本文に移動

[ルポ]「コンビニ弁当」で耐える夜、「エラーだらけ」の体は今日も熟睡を夢見る

登録:2020-02-05 01:59 修正:2020-02-05 08:24
[2020労働者の食卓](10)「兼業」で奔走するIT労働者 
 
大企業のプロジェクトを任されているが 
下請け末端の「半フリー」非正規 
日勤が終わると個人事務所に出勤 
明け方までウェブサイトのコーディングに縛り付けられ 
「母の闘病で負った借金を返すため…」 
7カ月にわたる徹夜の強行軍で体壊す
ウェブ開発者パク・チョンフンさん(仮名)が先月22日夜、ソウル江南区の個人事務所で食事をしながらコーディング作業をしている=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社
ウェブ開発者パク・チョンフンさん(仮名)が先月22日夜、ソウル江南区の個人事務所で食事をしながらコーディング作業をしている=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 弁当はわずか5分で片付いた。指のようなサイズのフライドチキン4切れに味付けチキン4切れ。8つのチキンをやっつける間、パク・チョンフン(仮名、35)は、プラスチックの弁当容器に入ったご飯を正確に8回に分けて口元に運んだ。視線はモニターに固定されたままだった。流し込むようにコンビニ弁当を食べながらも、彼の動作はまるでプログラミングされたように誤差がなかった。チキンを入れた口にご飯が入ると、パク・チョンフンはすぐに箸を置いてキーボードに手を持っていった。指を動かしてプログラミングコード1行を入力する間、何度も噛んでいないチキンとご飯を素早く喉に流し込み、再び割り箸を手に取った。

 夜食を食べる彼の手の動きが機械的と言えるほど正確なのは、3~4年にわたってほとんど毎日この半々チキン弁当をコンビニで買って食べてきたおかげだ。体が飯の量とおかずの位置を覚えている。飽きるだろうが、夜食を食べる時、彼にとって重要なのは「速度」だけだ。「おかずの多い弁当より『太く短い』弁当が好きです。だからよっぽどのことがなければ半々チキン弁当ばかり食べてます。箸を8回使えば解決できますからね」。先月22日夜、ソウル江南(カンナム)の広さ3坪(9.9平米)の個人事務所で会ったパク・チョンフンは、口に残ったチキンを噛みながら話した。わずか5分で食事を「飲みこんでしまった」彼は、口に残った最後の飯も飲み込まぬうちに席を立ち、事務所の流しでプラスチックの弁当容器をすすいだ。事務所の隅の分別ゴミ箱を開けると、プラスチック容器が山積みになっていた。すべてウェブ開発者のパク・チョンフンが夜を明かした跡だ。

ウェブ開発者のパク・チョンフンさん(仮名)のコンビニ弁当=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

_________
徹夜の同伴者…「コンビニ弁当」と「エナジードリンク」

 不夜城・江南でも大半のオフィスの明かりはほとんど消えた深夜1時、パク・チョンフンはベッドではなくコンビニへと向かう。「コンビニ弁当」1つと強力なカフェインの入ったエナジードリンク1本を手に取る。この日は弁当だけでは腹が膨れないと思ってバナナも買った。1本で十分の彼がバナナの房の前で悩んでいたため、コンビニの店主が1つだけでも売ってくれると快く声をかけてくれたのだ。毎日コンビニを訪れるパク・チョンフンは、このコンビニの主人が大切にしている「優良顧客」だ。コンビニに使う金だけで1カ月15万ウォン(約1万3800円)を超える。

 コンビニなしでは生きていけないほど、パク・チョンフンの夜は長い。彼は1日に出勤と退勤を2度ずつする。午前9時までに出勤する場所は江南のある大企業だ。大企業の建物の中で働いているが、大企業に所属する労働者ではない。パク・チョンフンは「半フリー」だ。4大保険も適用される正規職だが、数次の下請けの底にいる事実上の非正規労働者をIT業界ではそう呼ぶ。「甲」たる大企業の下に「乙」たる系列会社があり、乙から企業管理プログラムの開発プロジェクトを受注した会社「丙」がある。丙はまた請負会社「丁」にプロジェクトを任せ、丁はまた「戊」たる開発者「パク・チョンフンたち」と半フリー契約を結ぶ。プロジェクトが終われば雇用契約も終了する。1年以上働いても退職金がないこともざらだ。「私もいま、ただの口頭契約で働いています。人情と義理で回っているんですよ」。

 大企業を頂点とする多重下請け構造の末端である「半フリー」生活をしていたら、彼の体には夜勤が染みついてしまった。平日はずっと午前1~2時まで働いた。それでも週52時間制政策が実施され、退社が早まった。「正社員が早く退勤するでしょうか? それとも半フリーの方が早く退勤するでしょうか? 週52時間制が本格的に導入される以前の2018年のたった1年間に、50人程の開発者が過労死しています」。パク・チョンフンは淡々と語った。大学でコンピューターを専攻した後、10年あまりにわたって開発の仕事をしてきたが、体調が悪くなりはじめたのは日常的に夜間勤務をしていた時分だった。「コンビニ弁当を食べ始めたのもその頃からですね。その時は会社に弁当を持ち込むこともできなかったので、毎日明け方にコンビニで立ったまま弁当を食べてました。夜勤の締めとしてね」。

