イ・ボクヒョン金融監督院長が先日、株主保護のための商法改正案を再びちらつかせた。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が年明けにコリアディスカウント(韓国証券市場に対する低評価)の解消策として提起したものの、法務部の反対でうやむやになった事案だ。政府の「企業バリューアップ支援案」に内容が薄いという否定的な反応があふれたことで、非常に焦っていたようだ。コリアディスカウントを解消するためには、支配株主(オーナー)の企業利益の横領から一般株主を保護するための企業支配構造の改善がまず必要だ。
政府の態度が右往左往しているのを見ると、商法が改正されると判断するのはまだ早いようだ。今回も総選挙用のリップサービスに終わる可能性がある。しかもイ院長は「企業の経営権確保や経営権継承装置」を前提条件として掲げた。経済界が要求する複数議決権(1株に複数の議決権を付与)の容認を念頭に置いたもののようだ。経営権防衛装置を取締役の株主保護責任と連係させること自体がとんでもない。むしろ、コリアディスカウントの解消に逆行する危険性が高い。
今年に入って米国や日本などの主要国の証券市場は史上最高値を記録しているが、韓国だけが足踏み状態だ。その原因の一つとして、企業の業績不振があげられる。市場の予想より良い実績を発表する「アーニングサプライズ(earning surprise)」企業の割合は、昨年第4四半期の時点で韓国(KOSPI、KOSDAQ)は米国(S&P500)と日本(日経平均)の3分の1から7分の1に過ぎない。韓国企業の長期的な収益性も低い。企業の業績は短期的に浮き沈みがあるものだ。だが、収益性が長期的に競争国より大幅に低く、改善の兆しさえ見えないとなると、根本原因を突き止めなければならない。
最近、新世界グループのチョン・ヨンジン副会長が会長に昇進した。新世界は昨年、最悪の経営実績を記録した。クーパンの躍進に象徴される流通産業の急速な環境の変化にまともに対処できなかったのだ。その責任を問われ、昨年9月に社長団の40%が交代した。しかし、権限と責任の最も大きい肝心の最高責任経営者は昇進した。SKグループのSKオンは、国内二次電池メーカー3社の中で唯一赤字を出している。昨年末には専門経営人の社長が交代している。同社の実質的な最高経営責任者であるチェ・テウォン会長の弟は健在だ。投資家たちのコンセンサスがどれほど得られるかは疑問だ。
業績がいくら悪くても支配株主一家は責任を取らない「無責任経営」は、財閥の長年の慣行だ。持株比率が平均4%に過ぎないのに企業の主人を自任し、絶対権力を行使するが、結果に対する責任は回避する。これは企業の収益性の低下に帰結するし、コリアディスカウントの解消を妨げる。
半導体メモリの最強者であるサムスン電子が、人工知能(AI)時代の寵児として浮上した高帯域幅メモリ(HBM)の開発でハイニックスに機先を制されたのは意外だ。先日、半導体担当社長がその理由を打ち明けた。AIが急浮上するかどうかが予想できなかったため、投資決定が遅れたというのだ。経営陣が投資提案を無視し続けたことで、中心を担うエンジニアが一度にハイニックスに移籍する事態まで起きた。最近ではインテルのファウンドリ事業への参入、マイクロンの第5世代HBM量産宣言までもが重なり、「サムスン危機論」すら取り沙汰されている。サムスンはかつて、困難に直面すれば特有の「危機経営」で突破してきた。その中心にはイ・ゴンヒ前会長がいた。しかし、最近は以前のような切迫感が見られない、との懸念の声が内部から漏れてくる。危機突破の先鋒となるべきイ・ジェヨン会長のメッセージが聞こえてこないと心配されているのだ。
財閥特有の「オーナー経営体制」は、創業者時代には強いリーダーシップを基礎とした長期投資で強みを発揮した。2世たちは創業者の肩越しにそれを見て学ぶことができた。だが、「金のさじ」として生まれた3世や4世たちが祖父や父親のような力量を示すのは容易ではない。現代自動車のチョン・ウィソン会長のように、革新を起こして驚くべき成果を出す例もあるが、平均すると成功確率は低下せざるを得ない。
支配株主の「権限と責任の不一致」、「無責任経営」は、支配株主による企業利益の横領と同様に後退した支配構造の産物だ。いま求められているのは、支配株主一家にも専門経営人のように経営成果に対して徹底的に責任を取らせるという革新だ。結果に対して責任を取る自信がないのなら、過大な欲を捨て、所有と経営を分離し、有能な専門経営人と役割を分担すべきだ。
政府与党は口でコリアディスカウントを叫んでばかりいないで、一般株主の保護のための商法改正を無条件で推進すべきだ。経営権を守ってくれるのは持株比率ではなく、経営の力量と成果だ。経営権防衛装置のようなでたらめな処方は直ちにやめるべきだ。グローバルスタンダードに反する空売りの禁止で市場の混乱ばかりを招いておきながら、まだ正気に戻っていないというのか。
クァク・チョンス|ハンギョレ経済社会研究院先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )