要請した。また、法改正案を国際人権法の基準に合わせて修正することを求めた。国連特別報告者の勧告には法的拘束力がないが、人権理事会に報告される。