年末になって、自民党の資金問題が急展開している。まず、今回の問題を簡潔に説明しておく。50年以上にわたって自民党では度々大規模な腐敗、疑獄事件が起こった。1980年代末に起こったリクルート事件、佐川急便事件という大規模な政治腐敗では、竹下登首相が退陣に追い込まれたり、陰の実力者だった金丸信元自民党副総裁が脱税で逮捕されたり、政界に大きな衝撃が走った。そして、政治資金に関する規制が強化され、自民党の大物政治家が賄賂や違法な献金をもらうという事件は影をひそめた。政治家による金集めとして、パーティーという手法が広がった。パーティーというのは、1枚2万円の券を買った人を対象に、著名人の講演と飲食を提供するというイベントである。実際には、会場の収容定員を大きく超える枚数を売り、飲食物もごくわずかということが普通で、政治家はそれで大きな黒字を出して、政治資金にする。
では、なぜ派閥が大規模な集金をするのか。韓国では、大統領は国民の直接選挙で選ばれる。日本では、総理大臣は国会議員の選挙で選ばれる。自民党政権が安定している時には、自民党の総裁選挙が、事実上、総理大臣を決める選挙となる。そこで、総理の座を目指す有力政治家は、自民党内に仲間や子分を作り、総裁選挙を勝ち抜こうとする。だから派閥が存在する。そうした活動をするためには巨大な資金が必要であり、派閥を単位とする金集めが続く。
今問題になっているのは、安倍晋三元首相の安倍派における裏金である。この派閥では、メンバーの政治家にパーティー券の売り上げについてノルマが課されていた。他方、メンバーの販売努力を促すために、ノルマを超えた分については政治家に還流された。その資金が政治資金収支報告書に記載されず、裏金になったことが、政治資金規正法違反として捜査されている。この法律に違反すれば、政治家は国会議員の選挙に立候補する資格を失う。検察の今後の捜査がどこまで広がるかはわからないが、安倍派の幹部が逮捕、起訴されれば、安倍派のみならず自民党は崩壊の危機に追い込まれる。
今回の資金問題は、政治に限らず、広く組織一般における日本的システムの崩壊として理解することができる。明治維新の後、日本は近代化を追求し、西洋式の法制度を輸入した。第2次世界大戦の敗戦の後は、占領軍の指揮のもと、民主化を進めたはずである。しかし、政治、行政、経済の各分野では、日本的システムが温存された。それは、組織における画一主義と同調主義、親分-子分の服従関係、ルール(建前)と慣行(本音)の二重構造などである。そうした秩序の起源は、近代化以前のムラの共同体にあると考えられる。日本で、韓国と違って市民による政治への抗議活動が弱いのも日本的システムの現れである。
しかし、1990年前後から、グローバル化が進み、世の中のルールについても世界標準が日本国内に入ってくる。変化の過渡期においては、日本的システムでは「当たり前」のことが、世界標準を当てはめれば違法になるという混乱が起きた。
まず変わったのは経済の世界である。1990年代には、大手銀行が暴力団関係者に巨額の利益供与を行っていたことが明らかになり、自殺者まで出る事件となった。それ以後、法令順守が広がり、男女の平等やハラスメントの禁止なども、昔に比べればかなり改善されてきた。企業は世界的な競争にさらされるので、生き残るためには変化に対応せざるを得ない。
経済をコントロールしてきた官僚もそれに連動して変化した。民間企業による過剰な接待などというのも昔話になった。
政治の世界にはグローバルな競争がないので、最も変化から遅れている。30年前の政治改革によって政党や政治家の資金集めとその使い方をすべて透明化することが決められた。しかし、政治の世界では選挙や派閥活動のために足跡のつかない金が必要であり、パーティー券の収入の一部が政治家に還流され、裏金として使われた。ルールと慣行の二重構造が今日まで続いていたのである。
国民の政治に対する怒りは沸騰しており、岸田文雄政権に対する支持率は10%台から20%台前半まで低下した。岸田政権と自民党の命運がどうなるかまだ分からないが、政治の世界におけるルールの強化は不可避である。中期的に見れば、政治の世界でも日本的システムの崩壊は進むであろう。
山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)