ホルムズ海峡への派兵について「軍事的貢献策を検討している」という4日の大統領府高官の発言を聞いて、最初にこみ上げてきた感情は、限りない悲しみだった。国防部が8日、「現地調査団を派遣」したという事実まで公開した以上、近い将来、派兵の正式決定が下されると考えなければならない。米国のトランプ大統領が引き起こしたこの不法かつ汚い戦争に加担することが、韓国政府の「本心」であるはずがない。それでも、結局こうなってしまったのは、トランプ大統領の度重なる派兵要求を拒否することで生じるリスクを引き受けるのは難しいという点で、政府内の意見が一致したからだとみられる。
もどかしい思いで、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が2003年に下した「イラク第2次派兵」の決断過程を記述した、大統領府国家安全保障会議(NSC)で当時事務次長を務めたイ・ジョンソク氏の著書を探して読んでみた。歴史とは皮肉にも繰り返されるものなのだろうか。イ氏が2014年に出した回顧録『刃の上の平和』から、現在の状況にぴったり当てはまる珠玉の文章をいくつも見つけることができた。「派兵する場合、韓国が朝鮮半島の平和について、米国に対する発言権を多少なりとも強められるかもしれない。しかし、それよりも恐ろしいのは、韓国が派兵を拒否した場合に生じる緊張だ」「大統領はさまざまな会議で繰り返し、韓国が追加派兵をする場合は、朝鮮半島情勢の安定がその前提になるべきだとし、北朝鮮核問題の進展を強調した」「韓国が模索すべきことは、いかにして追加派兵を足掛かりに、北朝鮮核問題の解決への道筋をより円滑なものにするか、また、いかにして韓国の兵士の犠牲を最小限に抑えられる規模と性格を備えた部隊を作り出すかということだった」
この驚くべき文章を書き上げたイ・ジョンソク氏は、現政権の国家情報院長だ。イ院長はおそらく今も、当時と同じ思いを抱いているだろう。実際、イ院長はこの著書のなかで、「2003年秋」に戻るとしても、当時と「同じ選択をすると思う」という所信を記した。トランプ大統領による先月16日の「韓米合同演習の縮小」決定によって、朝米関係が動く可能性があるため、イ院長が代表する政府内の「自主派」は、いまこそ決断を下す機会だと判断した可能性がある。一方、「同盟派」は、当初から派兵は避けられないと考えていたはずで、この決断を通じて、現在行き詰まっているウラン濃縮、核燃料再処理、原子力潜水艦の問題を扱う韓米間の安全保障協議で突破口を開こうとするだろう。
韓国政府がいかなる大義名分を掲げたとしても、派兵が韓国社会に及ぼす影響は、相当なものにならざるを得ない。ジョージ・ブッシュ大統領が2003年に引き起こしたイラク戦争も、国連安全保障理事会の決議を経ていない不法な戦争だったが、トランプ大統領の「イラン戦争」とは比べものにならない。ブッシュ大統領の「ネオコン」政権は、それでも国際社会を説得するために、相当な努力を払った。チェイニー副大統領(当時)は盧武鉉大統領に電話をかけ、開戦時間の事前通知までした。さらに、論議の中心だった「第2次派兵」の場合、これを正当化する最低限の名目はあった。米国がその年の5月1日に「終戦」を宣言し、国連安保理は10月16日、イラク情勢の安定に向けた多国籍軍の活動を全会一致で承認した。これに対し、イラン戦争は同盟国に一言の相談もせずにトランプ大統領が独断で下した決定であり、戦闘はまだ終わっていない。
それだけではない。第2次トランプ政権の発足後、韓国社会では、対米依存を減らし、韓国なりの「戦略的自律性」を高めようという共通認識が形成されつつあった。派兵決定は、韓国が追求すべき新たな外交の可能性を放棄し、同盟国により多くの「軍事的負担」を負わせようとする米国の新たな安全保障戦略に順応する方向へ舵を切った決定的な場面として記憶されるかもしれない。
昨年4月だったと記憶している。日本の中谷元防衛相(当時)が、朝鮮半島から東シナ海(台湾)、そしてはるか遠くの南シナ海までを「一つの戦域(ワンシアター)」と捉え、韓国・米国・日本・フィリピンが力を合わせようという「ワンシアター」構想を打ち出した。これをみて、「日本は平和憲法の制約のために、完全な『集団的自衛権』を行使できないが、韓国は違う。韓国の若者が戦場で血を流すことになる可能性もある」と懸念する論説を書いた。後日会った日本の外交官が「この一節を印象深く読んだ」と述べ、意味ありげな表情をみせた。日本には平和憲法という防御の盾があり、北朝鮮という悩みの種もなく、韓国が切実に望んでいるウラン濃縮と核燃料再処理の権限をすでに確保している。米国の圧力の前では、韓国は戦略的にきわめて脆弱な国だ。今後、東シナ海や南シナ海での事態を受けて派兵を求められたら、そのときはどうするのか。一度屈した国が、再び屈せずに済むだろうか。
キル・ユンヒョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )