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[寄稿]「世界の安全保障の最大のリスクは米国なのか」

登録:2023-09-04 08:17 修正:2023-09-04 10:17
トランプ陣営の2021年の大統領選に対する不服と議会乱入、民主・共和の両極端な勢力の台頭と、かつてはこれを仲裁した中道・穏健派の衰退、大局的な共同善や国家の利益よりも個人や党派の利益に重点を置く政治土壌など、ハースの悲観論には十分な根拠がある。このような国内政治の構図が米国の外交政策の予測可能性と信頼をむしばみ、同盟国と友好国はいっそう米国を信じて従うことが難しくなるというのが彼の診断だ。。 
 
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授
2021年1月、大統領選の結果に不服を申し立てた米国のドナルド・トランプ前大統領の支持者が議会議事堂に乱入して星条旗を振っている/聯合ニュース

 「米国人は正しいことをすると常に信じることができる、試行錯誤があることが問題だが」

 ウィンストン・チャーチルの言葉だ。第2次世界大戦後、米国は自由主義陣営で「慈愛深い覇権国」の地位を獲得し、同盟国と友好国から絶対的な支持と尊敬を得ていた。だが最近、米国の地位と政策に対する批判が、それも米国内の主流の人物たちからの激しい自己批判が起きている。いわゆる「米国無謬(むびゅう)論」に対する激しい挑戦だ。

 7月1日付のニューヨーク・タイムズ紙は、米国の代表的な外交安全保障シンクタンクである外交問題評議会(Council on Foreign Relations)の会長として20年間在任して退任したリチャード・ハースのインタビューを掲載した。印象的な部分は「あなたが夜眠れなくなるほど、現在の世界の安全保障において最も深刻だと思われるリスクは何か」という質問に対する彼の答だ。「それは私たちだ」(It's us)。米国が最大のリスクだというのだ。ハース前会長は、米国内の混乱が、ロシア、中国、イラン、北朝鮮、気候変動などのような外部の脅威よりもさらに深刻だと指摘する。米国民主主義の退行が外交政策の根幹を揺さぶっているという叱責だった。

 トランプ陣営の2021年の大統領選に対する不服と議会乱入、民主・共和の両極端な勢力の台頭と、かつてはこれを仲裁した中道・穏健派の衰退、大局的な共同善や国家の利益よりも個人や党派の利益に重点を置く政治土壌など、ハースの悲観論には十分な根拠がある。このような国内政治の構図が米国の外交政策の予測可能性と信頼をむしばみ、同盟国と友好国はいっそう米国を信じて従うことが難しくなるというのが彼の診断だ。ただでさえ国力の相対的な衰退にある米国としては、国際社会でのリーダーシップが揺らぐのは避けられないということだ。

 ハースの発言の波紋が大きかった理由は、彼と外交問題評議会が占める地位のためだ。1921年に設立され100年の歴史がある外交問題評議会は、5000人ほどの会員を持つ超党派的なシンクタンクで、米国社会の主流エリートの見解を代弁してきた。特に、外交時事専門誌「フォーリン・アフェアーズ」(Foreign Affairs)を通じて、米国の外交政策の大きな流れを主導してきた。ハースはそのような外交問題評議会の会長として最も長く在任し、過去40年間、共和・民主両党の政権をわたり歩いて外交分野の高官を務めてきた。慎重でバランスの取れた発言が定評であるハースのこの発言は、米国内外に大きな衝撃を与えた。

 注目される点は、2003年にハースに会長の座を譲り名誉会長に退いたレスリー・ゲルブも、2009年の著書『力が支配する』(Power Rules)で似たような警告をしたという事実だ。米国務次官補やニューヨーク・タイムズの論説室長を務め、10年にわたり外交問題評議会の会長を担ったゲルブは、当時就任直後だったオバマ大統領に献本した著書で、米国の外交安全保障を難しくするのは外部ではなく内部の脅威だと指摘している。

 ハースとは違い、ゲルブは米国民主主義自体は批判しなかった。暴力的なトランプ現象が当時は存在していなかったためだろう。代わりに、米国の国内政治に隠れている「3つの悪魔」が外交政策を破綻に導いたと嘆いた。一つ目は、価値と原則を過度に強調し、世界を善と悪に分ける理念的硬直性、二つ目は、党派的利益の追求と政治勢力の両極化と、妥協政治の不在として現れる国内政治の混乱、3つ目は、自信を越えて例外主義や一国主義、優越主義として現れる米国的傲慢(hubris)だ。2001年のアフガニスタン侵攻、2003年のイラク侵攻のような米国外交の代表的な失敗は、まさにこれら3つの悪魔が生み出した惨劇ということだ。

 気になることは続く。チャーチルの言葉通り、これは単に米国の試行錯誤にすぎなかったのだろうか。ならば、なぜその後も、米国は同じような政策の失敗を繰り返すのだろうか。素晴らしい経歴と背景を持つゲルブとハースの忠心のこもった警告と忠告は、なぜ受け入れられないのだろうか。代案として、ゲルブは常識、謙遜、慎重性の復活を、ハースは目覚めた市民の積極的な参加と監視、妥協の美徳と共同善の追求などを言う。だが疑わしい。試行錯誤の繰り返しを避けようとする努力と意志を、米国政治から見出すことができないからだ。8月26日にミルウォーキーで開かれた共和党の大統領予備選挙の候補者討論会の内容をみれば、それは明らかだ。

 より大きな心配は、そうした米国に全賭けする韓国の現実だ。はたして、今日または明日の米国は、韓国の運命を全面的に任せてもいい相手なのだろうか。起訴後もトランプの支持率が今なおバイデンに劣らないという世論調査の結果をみながら思う最後の考えだ。

//ハンギョレ新聞社

ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1106934.html韓国語原文入力:2023-09-04 02:40
訳M.S

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