1895年の日清戦争終結後、戦勝国である日本の伊藤博文首相と、敗戦国である清の北洋大臣李鴻章が「下関条約」に署名した。条約第1条は「清は朝鮮が完全無欠な独立自主国であることを確認する。したがって、(清に対する)朝貢と儀礼は独立自主を侵害するものであるから、以後、完全に廃止する」という内容だった。朝鮮に対する清の影響力を排除し、日本の植民地支配へと向かう道をひらいた。中国が「100年の屈辱の時代」の象徴とみなしている瞬間だ。「中華民族の偉大な復興」を目標に掲げる習近平時代の中国は「日清戦争以前の東アジア秩序」を回復しようとしている。
19日、ソウルで開かれた韓中外相会談の結果を伝えた中国外交部の発表文によると、中国の王毅・共産党外事弁公室主任兼外相が韓国に「独立自主」を要求した一節が目を引く。王毅外相は「韓国側が自らの根本的利益から出発し、独立自主的で相互矛盾しない(並行不悖)対外関係を発展させることを望む」と述べた。
王毅外相がこのような要求を初めて口にしたのは、2022年8月、中国山東省で開かれた韓中外相会談でのことだった。王毅外相はパク・ジン外交部長(当時)に「(韓国は)5つのすべきことを堅持せよ(堅持五個応当)」と主張し、その一つ目として「独立自主路線を堅持し、外部の干渉を排除しなければならない」と述べた。韓国は韓米同盟から少し距離を置き、中国との戦略的協力を強化せよという意味だ。
先週、王毅外相の5年ぶりとなる公式訪韓は、韓米同盟が前例のないほど揺らいでいるなかで行われた。米国大統領がSNSに投稿した一言で韓米合同演習を中断させ、韓米同盟を使い古した靴のように扱い、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長に「核武装を認めるから対話しよう」というラブレターを公然と送っている間、韓国に滞在していた王毅外相は何を考えていたのだろうか。
王毅外相は「李在明(イ・ジェミョン)政権が正しい道を選択したことで、韓中関係は改善されている」とし、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権下で最悪の状態に陥った韓中関係が回復しているというメッセージを強調した。しかし、韓国政府が、北朝鮮の対話復帰と非核化に向け、中国の「仲裁者」としての役割を要請したことについては、積極的には応じなかった。王毅外相は、トランプ大統領が望む朝米対話を仲裁するのかを問う質問に「それは北朝鮮と米国が決めること」だとして、「米国は対北朝鮮敵対政策を変えなければならない」と述べた。
北朝鮮核交渉が分岐点に立つたびに、中国が積極的に仲裁者の役割を果たし、対話を続けさせた時期があった。2002年に第2次北朝鮮核危機が発生して以降、中国は北朝鮮を交渉の場に引き出してほしいという米国の要請を受け、外交部の戴秉国副部長(当時)を特使として派遣し、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)国防委員長を説得した。その結果、2003年4月、北京で3者(北朝鮮・米国・中国)会談が開催され、これに韓国・ロシア・日本が参加し、6者会談に発展した。イラク侵攻とテロとの戦争に忙しかった米国のブッシュ政権は、中国を「責任ある大国」と呼び、北朝鮮核問題をはじめとするアジアの管理を事実上中国に任せていた時代だった。
2010年に中国が日本を抜いて世界2位の経済大国になると、米国は中国の急速な台頭を警戒し、「アジア回帰(Pivot to Asia)」戦略で中国けん制を始めた。米中協力時代は終わった。ちょうどこの時期、北朝鮮では金正恩委員長が政権を握り、核武装路線にまい進した。2017年の第1次トランプ政権発足以降、米中関係は本格的な覇権競争と対立の時代に入った。今でもその構図は変わっていない。
いまや中国は、北朝鮮を朝米や南北対話に引き出す仲裁者の役割に強い関心はない。米中競争という大きな枠組みのなかで、朝鮮半島で中国の影響力をどのように拡大するか、日本を屈服させようとする中国の戦略において、韓国と北朝鮮をどのように活用するかなど、はるかに広範かつ複雑な戦略的計算をしている。
中国の習近平国家主席が今年最初の外国訪問として、7年ぶりの北朝鮮訪問を選択したことの象徴性は高い。6月8日に北朝鮮訪問を開始した習主席は、北朝鮮の労働新聞への寄稿で、朝中関係が「新たな歴史的出発点に立っている」と宣言した。いまの中国は単なる朝中関係の強化だけに焦点を合わせているのではない。朝ロ接近にもかかわらず、中国が朝鮮半島問題で主導権を握っていることを再確認し、朝ロカードを活用し、韓米日に複合的なメッセージを送っている。日本の再武装の動きを「新型軍国主義」と非難し、台湾問題に介入しないよう圧力をかけ、韓米日協力を弱めようとしている。中国のこのような意図をよく理解している北朝鮮も、「日本軍国主義」非難の先頭に立っている。
