韓国の国家報勲部が来年1月「今月の独立運動家」として李承晩(イ・スンマン)元大統領を選び、国防部は李元大統領を「慧眼の指導者」と美化する精神戦力教育教材を発刊した。「洪範図(ホン・ボムド)消し」で大きな波紋を呼んだ尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が、今度は「李承晩国父作り」で再び理念戦争に火をつけている。
報勲部は25日、「世界の中の独立運動」をテーマに2024年度今月の独立運動家38人を選び、その一人として李元大統領を加えた。李元大統領は日帝強占期(日本による植民地時代)に米国で活動しながら上海臨時政府の初代大統領に推戴されるなど、外交中心の独立運動家と評価されるが、それと同時に独立運動の過程で少なからぬ過ちを犯した人物でもある。光復(植民地からの解放)後、大韓民国の初代大統領になった後は、反民族行為特別調査委員会の活動を「アカ」と決めつけ、親日附逆派の清算を妨げた。また、朝鮮戦争当時には漢江(ハンガン)の人道橋を爆破し市民の避難を困難にしたほか、数多くの民間人虐殺にも責任がある。以後、終身執権を目標に1960年3・15不正選挙を行い、4・19市民革命で退くなど、独裁の道に進んだのは明白な歴史的事実だ。1992年に今月の独立運動家選びが始まって以来、この32年間にわたり、革新政権と保守政権にかかわらず、李元大統領を除外してきたのもこのためだ。今になってその過ちが突然消えるはずもないのに、無理に李元大統領を英雄に押し上げようとしているのだ。
国防部も26日、新しく発刊した精神戦力教育基本教材に李承晩元大統領を「慧眼と政治的決断で共産主義拡散を阻止した指導者」と評価する内容を盛り込んだ。5年ごとに改正される今回の教材で、歴代大統領の中で唯一李元大統領を紹介し、李元大統領の業績をもとに「今日、すべての国民が真の自由と平和、繁栄の価値を享受していることを記憶しなければならない」と強調した。全軍に配布される同教材で、李元大統領の過ちには全く触れず、偏った教育に乗り出すのは非常に危険な歴史歪曲だ。
尹錫悦政権は陸軍士官学校で洪範図将軍の胸像を撤去し、抗日独立運動家の業績を貶めるなど、時代錯誤的な理念戦争で社会を分裂させている。特に明確な国民の共感も意見集約もなく進められた今回の「今月の独立運動家」選びは、李元大統領を国父と称し美化することに注力してきたニューライトの歴史観に従い、支持勢力を集め保守層を結集しようとする政治的目的ではないかという疑念を抱かせる。尹政権は歴史的評価を覆し、李元大統領の過ちを覆い隠すことを止めるべきだ。