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[コラム]尹錫悦大統領による検察政権1年、旧ソ連の検察の影

登録:2023-05-12 07:42 修正:2023-05-12 14:27
尹錫悦大統領が2022年5月26日午前、ハン・ドンフン法務部長官に任命状を授与した後、記念撮影をしている/聯合ニュース

 旧ソ連の検察は特異だった。

 一次的な任務は、各級の行政機関が行う措置の適法性を監視・監督することだった。検察の任務を規定した法では、捜査指揮や起訴の役割はむしろ劣後の順位とされた。検察の監視・監督対象には、政府省庁を含むほぼすべての機関が網羅された。検察は、必要であればこれら機関を訪問し、いかなる資料でも要求して調べ、対面調査も行う権限を持っていた。不法と判断すれば是正命令を出し、捜査も行った。

 司法領域でも検察の力は強大だった。捜査を指揮することはもちろん、すべての法執行機関の活動を総括し調整した。拘束や家宅捜索、盗聴などに対する決定権も行使した。裁判官の行為を監視するなど、裁判過程と結果に対する適法性の検討権限まで持っていた。検察官は法廷で裁判官や弁護人よりも優位な地位を占めた。

 このように検察は、非常に特殊な地位と政治的影響力を享受した。検査は政治的エリートとして共産党組織の一員だったが、裁判官はそうではなかった。検察は階級構造によって一糸乱れず動く組織だった。旧ソ連は、このような検察を統治手段に用い、行政府と司法府全体を統制下に置く一元的な体系を作ったのだ。

 この検察は「プロクラトラ」(Prokuratura)と呼ばれた。プロクラトラ・システムは、旧ソ連の衛星国家である東欧にも移植され、東欧の社会主義崩壊後も残滓が残っていた。これらの国々が欧州連合(EU)に加盟する際、こうした奇形的な検察制度が俎上に載せられた。EUの諮問機関である「法による民主主義のための欧州委員会」(ベニス委員会)は何回も意見書と報告書を出し、問題を指摘した。

 ベニス委員会は、政府機関に対する監視・監督権限について「プロクラトラという組織は、非常に巨大で強大な権限を持つが透明ではない機関」だとしたうえで、「そのような機関が最高権力者の影響下にあるのは、民主主義の原則および法の支配と両立不可能だという深刻な懸念をもたらす」と評価した。あわせて、検察の権限と責務は、犯罪の起訴と刑事法体制を通した公益の擁護に限定されなければならないという原則を想起させ、「プロクラトラの監督機能は、行政裁判所、憲法裁判所、その他の独立した監督機関などに分散しなければならない」と勧告した。

 また、司法領域における過度な検察権に対して「一部の国家にそうした体制の影響が残っている」としたうえで、「検察が責任を負わない第4府になる危険性が存在する」と指摘した。特に、家宅捜索や拘束などの手続きは、必ず裁判所の統制下に置かれなければならないとする原則を再確認し、「一部の国家では『検察偏向』によって令状がほぼ自動発給される傾向を示している。これは人権に対するリスクであり、司法府の独立性に対するリスクでもある」と批判した。

 検察の独立性を積極的に擁護するベニス委員会だが、プロクラトラ式の万事可能な検察は徹底した批判対象だった。

 これまで検察改革の議論が活発に行われ、私たちが肯定的に参考にする外国の事例が数多く言及された。だが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の1年が経過した今、むしろ最悪の事例を検討するほうが、現実的により示唆する点があるとさえ考えるようになった。

 現政権の1年を評価する様々な討論会で一様に指摘されたことは、検察出身の特定集団の政府掌握だ。大統領室をはじめ、国務総理室、国家情報院、金融監督院、国家報勲処など国政全般の要職にこれらの人々が侵食している。「汎政府機関に『検察ネットワーク』の影響力が拡散」し、「司法と法曹に対する検察の影響力が最大化」しており(韓東大学のユ・スンイク研究教授、参与連帯討論会)、「他の権力機関は検察共和国の助力者に転落した。警察は無力化され、国家情報院は過去に回帰し、監査院は静寂除去の先鋒を自任し、裁判所は傍観者または消極的な牽制に終わった」(イ・チャンミン弁護士、「民主社会のための弁護士会」討論会)。検察出身の特定集団が国政の前面に出て一元的な統治体系を形成し、検察組織はこれらと一体のように動いている。検察は、「生きている権力」の疑惑には目をとじつつ、政治的な反対者を狙った捜査に露骨にしがみついている。検察の疾走を司法府が統制できるのか、牽制する機関があるのかという質問に対しては、ますます疑問符が大きくなる。プロクラトラの影がかすめる。

 尹大統領は米国ハーバード大学での演説で「自由と民主主義に対する最も深刻な挑戦は、独裁と全体主義」だと言った。プロクラトラは、その独裁と全体主義が愛した検察像だ。私たちが決して近付いてはならない危険な遺産だ。

米国を国賓訪問した尹錫悦大統領が4月28日(現地時間)ハーバード大学ケネディ・スクールで「自由に向かう新たな旅程」をテーマに演説した後、ジョセフ・ナイ教授と対談している/聯合ニュース
//ハンギョレ新聞社

パク・ヨンヒョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1091403.html韓国語原文入力:2023-05-12 02:41
訳M.S

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