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[コラム]米国は3つの戦線で同時に戦えるのか

登録:2023-10-24 06:14 修正:2023-10-24 08:24
「我々は歩きながらガムを噛むことができる、イスラエル支援とウクライナ支援、そして台湾防衛の3つすべてを行える能力を兼ね備えたグローバル大国だ」。米国がそのような能力を持っているのかどうかは分からないが、それより、このような状況を招いた過ちが何なのかをまず考えるべきではないだろうか
23日(現地時間)、パレスチナのガザ地区南部のハンユニスで、住民たちがイスラエル軍空爆で崩れ落ちた建物の前に集まっている=ハンユニス/ロイター・聯合ニュース

 米国の現実主義の国際政治学者、スティーブン・ウォルト氏(ハーバード大学教授)は6月、フォーリン・ポリシー誌への寄稿「サウジアラビアとイスラエルの平和協定には価値がない」で、この交渉は戦略上の深刻な過ちになると警告した。

 ウォルト氏は、イスラエルは域内のいかなる国も攻撃を考えられないほどの大国であり、サウジがイスラエルと手を組んでイラン牽制に乗り出すことは公然の秘密だと指摘した。また、イスラエルとサウジアラビアは米国の友好国ポートフォリオを最も台無しにしている国なのに、ジョー・バイデン政権は彼らの安保を守るために外交・軍事資産を無駄にしていると批判した。米国は、両国が国交正常化した場合、これらの国の安全を保障すると約束した。

 イスラエルがパレスチナの独立国家建設の合意を形骸化させているにもかかわらず、米国はイスラエルを無条件で支持することで、「イスラエルの弁護士」という汚名を着せられている。サウジアラビアもウクライナ戦争以降、西側と中国・ロシアの間の等距離外交でロシアに対する西側の制裁を形骸化させ、中東で中ロの影響力を広げている。

 スティムソン・センターのエマ・アッシュフォード先任研究員も「世界政治評論(WPR)」に「サウジアラビアとイスラエルの関係正常化交渉は米国にとって得ではない」という題名の寄稿文で、「この交渉の最も実現可能なシナリオは、米国がサウジアラビアの安全保障に責任を持ち、中国はその王国の最も重要な経済パートナーとして残ること」だとし、「これは割に合わない取引」だと指摘した。ウォルト氏は何よりも「イスラエルとサウジアラビアの関係正常化を推し進めることで、バイデン(大統領)とブリンケン(国務長官)はイスラエルのアパルトヘイト(パレスチナ封鎖と孤立)を強固にすることに役立っている」と批判した。

 7日にイスラエルを攻撃したハマスの指導者、イスマイル・ハニヤ氏は「あなたたちが署名したすべての関係正常化合意は(パレスチナをめぐる)軋轢を解消できない」と語った。サウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉によるパレスチナの疎外と怒り、パレスチナ紛争から目をそらしていた米国の戦略上の過ちが、再び中東全体に紛争を広げている。

 イラク戦争後、米国の中東政策は道を失った。2001年に同時多発テロが起きると、米国のネオコンは同テロとは関係のないイラクを侵攻した。イスラエルの主敵であるイラクのサダム・フセイン政権を倒せば、親米民主主義ドミノ効果が中東に広がるという白昼夢を見ていた。しかしフセイン政権が消えると、巨大な勢力の空白が生じ、イスラム主義勢力がイスラム国(IS)へと発展した。イランの影響力も大きくなった。イランの同盟であるシリアのアサド政権の打倒を狙ったシリア内戦は、むしろロシアの進出を招いた。ドナルド・トランプ前政権はイランとの国際核合意を破棄し、イスラエルとサウジアラビアなどスンニ派のアラブ諸国との国交正常化を目指すアブラハム合意プロジェクトを進め、バイデン政権はこれを継承し発展させた。

 現在の中東を見てみよう。パレスチナ紛争はガザの枠を超え周辺地域にあふれ出している。イスラエルがガザ地区への地上軍侵攻を強行すれば、ヒズボラなどの反イスラエル勢力は黙って見過ごしはしないだろう。イスラエルは2005年にガザから一方的に撤退して封鎖し、2006年にレバノンを侵攻した。パレスチナの封鎖を強化するためだったが、イスラエルは軍事的にも戦略的にも敗北した。ヒズボラはガザのハマスを「唇亡びて歯寒し」の関係と考えるようになっており、イスラエルによるガザ侵攻に介入するだろう。

 ハマスの攻撃で再燃した中東域内の怒りに驚いたサウジアラビアは、イスラエルとの国交正常化交渉を中止し、自国を訪れたバイデン大統領に冷たい態度を示した。その代わり、イランと対話し、紛争の拡散を食い止めるために独自の外交を展開している。

 中国・ロシアは中東で影響力を高め、米国の足を引っ張ろうとしている。中ロはこれまでイスラエルとの関係改善を進めてきたが、今回の事態を機に「親パレスチナ中立」に転じた。ウクライナ戦争に続く中東戦争は、欧州にとっては特に悪夢だ。エネルギーと難民という死活問題をさらに悪化させるからだ。

 イラク戦争後、米国の対外政策の大きな流れは、中東からの脱出とアジア太平洋における中国との対決だ。今、ウクライナ戦争に続き中東の戦雲が押し寄せている。米国の戦略家の一人であるアイヴォ・ダールダー元NATO大使はウォールストリート・ジャーナル紙に、イスラエル支援とウクライナへ支援、そして台湾防衛について「私たちは歩きながらガムを噛むことができる」とし、「3つすべてを同時に行える能力を備えたグローバル大国だ」と自信を示した。いま必要なのは、そのような米国の能力に対する自負ではなく、このような状況を招いた理由に対する熟考ではないだろうか。

//ハンギョレ新聞社
チョン・ウィギル国際部先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1113276.html韓国語原文入力:2023-10-24002:38
訳H.J

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