 週52時間制施行後もパク・チョンフンは「夜勤」を自ら進んで行っている。オフィスを午後6時に退社したパク・チョンフンは近くの定食屋で急いで夕食をすませ、個人事務所に出勤する。そこで早くて夜10時、遅ければ午前1~2時まで働く。個人事務所では、一般企業からウェブサイトの開発業務を受注し、ウェブページを作るコーディング作業を行う。個人事務所の仕事は週末も続く。少なくとも6~7時間は働く。一日も休まない「兼業」生活をパク・チョンフンは昨年7月から続けている。今は亡き母親の闘病生活で負った借金を返すためだ。

ウェブ開発者パク・チョンフンさん(仮名)が先月22日夜、ソウル江南区のあるコンビニエンスストアで弁当を選んでいる=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 長い夜を走り抜ける力はエナジードリンクから得ている。今月に入ってパク・チョンフンの夜勤作業は頂点に達した。ウェブ開発の依頼が重なったため、4日間徹夜した。このように徹夜作業をする時は、普段は1日に1本のエナジードリンクを2つ空ける。午前1~2時の間に1本、朝6時ごろにもう1本を空けるのが彼の「ルーティーン」だ。エナジードリンクを飲んでも眠気に勝てない時、パク・チョンフンは事務所の隅の折りたたみ式簡易ベッドを開く。マットレスもある「ラクラク」(ベッドのブランド)ではなく、薄い布1枚で作られた寝心地の悪い簡易ベッドをわざわざ用意した。「寝心地が良すぎると家に帰らずにここでばっかり寝てしまいそうでね」。それでも家に帰れない時は、家の代わりにサウナに帰る。急いで入浴を済ませ、再び請負先である大手企業に出勤するためだ。

ウェブ開発者のパク・チョンフンさん(仮名)が眠気覚ましに飲むエナジードリンク=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

_________
「バキバキッ」残業が残した傷あと

 殺人的な徹夜労働がパク・チョンフンの体と心に残した傷痕は鮮明だ。昼夜なく働き続けてきたため、パク・チョンフンは夜になっても眠れなくなった。昨夏からひどくなった睡眠障害のせいで、酒を飲まなければ眠れない。焼酎1本半をあおってようやく眠ることができた。4カ月前から睡眠薬の処方を受けて何とか眠れるようになったものの、今月初め、相次ぐ徹夜作業のため再び悪化した。「安心して休んだことがないせいか、性格もかなり過敏になりました。何でもないことに気が立ったりして…」。

 寝る時だけでなく、ほとんどの時間をコンピューターの前で過ごしたせいで脊椎がやられた多くの開発者のように、パク・チョンフンも深刻な腰痛に苦しむ。ある者には抽象的な用語に過ぎない「クランチモード」が、彼にとっては体と骨に刻まれた傷痕そのものだ。「クランチモード」とは、ソフトウェア開発業界で睡眠や栄養摂取、衛生、その他の社会活動などを犠牲にして長時間労働をする状態を意味する。クランチとは「バキバキ」(固いものが砕けた時の音)を意味する。開発者の人生を選んでからパク・チョンフンの日常がバキバキと砕けていったように、彼の腰もバキバキとよじれてしまった。座っている時はもちろんだが、横になると痛みがよりひどい。接骨院に行って1週間に2回の矯正を受けなければ日常生活を送るのが困難なほどだ。

 だからといって、誰かを恨むことも、責任を転嫁することもできない。「九老(クロ)灯台(夜も明かりの消えないビルを皮肉った語)」や「板橋(パンギョ)灯台」で会社に強いられて夜勤を続けるその他のIT労働者と違い、兼業はパク・チョンフン自身の選択に過ぎないではないかと世の中は言う。兼業を強行した7カ月間、彼は健康を犠牲にした見返りとして、目的を達成した。借金を完済したのだ。3月には大企業の下請けの仕事も終了する。

 この仕事を終えれば、パク・チョンフンは「甲-乙-丙-丁-戊」の輪には戻らないつもりだ。3月からは仲間たちとウェブ開発会社を立ち上げ「専業」に戻ろうと思っている。このままでは本当に命があぶないと思うからだ。「収入は減るでしょうが、仕方ありません。これ以上耐えることはできません。夜勤を減らすのが最大の目標です」。

 誰もが寝静まる深夜、缶に残った最後のエナジードリンクを空け、パク・チョンフンは再び3つのモニターの光に顔を寄せた。

チョン・グァンジュン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/926812.html韓国語原文入力:2020-02-04 05:00
訳D.K

関連記事