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ヘイト中毒社会・韓国【寄稿】

登録:2025-03-13 09:41 修正:2025-03-15 09:32
キム・サンギュン|認知科学者・慶煕大学経営大学院教授
2025年2月28日午前、ソウル鍾路区の成均館大学の正門前で尹錫悦大統領弾劾に賛成と反対の集会が同時に開催されるなか、弾劾反対集会の参加者が時局宣言をしている=キム・ヨンウォン記者//ハンギョレ新聞社

 韓国社会は今、嫌悪(ヘイト)中毒になっている。様々な形の対立が拡散し、はてしない怒りと敵対感情が日常的に生じている。認知科学者の目から眺めると、これは韓国社会が精神的に病んでいるという明らかなシグナルだ。

 脳は本来、極端で単純な思考を好む。人間の進化の過程において、味方と敵を明確に区分する能力は、生存のために必須だった。現在、その能力はヘイトと偏見という破壊的な形に変質した。脳は常に、自分は正しくお前たちは間違っているという信念に簡単に陥ってしまう。このように単純な二分法が社会全体に広がると、集団間の対話は消え、はてしない非難と攻撃だけが残ることになる。

 ソーシャルメディアはこのような偏向を極限まで高める。その中から、絶えず自身の意見を確認する情報だけを受け入れ、確信に満ちたまま生きていく。ネットの世界では、それぞれ違う声を聞かなくても済むため、自分が正しいという幻想のなかに留まることができる。対立と怒りの表現はよりいっそう容易になり、はやく拡散する。ジェンダー対立も同じだ。ハンナムチュン(韓男虫)やメガル(フェミニズムのコミュニティーサイト「メガリア」に出入りしている人)のようなヘイト表現が日常になり、相手の声には耳を閉ざす。特定の国やマイノリティ集団を対象にしたヘイトも、同じく社会的な病理現象だ。経済的不安や不平等が深刻化するほど、人々はより安易なヘイトの標的を探す。問題の原因と解決策を苦労して見つけるより、他人を悪魔化することのほうがはるかに簡単なためだ。

 韓国の歴史的・文化的な背景も、ヘイト文化の形成に重要な影響を与えた。韓国社会では伝統的に、強い集団主義文化が根付いており、これは共同体内部の結束力を高めるが、同時に外部者とマイノリティを容易に排斥する傾向を強める。急速な経済発展の過程で生じた貧富の格差と世代間対立は、このような排他性とヘイトに火をつけた。競争中心で画一的な教育文化も同様に、共感より対立と競争を促進し、ヘイト文化を強化した。

 ヘイトと対立でねじれた社会は、精神的な疾患に病む個人と驚くほど似ている。精神的な苦痛を負う個人は、周辺のすべてのものを脅威に感じ、小さな刺激にも爆発的に反応する。そして、自分だけの病的な世界に自身を閉じ込める。韓国社会が今まさにそうだ。小さな違いさえ容認できず、極度に鋭敏な反応を示し、すべての対立を自分と敵との対決に単純化する。

 韓国社会でヘイトの言葉と行動が蔓延すればするほど、最終的にはすべての構成員がその被害者にならざるをえない。このように病んだ状態から抜け出すためには、われわれが持っている偏向性をまず認めなければならない。教育システムは、他人を尊重して理解する能力を育てなければならない。互いに違う考えを持っている人たちとの接触を増やし、反対意見に耳を傾ける訓練を強化しなければならない。学校は他人と交流する場所であり、共感を教える場所にならなければならない。経済的条件も同様に改善されなければならない。不安定な雇用と深刻な所得格差は社会的不安を醸成し、ヘイトと過激主義を育てる。経済的安定のための積極的な社会福祉政策とあわせ、不平等を解消する制度改革が必要だ。経済的安定は、社会の対立を減らし人々の心を安定させる治療剤だ。

 ヘイトは社会の麻薬と同じだ。簡単に中毒になるが治療は難しい。しかし治療しなければ韓国社会は破壊されるだろう。われわれ全員が病んでいる状態を認めなければならない。今こそ、手遅れになる前にヘイト中毒から抜け出し、健康な社会に向かうための処方せんを書かなければならないときだ。

//ハンギョレ新聞社

キム・サンギュン|認知科学者・慶煕大学経営大学院教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1186632.html韓国語原文入力:2025-03-12 18:56
訳M.S

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