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[寄稿]汪暉の汎アジア主義をどう見ればいいのか

登録:2023-05-16 08:27 修正:2023-05-17 20:44
[世界の窓]スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授
中国共産党創立100周年の記念日である2021年7月1日、北京の天安門広場に掲げられた毛沢東初代主席の大型肖像画の前で、軍楽隊が催しに先立ちリハーサルをしている/聯合ニュース

 現在中国で起きていることを理解するためには、汎アジア主義から始める必要がある。19世紀末の西欧帝国主義の支配と搾取に対する反作用として登場したこの思想は、西欧の自由主義的な個人主義に基づかない経済的、政治的解放を成就しようとする複雑な意図から始まった。アジアは、西欧の発展過程について行く必要はなく、アジア的伝統を活用することで、西欧よりさらに躍動的な手法による産業近代化を成し遂げることができるという主張だ。

 汎アジア主義は、ファシズムや共産主義の姿で現れたりもする。ファシズム形態の汎アジア主義を日本軍国主義が示したとすれば、共産主義的な汎アジア主義は、中国の優れた思想家である汪暉が強く述べている。毛沢東思想に忠実でありながらも経済問題では社会民主主義者である彼は、次のように明言した。

 「独占と市場の横暴に対する抵抗が市場に対抗する闘争だと、安易に考えてはならない。そのような社会的な抵抗そのものに、公正な市場競争と経済民主主義のための努力が含まれているためだ」

 「社会正義と公正な市場競争を作るためには、国家の介入に対する抵抗でなく、社会主義民主制(Socialist Democracy)が必要だ。社会主義民主制が、国家に対する社会の民主的統制を通じて、国家が国内独占と多国籍独占の保護者になることを防がなければならない」

 習近平が改革を通じて巨大企業の独占を狙っているというが、こんにちの中国において、社会主義民主制が「国家に対する社会の民主的統制」を行っていると言えるのだろうか。そのような民主主義は存在したことはない。「社会」と「党」を同じところに置くのであれば、中国共産党が国家を統制しているとは言えるだろうが、現在の中国で「国家に対する社会の民主的統制」を見出すことは不可能だ。

2019年に韓国で開かれたアジア未来フォーラムに参加した中国清華大学人文学部の汪暉教授。汪暉は「20世紀の中国」概念に自身の思惟を集中させている=パク・チョンシク記者//ハンギョレ新聞社

 汪暉は、社会民主主義がアジア文明の伝統に基づき、西欧式の多党制民主主義よりさらに人民の参加を保障する二者択一な社会秩序を作ることができると主張する。彼は、毛沢東、鄧小平、習近平の業績が、孫文から始まり朝鮮戦争への介入を経て、最近の台湾との統一の試みにつながる解放の過程に属していると考えている。そのうえで、西欧が狭い見解でこの重要な点を見ることができず、単に西欧の自由民主主義と共産主義・全体主義との間の闘争としか見ていないと批判する。

 彼は、欧州は国民「国家」であり、中国は固有な多文化「文明」だと思考しているようだ。だが、私たちが今、中国で見ているのは、強力で統一された国民国家を目指し、少数民族を厳格に統制し、愛国心を最高の価値として前面に出す傾向だ。むしろ、スコットランド、ウェールズ、バスク、カタルーニャが独立を要求している欧州のほうが、はるかに多文化的だ。汎アジア主義左派は、米国と欧州は資本が統治し国家機関が資本に服従しているのに対し、中国では国家が資本を統制していると主張するが、社会経済的な権利の面で、中国より欧州のほうがはるかに社会民主的だ。

 汪暉をはじめとする汎アジア主義左派は、農民や労働者など大多数を占める人民が参加するいわゆる「人民戦争」を、アジア的な解放運動の特徴だと主張し、中国革命、ベトナム戦争、朝鮮戦争の際の「抗米援朝」を人民戦争の例にあげる。だが、中国の朝鮮戦争への介入は、正規軍だった人民志願軍を動員したという点で、人民戦争にはなりえない。むしろ、現在様々な方式で正規軍を助けロシアに対抗しているウクライナ市民こそ、人民戦争の意味にふさわしい戦いをしている。

 西欧が偽善的であるのと同様に、中国とロシアも偽善的だ。国家ごとの違いを尊重しなければならないという彼らの主張はにせ物だ。彼らは、イスラム諸国やペルシア湾の君主国にも自分たちの生き方を選択する権利があるというが、これらの国々の内なる敵対は無視する。だが、イランでのデモが示すように、国家の内なる敵対こそ、帝国主義的な普遍主義でない二者択一な普遍主義の空間を開いてくれる。デモに参加するイラン市民に同情や連帯を表現するだけでは十分でない。イランの闘争は私たちすべてにとっての闘争だ。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1091721.html韓国語原文入力:2023-05-15 02:36
訳M.S

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