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8万円台のミサイルに破れたイスラエルのアイアンドーム…ソウルの空は安全か

登録:2023-10-10 06:06 修正:2023-10-10 06:44
政治BAR_クォン・ヒョクチョルの見えない安保 
ハマス、ミサイルを短期集中的に大量発射し 
「ミサイルを90%迎撃」 アイアンドームの神話崩れる 
元々アイアンドーム自体が金城鉄壁ではなかった
イスラエルの防空網「アイアンドーム」が8日(現地時間)、ガザ地区から発射されたミサイルを迎撃するために稼動している=アシュケロン/ロイター・聯合ニュース
クォン・ヒョクチョルの見えない安保//ハンギョレ新聞社

 7日(現地時間)、パレスチナのガザ地区を統治する武装政派ハマスがイスラエルに大々的な攻勢をかけた。ハマスが撃った多数のミサイル弾がイスラエルの低高度防空網「アイアンドーム」を突き破ってイスラエルに落ちた。アイアンドームは射程距離4~70キロ(迎撃高度は10キロ)内で短距離ミサイルと砲弾などを迎撃する兵器システムだ。

 これまでイスラエルとハマスの武力衝突の時、イスラエル国防省はアイアンドームがハマスの撃ったミサイルを命中させる花火のような迎撃映像を公開してきた。イスラエルは2011年にアイアンドームを配備して以来、数回にわたりガザ地区の武力衝突でパレスチナ側のミサイルの90%以上を迎撃したと主張してきた。このような主張から「無敵のアイアンドーム」神話が定着した。

 韓国国内では、北朝鮮の長射程砲に対する国民の不安が大きいことから、実戦で検証されたイスラエルのアイアンドームが必要だという主張も出ていた。実際、韓国軍当局は2010年11月の延坪島(ヨンピョンド)砲撃戦以降、アイアンドームの導入を検討したが、「朝鮮半島の地形と戦場の環境に合わない」という理由で不適合判断を下した。武装集団であるハマスの貧弱な武装力と、正規軍である北朝鮮軍のミサイル大量発射能力は、比較にならないほど異なるためだ。

 2021年5月の武力衝突でハマスは10日間にミサイル4300発を撃ったという。平均すると、1日430発、1時間当たり18発という計算になる。北朝鮮軍の長射程砲は1時間当たり1万6000発を発射できるという。1時間当たりの発射規模(迎撃対象)を比べると、ハマスのミサイルが小雨なら、北朝鮮の長射程砲は集中豪雨であるわけだ。

 首都圏を狙って集中的に発射される北朝鮮の長射程砲弾に対するアイアンドームの防御能力は非常に劣る。アイアンドームの砲台1基で30発余りのミサイルを迎撃できるという。 1基の砲台を配備するためには600億ウォン(約65億9300万円)以上かかる。韓国が北朝鮮の長射程砲攻撃を防ぐためには、多くのアイアンドームが必要であり、約3兆ウォン(約3300億円)の費用がかかる。このような理由で「朝鮮半島の戦場環境には合わない」という判断が下された。

 ハマスはこれまで断続的にミサイルを発射してきたが、今回は一気にミサイルを発射した。7日、ハマスの軍事組織を率いるモハンマド・デイフ司令官は声明を発表し、「最初の20分間の射撃で5千発以上のミサイルを発射した」と主張した。1時間に換算すると1万5千発以上。北朝鮮の長射程砲一斉射撃のように大規模なミサイルがイスラエルに降り注ぎ、イスラエルが備えた13基前後のアイアンドームの砲台の対応能力を超えた。アイアンドームシステムに過負荷がかかり、レーダーと射撃統制システムが正常に作動せず、準備された迎撃ミサイルもすぐに底をついたはずだ。今回の攻撃で、金城鉄壁のようなイスラエルのアイアンドームに穴が開いたのではなく、そもそもアイアンドーム自体が金城鉄壁ではなかったという意味だ。

 韓国国防部は2020年、「韓国型アイアンドーム」と呼ばれる北朝鮮の長射程砲迎撃システムの開発を決定した。昨年7月、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権はこのシステムの戦力化の時期を、当初の2030年から2026年に繰り上げると発表した。国内では韓国型アイアンドームが完成すれば北朝鮮の長射程砲の脅威から首都圏全体が安全になると期待しているが、韓国型アイアンドームを導入しても、北朝鮮のミサイル攻撃を100%防ぐことはできないのが現実だ。

北朝鮮が2019年5月に火力打撃訓練を実施する様子。同訓練には、北朝鮮版イスカンデルと推定される飛翔体のほか、240ミリ放射砲と新型自走砲とみられる兵器も動員された/朝鮮中央通信

 北朝鮮のミサイルと長射程砲の脅威に追いつくように防衛能力を強化する状況は、韓国にとって絶対的に不利だ。韓国が巨額を投じてミサイル防衛網と長射程砲迎撃網を張り巡らせても、北朝鮮はこれよりはるかに安い費用でミサイルと長射程砲の数量拡大、多弾頭と模擬弾頭の搭載、ミサイルと放射砲の混合発射などで対応できるためだ。

 韓国が北朝鮮のミサイルと長射程砲に対する迎撃能力を備える上で最も大きな問題は、費用対効果が低いということだ。今回のイスラエルとハマス衝突のように、攻撃する側は安価なミサイルを短期間で大量発射することで、防御する側の高価な迎撃ミサイルをすぐ消耗させることができる。イスラエルのアイアンドームに使用する迎撃ミサイル1発は8千万ウォン(約880万円)程だが、ハマスのミサイル1発はその100分の1の80万ウォン(約8万8千円)程度だ。

 今回のイスラエルとハマスの衝突で、短時間で大量発射されたミサイルを迎撃するのは難しいことが明らかになった。この機に、韓国政府当局は開発中の北朝鮮長射程砲迎撃システムが首都圏全体を金城鉄壁のよう防御するものではなく、大統領室、国軍指揮部、飛行場、港湾など主要施設を選択・集中して守る事業であることを国民に知らせる必要がある。

クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/polibar/1111355.html韓国語原文入力:2023-10-10 02:43
訳H.J

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