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[コラム]「小さなポーチ」に込められた尹大統領の不安

登録:2024-02-16 06:45 修正:2024-02-16 13:29
尹錫悦大統領の目には、ブランドバッグをめぐる攻勢が純真な妻を狙った「魔女狩り」として映っているのだろう。過去の大統領たちは、権力型ゲートを「魔女狩り」と思ったとしても、国民に心配をかけたことについて謝罪し、真実究明の意志を示してきた。だが、尹大統領はそうではない。裏に強い恐怖と不安を隠しているからこそ、堂々とした態度を装っているのはないだろうか。
尹錫悦大統領が7日午後、韓国放送(KBS1TV)を通じて放送された「特別対談:大統領室を訪ねる」で、キム・ゴンヒ女史のブランドバッグ授受疑惑と関連し、同放送のアンカーから質問を受けている。アンカーは「ブランドバッグ」を「ポーチ」と呼んだ/聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領にとって、夫人のキム・ゴンヒ女史のブランドバッグ授受事件は、「実体もなく誇張された虚像」だ。だからこそ「それ(牧師の面談要請)をきっぱりと断れなかったことが、問題といえば問題であり、少し残念なところではあるが、私自身もそれ(断ること)ができない場合が多い」とし、大したことではないという風に語ったのだろう。「経緯はどうであれ、国民に心配をかけて申し訳ない」という形式的な謝罪の一言すらない。軍事独裁時代を除き、最高権力者の家族の腐敗疑惑にこのように無謀に対応した大統領が他にいただろうか。

 「実体もなく誇張された権力型スキャンダル」の代表的事例として、金大中(キム・デジュン)政権時代の「服ロビー疑惑事件」を挙げることができる。「実に不思議な事件だった。某(企業)会長の夫人が拘束されたが、その会長の夫人が夫を救命するため、法務部長官の夫人など政府高官の夫人たちに服をプレゼントしたという疑惑だった」と金大中大統領は自叙伝に書いた。同事件をきっかけに、特別検察官制度が初めて導入された。国会は聴聞会を全国に生中継した。ところが、国会聴聞会と特検捜査を進めたにもかかわらず、明らかになったのは「ファッションデザイナー、アンドレ・キムの本名だけ」と言われるほど、成果はなかった。

 今、キム女史のブランドバッグスキャンダルを捜査し、聴聞会を開いても、結果は当時と同じだろうか。尹大統領自身も本当にそう信じているのだろうか。分からない。政治的な意味を込めた国民向け謝罪を最後まで拒んだのは、元検事としての本能的な自己防衛だろう。金大中大統領は「不思議な事件」だと思いながらも、国民の疑惑を解消するため、特検を受け入れた。尹大統領は、妻をめぐる疑惑の捜査または調査を絶対に受け入れないだろう。裸の王様のように、国民皆が事実を知っているのに、大統領夫妻だけが自分の確信の砂の城に閉じ込められているわけだ。

 服ロビースキャンダルの真っ最中だった当時、金大中大統領はモンゴルを訪れていた。国内が騒がしいから、マスコミと接触しない方が良いと参謀たちが進言したにもかかわらず、金大統領は現地で記者懇談会を開いた。外交的な成果を報告するのが主な目的だったかもしれないが、懇談会は予想通りの流れとなった。「キム・テジョン法務部長官をどうするつもりですか」、「調査の結果、容疑がなければ法務部長官を退陣させないつもりですか」、「以前からキム・テジョン長官の任命に批判が多かったようですが…」。3回連続で服ロビー事件に関する質問が続いた。最近は、大統領のせいなのか、それともマスコミが丸くなったのか、畳みかける質問攻勢で疑惑を追及する場面が見られない。

 それでも金大統領は、城南(ソンナム)空港の入国ロビーで出迎えた記者団と再び向き合った。またもや服ロビー関連の質問が出た。少し激昂した様子の大統領は、率直な本音をぶつけた。「政権指導層にいる人の家族問題で心配をかけて申し訳ない。徹底的に究明するが、魔女狩りになってはならない」。だが、世論の批判を受け、大統領は「魔女狩り」発言について再度謝罪せざるを得なかった。

 尹錫悦大統領の目には、ブランドバッグをめぐる攻勢が純真な妻を狙った「魔女狩り」として映っているのだろう。年頭記者会見を開かなったのは、わざわざ魔女狩りに便乗したマスコミの矢面に立つ必要がないという考えからだろう。しかし、尹大統領が気づいていないことがある。過去の大統領たちは、数々の権力型ゲートについて「不当だ」と思ったとしても、国民に心配を抱かせたことについて謝罪し、真実究明の意志を示した。だが、大統領はそうしない。これは堂々とした態度ではない。恐怖と不安を隠すための虚勢としか思えない。

 不利な状況でもマスコミに向き合った大統領と、お気に入りの放送局を選んで(司会者と)2人きりで対談する大統領には確かな違いがある。懸案を避けず、鋭い質問を恐れない態度は、政策を決定し国政を率いることにおいても、貫かれる可能性が高い。大統領をよく「最高司令官」と呼ぶのは、国軍統帥権を持っているからだけではない。危機状況で言葉ではなく行動で勇気と大胆さを示した時、国民は大統領を信じて従うことになる。「韓国放送」(KBS)との対談で国民が見たのは、権力スキャンダルに対応する大統領の姿勢だった。妻のための抗弁であれ、国民向けの謝罪であれ、なぜ堂々と国民の前に出ず、3日前に撮った録画放送を通じて、一方的に発言することで終わらせてしまうのかという点だ。

 公共放送はただ一人だけのためにブランドバッグを「ポーチ」という耳当たりの良い言葉にすり替えた。与党は「大統領夫人リスクは私たちが抱いていく」として、突拍子もない殺身成仁(身を殺して仁を成す)の姿勢を見せた。大統領室は参謀たちの進言に耳を貸さない権力者を「率直だ」と褒め称えている。このような友軍に囲まれた大統領は、自分が裸であることに気づかず、街を闊歩し続ける可能性が高い。いつまでそのような姿を見守らなければならないのか。

//ハンギョレ新聞社
パク・チャンス│大記者 pcs@hani.co.kr(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1128351.html韓国語原文入力:2024-02-14 18:44
訳H.J

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