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[コラム]財閥改革は左派運動ではなく人口減少対策だ=韓国

登録:2024-03-08 08:40 修正:2024-03-20 09:11
イ・ジェソン|論説委員
尹錫悦大統領が2024年1月17日、ソウル汝矣島の韓国取引所で開かれた「国民と共にする民生討論会-第4回、共生の金融、機会のはしご拡大」で発言している=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 時計が逆に進む退行の時代には、概してあらゆるものが減り、小さくなっていく。表現の自由とともに人々の夢も、共同体の抱くビジョンの器も縮小していく。守りたい物事を多く持つ保守と既得権の欲望が暗雲のように太陽を覆い、変化の種が吸収すべきエネルギーが希薄になるからだ。

 泰山鳴動してねずみ一匹に終わった「企業バリューアッププログラム」は一つの例に過ぎない。新年早々、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「コリアディスカウントの解消」という号令とともに派手に始めた投資環境改善作業は、政府の具体案が出た途端に冷笑とあきらめの対象となってしまった。株主の価値を高めると言いながら、支配株主の専横を防ぐ支配構造の改善策がなかったからだ。

 このようになることが分かっていなかったとしたら、過度に楽観的だったか鈍感だったのだ。尹大統領は、小口株主の保護のための商法改正を自信を持って公表したものの、法務部の陰に隠れてこっそりと撤回している。公正取引委員会は、仕事の集中的発注などの私益詐取行為で法人を検察に告発する際に、オーナー一家も共に告発することを内容とする指針を、行政予告まで行いながら、自ら撤回している。1400万の株式投資家という巨大な票田に欲が出て、空売り禁止や金融投資所得税の廃止方針などをやたらと打ち出しはしたものの、いざ目標を前にすると言うことを変えるという撤退を繰り返している。一連の退却を貫くメッセージはただ一つ、総帥またはオーナーと呼ばれる大企業の支配株主の嫌がることはしない、だ。

 たとえ選挙戦略だったとしても、まともなバリューアッププログラムが出てくることを期待したのは、企業改革が経済だけでなく韓国社会全体の運命と直結しているからだ。先週、メディアが一斉に取り上げた韓国開発研究院(KDI)のコ・ヨンソン研究副院長の「より多くの大企業の雇用が必要だ」と題する報告書は、それについて重大な示唆を与えてくれる。韓国は250人以上の大企業の雇用の割合が経済協力開発機構(OECD)加盟国で最も小さい国であるため、大企業の雇用に代弁される良質な雇用が足りず、大学入試の過熱や出生率の下落などの社会問題へとつながっている、という内容だ。大企業の雇用の増加が、入試競争の緩和と人口減少の代案となりうるというのだ。

 この報告書で最も注目されるのは、韓国の大企業の雇用の割合がPIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)という蔑称で呼ばれた南欧諸国よりも低いということ。主要32カ国で韓国が32位、ギリシャが31位だ。2021年の韓国の国内総生産(GDP)は1兆8110億ドルで、2149億ドルのギリシャの8倍にものぼるが、大企業の雇用の割合はむしろギリシャの方が高い。経済規模が同じだと仮定すると、ギリシャの大企業数は韓国の8倍以上になるのだ。

 どのように解釈すればよいのだろうか。少数の財閥や大企業への経済力の集中を抜きにしては説明できない。産業化の過程で国の支援を受けてきた韓国の財閥は、不当な関係会社同士の取引やタコ足式経営、中小企業の技術の奪取などを通じて、圧倒的な独寡占構造を完成させた。新しい企業は市場への参入そのものが難しい。これと関連して、韓国経済が躍動性を失った原因は財閥企業への経済力の集中にあると分析するKDIのチョ・ドクサン研究委員による研究(「企業集団を中心とする韓国経済の資源配分の効率の下落」)は参考にするに値する。大企業に納品していた中小企業が、取引が途絶えた後にその背景を調べたところ、その大企業の系列会社が同じ製品を作って代わりに納品しており、果ては輸出までしている、という事例は今もざらにある。中小企業が大企業へと成長する機会そのものが奪われているのだ。

 このような反則を防ごうというものこそ、今や死語のように消え去ってしまった財閥改革であり、経済民主化だった。ところが韓国社会の主流は、資本主義らしい資本主義にしようという財閥改革や経済民主化を何かの左派のイデオロギー運動のように白眼視してきたし、その結果こそKOSPI企業の平均PBR(株価純資産倍率)が1にも満たないコリアディスカウント現象なのだ。財閥オーナーの支配体制そのものがグローバルスタンダードからかけ離れているのに、相続税が高いから「家業の継承」が難しいという反資本主義的な主張が大統領の口を通じて堂々と生中継されるのが韓国の現実だ。

 退行の時代に必要なのは省察と準備だ。財閥改革に加えられた不当なイデオロギー攻撃を退け、実用主義の視点をもって再び歩み出さなければならない。支配構造の改善を含めた財閥改革は左派運動ではなく、コリアディスカウントを解消し、良質の雇用を増やす道であり、入試競争と出生率の下落を緩和する方策なのだ。

//ハンギョレ新聞社

イ・ジェソン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1131342.html韓国語原文入力:2024-03-07 16:49
訳D.K

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