新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)が拡散し、中国の湖北省と武漢市の韓国国民701人が先月31日から二日間にわたってチャーター機で帰国したが、家族がいるため、あるいは長距離移動が困難なためなどの理由で現地に残った現地在住の韓国人も多い。韓国外交部は、新型コロナの発生地とされる武漢だけでも200人あまりの韓国国民が残っていると把握している。先月25日に韓国外交部が退避勧告を出した湖北省へと範囲を広げれば、それよりはるかに多くの韓国人が現地に残っているものと推定される。このような中、韓国政府は2日、湖北地域の外国人の入国を禁止するという処置を発表し、現地に残る韓国人の不安はさらに高まっている。
妻の故郷である湖北省荊州市で旧正月を過ごし、そこで足止めを食ったチ・ソンジェさん(38)がそのケースだ。チさんは湖北省を中心に新型コロナが急速に広がると、韓国行きのチャーター便に乗ることもしばらく考えた。しかし、すぐにそれは諦めた。中国政府の方針によって、中国国籍者は韓国行きのチャーター便に乗れない。「妻と長女は中国人で、私と次女だけが韓国人です。家族なのに、妻の故郷から抜け出して私と次女だけ韓国に行くのはずるいと思うからです。(チャーター機に乗るには)ここから車で200キロ以上行かなければならないのに通行が可能かも分からないし、韓国でも新型コロナが広がっている状況でもあるわけですし」。
チさんは元々住んでいた広東省深セン市に帰ろうと考えているが、帰り方を探すのも容易ではない。最も近い空港は90キロほど離れた宜昌空港だが、2月13日の出発便を基点に何度も深セン行きの飛行機を予約したが、数時間後に航空便の運航自体がキャンセルとなった。荊州市から深セン市までは1100キロ以上離れており、車で行くことも不可能だ。道路事情も信用できない。チさんは道路のあちこちが封鎖されていると話した。深センに戻ったとしても新型コロナが大きく広がる湖北省にとどまっていただけに、2週間も家に籠っていなければならない。中国政府は湖北省に出入りした人に対し、2週間の自宅待機をさせることとしており、出勤や登校はそれが明けてからとなる。学校はチさんの子どもたちがインターネットで授業を受けられるようにした。
1日までは荊州での生活にも大きな不便はなかった。外に出られないのは息が詰まるが、大型スーパーや小売店は普通午前10時から午後5時まで開いていた。簡単な野菜や食べ物を買うのにも苦労はなかった。薬局ではマスクも販売されていた。チさんは先週買っておいたマスクをまだ全部使っていない。1週間に2回程度しか外出して生活必需品を買うことがないため、マスクをすることは多くなかった。しかし、1日夜に荊州で交通規制を実施するという発表がなされると、翌日から状況が大きく変わった。2日午前にはスーパーや市場に長蛇の列ができた。中国政府がすぐに道路封鎖を解除する可能性はなさそうだ。チさんは新型コロナが落ち着くのをじっと待たなければならない状況だ。
中国人と結婚した他の韓国人も、事情はチさんと大して変わらないという。「中国人と結婚して湖北省で暮らす韓国人の家庭の場合、子どもたちが幼いため簡単には動きにくい状態だと理解しています。そして、家族を置いて一人で帰るのもやはり引っかかりますね。そのような点から見れば、中国政府が韓国行きのチャーター機に中国国籍の家族を乗せることを快く思っていないことも理解できます。家族が韓国人や他国の人だからと言って中国国籍者たちを連れて行ってしまえば、ここに止まるしかない中国人は裏切られたと感じるでしょう」。
