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[寄稿]どのような未来を選択すべきか――近づく破局を防ぐために

登録:2023-02-11 09:00 修正:2023-02-11 09:53
[世界の窓]スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授
ロシア軍が昨年10月26日(現地時間)に核訓練を実施し、大陸間弾道ミサイル「ヤルス」を試験発射している=プレセツク/ロシア国防省・UPI・聯合ニュース

 フランス語で「未来」を意味する単語は2つある。「フュテュール」(futur)が現在の連続としての将来、すでに存在する傾向性が完全に実現される時を意味するのであれば、「アブニール」(avenir)は、現在と急進的に断絶した未来、現在と断絶した将来を意味する。後者は単なる「この後に来る時」でなく、まだ来ていない「新たに到来する時」を示す。

 現在の黙示録的な状況において、私たちの未来は、核戦争、生態破壊、グローバルな経済と社会の混沌が収束されるディストピア的なゼロ点だ。現在の状況を放置した場合、世界はその固定点に向かって引きずり込まれるだろう。近づく破局とたたかうためには、その固定された地点に向かって加速する漂流を止めなければならない。

 哲学者ジャン=ピエール・デュピュイは、破局の脅威に正しく対抗する方法として、新しい時間の概念を提案している。その時間は、過去から未来に向かう線でなく、過去と未来の間を循環する閉回路だ。その時間の中で未来は私たちの過去の行動によって偶然発生し、私たちの行動は未来に対する私たちの予測と期待、そしてそれに対する対応によって決定される。私たちはまず、破局を避けることのできない運命と認識し、その中に自らを投げ込まなければならない。「現在起きている破局を防ぐためには、過去に様々な行動をすべきだった」といった可能性を「未来の過去」に遡及して挿入し、それに従って行動しなければならない。テオドール・アドルノとマックス・ホルクハイマーは共著『啓蒙の弁証法』でそのような作業をした。二人の哲学者は、未来について統制社会という最も「悲観的」な予測をして固定した後、そうした未来が来ないよう行動に出なければならないと訴えた。

 過去は遡及的再解釈に対して開かれているが、未来は閉じられている。未来を変えることはできないという話でなく、未来を変えるためには、まず過去を変えなければならないという話だ。そして、再び世界大戦が起きるかという質問に対する答えは、逆説的にならざるをえない。大きな事件が起きれば、それは起きざるをえなかったということになり、その事件が起きなければ、それは避けられないものではなかったということになる。すなわち、あらゆる事件の必然性は、その事件が発生した時に遡及的に発生する。世界大戦が起きるのであれば、それは過去の様々な原因によって発生した必然的な事件として理解されることになり、世界大戦が起きなければ、あらゆる人が世界的な衝突がもたらす致命的な結果を意識し、破局を避けたのだと理解されるだろう。

 そうした意味で、未来が来ていない時点では、未来を破局的な事件の発生と未発生を同時に含むものとして考えなければならない。破局と再生という2つの可能性があるという意味ではない。「重なった2つの必然性」が存在するという意味だ。グローバルな破局は存在し、全体の歴史がその破局に向かって動かざるをえないことも必然的であり、同時に、私たちがその破局を阻止しなければならないことも必然的だ。重なり合った2つの必然性のうち1つだけが実現するのであり、どちらが実現してもその歴史は必然的だ。

 核戦争も同じだ。核戦争の輪郭はすでに描かれている。いま私たちは人類の歴史上初めて、急進的な行動を通じて戦争を阻止しなければならない。すべての勢力が、自分たちは平和を望んでおり、相手の脅威に対応しているだけだと主張する。自身は理性的に行動するが、相手方は非合理的だという主張だ。私が幼かった頃、トイレットペーパーが品切れになるという話が広がった。人々はデマだということを知りながらも、他の人たちがうわさを信じてトイレットペーパーを買い占めることはありうると考え、自分たちもトイレットペーパー買い始めた。結局、本当にトイレットペーパー不足の事態になった。

 宇宙人が地球をすでに訪問しているとすれば、なぜ彼らは人間と接触を試みなかったのだろうか。人間を観察してみた結果、関心を持つほどの価値はないと結論を出したのではないだろうか。人間は、生態破壊と核戦争のような自己破壊に向かって進む存在だ。左派は政治的正しさに埋没し社会的連帯を疎かにして、中道左派と右派は資本の利益ばかりを代弁する。宇宙人が、地球人の病気に感染しないために人間を無視した方がいいという結論を下すのは当然だ。私たちが新たに到来する未来を選択するのであれば、宇宙人も私たちを関心を持てるる存在とみなすことになるのではないだろうか。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1078373.html韓国語原文入力:2023-02-06 02:36
訳M.S

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