パレスチナのイスラム武装組織ハマスの「後ろ盾」の役割を果たしてきたイランが、現在展開されているイスラエルとハマスの戦争にどこまで介入すべきかをめぐり「深い悩み」に陥っている。だが、戦争はすでにヨルダン川西岸地区やシリア、レバノンなどに手の施しようもなく広がっている。
ロイター通信は22日(現地時間)、イスラエルの元高官の話として「イランがハマスを救うためにガザ地区で繰り広げられている戦闘にレバノンの武装組織ヒズボラを前面に出すべきか、支援せずに手を引くべきかをめぐり、ジレンマに陥っている」と分析した。第一次と第二次のインティファーダ(民衆蜂起)の際に交渉に関わった同関係者は「現在、イランは自国に迫る危険について電卓を叩いている」とし、「これが現在、イランが置かれている状況だ」と語った。
イランはこれまで、イスラム革命の拡散に向けシーア派勢力の力を結集し、サウジアラビアに代表されるスンニ派の王政国家に対抗すべきだと主張してきた。このため、シリアのバシャール・アサド政権、ハマス、ヒズボラ、イエメンのフーシ派などを支援し、サウジアラビアなどスンニ派王政国家と域内の覇権を争ってきた。このような状況で、イランがハマスとヒズボラを支援しなければ、これまで掲げてきた革命の大義名分と対外的地位が大きく揺らぐ。匿名のイラン高官はロイターに「イスラエルのガザ地区への全面侵攻を傍観すれば、イランが進めてきた中東地域内の覇権戦略が大きく後退するだろう」とし、「イランの立場にも打撃を与えかねない」と述べた。
しかし、国内外の困難な状況がイランを悩ませている。イラン経済は、ドナルド・トランプ当時米国大統領が2018年に「イラン核合意(JCPOA:包括的共同行動計画)」を一方的に破棄し、経済制裁を復活させてから、大きく悪化した。昨年も消費者物価が前年より45.8%も上がるなど経済難が続いている。これに加え、ヒジャブをきちんと着用しなかったとの理由で逮捕されたのち急死したマフサ・アミニ事件を機に始まった「反政府デモ」が最近まで続いた。
軍事的な面だけを考えても、イランが本格的な介入を決断するのは容易ではない。イスラエルの軍事力が強力なうえ、米国も2つの空母打撃群を東地中海に配置し、イランの動きを積極的にけん制している。下手に動いてイスラエルの反撃に遭い、莫大な被害を受けた場合、さらなる国民の怒りを招く恐れがある。
しかし、戦争はすでに拡大している。イスラエル軍は22日、ヨルダン川西岸地区のジェニン難民キャンプ近くにあるアル・アンサール・モスクを空爆した。イスラエルは、ここでハマスと連帯する別のパレスチナ武装組織イスラム聖戦が活動してきたと主張した。パレスチナ保健省は7日以降、イスラエルが西岸地区にも空襲を加え、西岸で少なくとも93人が死亡したと発表した。
同日未明、シリア国営の「シリア・アラブ通信(SANA)」は、首都ダマスクスと北部アレッポの国際空港2カ所がイスラエル軍の攻撃を受け、滑走路の運営を中断したと報じた。同通信の報道によると、ダマスクス空港では1人が死亡し、数人が負傷したという。レバノンでも23日、イスラエルの戦闘機がヒズボラの部隊2カ所を空爆し、ヒズボラ隊員1人が死亡したという。ヒズボラのナンバー2、ナイム・カセム師は21日、隊員6人が死亡したとし、「イスラエルは高い代償を払うことになるだろう」と警告したうえで、「我々はすでに戦争の中心にいる」と述べた。