中国の代表的な朝鮮半島専門家である天津大学の鄭継永教授が「フォーリン・アフェアーズ」(8月10日)に投稿した「なぜ中国は北朝鮮に懸念を抱くのか」と題する論文は、中国の「朝鮮半島秩序管理者」構想をよく示している。鄭教授は「北朝鮮の対外戦略が、米国の圧力に対抗するために中国に依存していた既存の方式から、いまでは中国を利用して経済を安定化させ、ロシアを活用して安全保障を補完し、米国の圧迫を核プログラムの正当化に利用する3つの構図に進化した」と分析している。これに対応する中国の新戦略は「北朝鮮をふたたび中国の軌道内に引き込み、安定的に管理できるようにすること」だとしながらも、中国は北朝鮮が崩壊することを望んでおらず、長期的には朝鮮半島非核化を放棄するつもりはないと強調する。「核を保有する北朝鮮は決して理想的ではないが、予測不可能な北朝鮮に圧力をかけ、それが全面衝突につながることのほうがはるかに悪い。危機の防止と安定の必要性が、中国の朝鮮半島政策における最優先課題になった」ということだ。
中国は現在、朝ロ軍事協力で自信を深めた北朝鮮が、朝鮮半島情勢を過度に悪化させないよう管理しながらも、米国との競争で北朝鮮を戦略的資産として活用しようと考えている。北朝鮮の核とミサイルが、米国の中国包囲網をかく乱しつつも、韓米日軍事協力を加速させたり、韓国と日本の核武装につながったりしないよう、管理しようとする戦略だ。こうした流れのなかで中国は、韓国が日本から最大限距離を置くよう求めている。王毅外相が20日、ウィ・ソンラク国家安保室長と面会し、「歴史の車輪を逆回転させようとする日本の右翼勢力の言動を警戒する必要があり、日本軍国主義の復活を絶対に許してはならない」と強調したのは、そういう意味だ。ソウル大学アジア研究所のペク・ポムフム招聘教授は「中国は、いますぐ韓国を韓米同盟から離脱させようとしているのではない。現在の中国の現実的な目標は、韓国の『親中化』を追求するよりも、韓国が『戦略的自律性』を拡大するよう要求し、韓米同盟と韓米日安全保障協力が、中国を対象とする『アジア版NATO』に拡大するのを阻止しようとするもの」だと分析した。
トランプ大統領がイラン戦争の泥沼から関心をそらす目的で、金正恩委員長との対話再開を急ぐ状況は、中国の計算を複雑にさせている。ソウル大学統一平和研究院のチャン・ヨンソク客員研究員は「中国にとって、朝米首脳会談はつねに諸刃の剣」だとし、「情勢安定の面では役に立つが、北朝鮮と米国が直接取引することになれば、北朝鮮が中国の統制から抜け出してしまうという負担がある。中国は朝米対話に明確には反対しないが、自分たちがコントロールできる範囲とペースで進むことを望むだろう」と述べた。もちろん、来月の習近平主席の訪米と米中首脳会談で、トランプ大統領が台湾問題などで破格の譲歩をする場合は、その対価として中国が動く可能性はある。「仲裁者」としての役割の値段が大幅に上がったのだ。
王毅外相が今回の訪韓中、「韓国と北朝鮮という2つの国家(两个国家)」という表現を何度も使ったことも注目される。中国外交部の発表文によると、王毅外相は「韓・朝(韓国と北朝鮮)の2つの国家が徐々に平和共存へと向かい、最終的には朝鮮半島の長期的安定を実現することを望む」と述べた。過去にも中国が、韓国と北朝鮮に対して「2つの国家」という表現を使ったことはあった。しかし、北朝鮮が「2つの国家論」を憲法にまで明記したなかで、中国が今後もこの表現を常用するのかどうか、注目する必要がある。1992年の韓中修交共同声明の第5条で、中国が「朝鮮半島は韓民族によって平和的に統一されることを支持する」と約束したことをくつがえす意味になるからだ。
王毅外相が繰り返し強調する「韓国の独立自主」は、ただちに韓米同盟を終わらせろという意味ではないが、長期的には、韓国が韓米同盟からますます遠ざかり、中国の影響圏に入ってくる未来を描いているのだろう。おりしも、同盟を容赦なく侮辱して圧力をかけるトランプ大統領の振る舞いによって、同盟国が自強を急ぎ、地域内の多国間協力に注力しており、米国の「対中国けん制」から遠ざかる「トランプのパラドックス」が現実化している。
王毅外相の訪韓は、韓国と中国が協力可能な点と相違点を確認させることになった。朝鮮半島の安定と平和を維持し、核を保有する北朝鮮を管理するとともに、サプライチェーン、貿易、人的交流などの分野で実用的な協力を強化しなければならない。しかし、韓国と中国の戦略的目標は違う。トランプ発の韓米同盟危機、国際秩序の大混乱、北朝鮮による核・通常兵器の増強が続く状況のもとで、韓国は戦略的自律性を強化し、「独立自主」についてさらに深く考えることになるだろう。それは、中国が訓戒する「独立自主」のようなものではないだろう。
パク・ミンヒ|統一外交チーム先任記者。大学と大学院で中国と中央アジアの歴史を学んだ。2007~2008年に中国人民大学で国際関係を勉強した後、2009年から2013年までハンギョレの北京特派員として中国各地を回り取材した。統一外交チーム長、国際部長、論説委員を経て、世界と外交について取材して書いている。『中国のジレンマ』『中国をインタビューする』(共著)を著し、『不可視中国』『ロングゲーム』などの著書を翻訳した。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )