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[コラム]韓国では成績が良ければ医学部? いびつな偏りのブーメラン

登録:2023-11-17 08:58 修正:2023-11-17 10:04
2024学年度大学修学能力試験当日の16日午前、京畿道水原市霊通区の梅遠高等学校で、受験生たちが試験の準備をしている=写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 今年も大学修学能力試験(修能)が終わった。今年の修能は、ひときわ浪人生が多かった。50万4千人あまりの受験者のうち、現役高校生は32万6千人あまり(約65%)にとどまる。浪人生の割合は、修能導入初期で混乱が大きかった1996学年度以来28年ぶりの高水準だ。3~4大学を束ねて等級で区分する序列化がさらに強固になっているうえ、6月の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領による突然の「キラー問題排除」方針は、修能に強い卒業生を大量に引き寄せた。

 だが、さらに懸念されるのは「医学部への偏り」が及ぼした影響だ。今年初めに取材の過程で出会った大学生のAさんは私立大学の人文系に入学したが、仮面浪人して韓医学部に乗り換えた。修能の点数が上がったため「医歯韓薬獣」へと進路を変更したケースだった。Aさんはもともと哲学に興味があると言っていた。韓医学部は適性に合うのかと尋ねたところ、「通っているうちに適応するのではないか」という答えが返ってきた。もうひとりの大学生Bさんは4浪の末、医学部の合格証を得た。彼は3浪して韓医学部に合格した時、「これくらいなら満足」だと思った。だが医学部に通う友人たちが韓医学部を一段階低くみなしているのを見て、もう一度受験したと言った。「医歯韓薬獣」の中でも細かく序列が付けられていたのだ。

 医学部への偏りにはいくつかの共通点が見られる。誰もがそうというわけではないが、ひとまず適性は聞かれも問われもしない。別の専攻に関心があったとしても、成績が少し良くなったと思われたら医学部を勧められる。塾での成績が上位圏であれば、医学部志望でなくても「医学部クラス」に編入される、という具合だ。医学部準備の開始年齢は次第に下がり、医学部入試に挑戦する年齢は上がっている。「小学生医学部クラス募集」の横断幕はもはや見慣れない風景ではない。医大に入るために5浪、6浪も辞さない「修能浪人」が生まれており、理工系学科は学生の中退で苦労している。この3年間で全国の国立大学医学部に定時選考で入学した1121人のうち、浪人生は911人(81.3%)を占めた。競争の激化で現役生が入ることが難しくなっているのだ。

 医学部への偏りは、入試に数年余計に投資しても一生の高所得が保障される医師免許で補償されるという信念から生じている。経済協力開発機構(OECD)の報告書によれば、韓国の開業医の平均所得(2021年、専門医)は一般労働者の6.8倍にのぼる。その格差は加盟国中で最大だ。通貨危機以降、雇用の安定性が大きく低下した韓国社会において、医師は「安定した職業」の最高峰となったが、時間の経過とともに人材を吸い込むブラックホールとなってしまったのだ。医師団体の反発で医学部の定員が18年間にわたって固定されていることで、医師免許による地代追求効果ははるかに膨らんでいる。司法試験が廃止されて弁護士数が増えてからというもの、医師と弁護士との所得格差が次第に広がっているのもそれを傍証する。

 2020年に文在寅(ムン・ジェイン)政権が医学部定員の増員と公共医学部の設立を推進したことに対し、大韓医師協会傘下の医療政策研究所は「あなたの生死を分ける重要な診断を受けなければならない時、どちらの医師を選ぶか」と問うビラをつくり、大きな波紋を呼んだ。「毎年全校1位を逃さないために学生時代に学習にまい進した医師」と「成績はかなり足りないが、それでも医師になりたくて推薦で入学した公共医学部の医師」の2つから選択しろというのだ。医師たちの特権意識がありのままに表現された例だった。

 いびつな医学部への偏りのブーメランは、患者と国民へと返ってきている。人口1000人当たりの医師数はOECD加盟国の平均にも満たない。いわゆる「救急室たらい回し」に象徴される必須・地域医療の空白は深刻だ。必須医療である「内外産小(内科、外科、産婦人科、小児科)はそっぽを向かれ、収益性の高い「皮眼整(皮膚科、眼科、整形外科)に医師が集中している結果だ。かといって、医師の欲望にばかり責任を押し付けるべきではない。そもそも国が医療の公共性を念頭に置いて医師人材を配分したのではなく、営利の追求が基本である市場に任せてばかりいたせいではないか。

 医学部への偏りは、韓国社会の抱える慢性的な諸問題の縮図に他ならない。労働市場の両極化から学閥社会、首都圏への集中による地方の消滅、政府・政界の無能に至るまで。高次方程式は解かなければならないが、第一歩を踏み出すことが重要だ。大統領が自ら医学部増員方針を公にしたのだから、選挙用のポーズにとどまってはならない。医師団体との交渉を通じてこの問題を解決しようとしていては、進展をみるのは難しい。まず政府が医療の公共性を回復する長期計画を提示し、社会的にきちんと議論を尽くすべきだ。

//ハンギョレ新聞社

ファンボ・ヨン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1116630.html韓国語原文入力:2023-11-16 17:55
訳D.K

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