武漢市から北西に80キロほど離れた湖北省応城市にとどまっているAさん(44)も、チさんと同様の理由で現地を離れることができていない。ある企業の深セン市駐在員として勤務するAさんは、旧正月で妻の故郷である応城市を訪れたところだった。そこで足止めされているAさんは、帰国のためにチャーター機の搭乗申請書まで作成したが、中国国籍者は家族であっても同伴できないという在武漢韓国総領事館の公文書を見て、韓国行きをあきらめた。領事館は、武漢の韓国人を乗せるために天河国際空港に到着した2機目のチャーター機からマスクなどの救援物資を受け取り、それをとどまっている韓国人に3日から配給するという。しかし、武漢市外に住む人たちにまで救援物資が渡されるかは未知数だ。すでに応城市の外に出る道はすべて閉鎖されている状態だ。Aさんにはいつ湖北省を離れられるのか予測がつかない。
湖北省西端の利川市に止まっているBさん(35)は、道路封鎖が一日も早く解除されることを期待している。利川市は武漢から車で8時間かかるが、同じ湖北省にあるため、すでに先月から外に通じる道路が全て封鎖されているという。Bさんは最初、韓国行きのチャーター便を申し込んだが、最終申請からは外れた。最初チャーター便を申し込む時は、近くの空港から、または団体バスに乗ってチャーター便の着く空港まで行けると思っていた。しかし、最終的に武漢市以外の滞在者は空港まで自分の車で行かなければならないという公示が出た。車もなく、中国国籍の婚約者に車で送ってもらうとしても、武漢天河空港に向かう道が封鎖される可能性が高かった。そのような危険を甘受してまで韓国に帰ることはできなかった。Bさんは、チャーター機の搭乗に関する明確な公示が出なかったことにもどかしさを感じている。「武漢市の外に住んでいる人は自分で何とか集結地か天河空港に行かなければならないのに、そこに行くまでのあらゆる道が規制されているんです。領事館には『規制地域を通行できる公文書は、発行はできるが、都市によっては通行を許可しない場合がある。確実に通れるとは言えない』という風に言われました。それで武漢市の外にいる人の大半は韓国に帰れなかったと聞いています」。利川市では、マスクは品切れだが食料品は手に入るという。ただ、人通りは大幅に減り、患者が1人確認されたといううわさが出回って不安が高まっている。
先月16日に中国入りしたBさんは、当初同月28日に帰国する予定だった。しかし帰国日前に道路が封鎖され、チャーター便を申請できず、中国に留まるしかなかった。今後のことも心配だ。「湖北省から来た人は省外に出たら2週間隔離されるという領事館からの説明がありました。そこで2週間隔離されて、韓国に帰ってまた2週間隔離されれば、4週も隔離されることになりますから、いざ帰ろうにも途方に暮れてしまいます。チャーター便に乗れなくても、封鎖が解除されれば他の空港から韓国に帰ればいいと思っていましたが、中国でも湖北省の人を隔離して遮断しようとしているようで、心配になりはじめています。湖北省は広いので、韓国人たちが一カ所に集まって行くのは簡単なことではありません。またチャーター便が出るなら、湖北省の他の空港からチャーター便が出る空港まで行ける通行証を領事館などが発給してくれれば、はるかに良いのにと思います」。韓国でフリーランスの英語講師をしているBさんは、中国に滞在する時間が長くなるほど仕事に支障が出る。
加えて、2日に韓国政府が湖北省に居住するか滞在していた外国人の入国を制限する措置を取ると発表すると、現地に残った韓国人の間には動揺が広がっている。Bさんは「政府の発表以降、湖北省在住の韓国人のチャット・ルームでは『封鎖が解けても韓国に帰れないのではないか』という話が出ている。現地の韓国人はとても動揺している」と現地の雰囲気を伝えた。特に、韓国で大学院に通っているBさんの婚約者は、目の前が真っ暗になっている。3月までに韓国に帰れなければ休学しなければならない。今年8月に予定されている結婚式の準備がまともにできるかどうかも心配だ。応城市に滞在しているAさんも同じだ。Aさんは「中国人の妻と、もう韓国に帰るのは難しそうだ。ため息ばかりついている」と語った。