大統領室のキム・イルボム儀典秘書官に続き、イ・ムンヒ外交秘書官とキム・ソンハン安保室長が、BLACKPINKとレディー・ガガの米国合同公演騒ぎで首が飛んだ。ジョー・バイデン大統領夫人のジル・バイデン女史が合同公演を要請したという駐米韓国大使館の電文を閲覧したにもかかわらず、後続措置を講じなかった責任を取らされ、キム秘書官が退いたことから始まったこの事態は、キム室長の更迭にまでつながった。どうしてここまで来たのだろうか。前後の状況を詳しく見てみよう。
筆者が取材したところによると、3月、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が米国の要請を黙殺したことに激怒し、公職監察を指示した。それによって二人の秘書官に対して過酷な人事措置が続いたという。首脳会談における文化公演に関する問題なら、問責はキム・イルボム秘書官で十分だった。なのに、儀典系統ではなく首脳会談の議題を管理する政策系統にいる外交秘書官まで責任を問われたことを受け、キム・ソンハン安保室長は問責が不当だと抗議した。すると、キム室長は尹大統領に呼ばれ、「安保室はめちゃくちゃだ」と侮辱的な叱責を受けたのに続き、自ら辞任する破局を招いてしまった。
4月末の韓米首脳会談は、当面の安保脅威を管理し、国際的なサプライチェーン再編の衝撃を緩和しなければならない重大な行事だ。このような国家の一大事を控え、文化公演を理由に安保室の中心人物が相次いで事実上更迭される荒唐無稽な話を、常識で理解できるだろうか。W杯本大会を控えて監督と選手を交代するような話だ。
この不可解な事件の背後には何があるのか。解消されない疑惑がある。
第一に、米国での合同公演のアイデアは誰から出たのだろうか。ジル・バイデン女史が最初に提案した公演なら、公演費は当然BLACKPINKを招待した米国が負担しなければならない。巨額の公演費用を韓国が負担するという一部マスコミの報道を見る限り、公演を進めたのはそもそも米国ではなく、韓国側だとみる方が合理的だ。BLACKPINKの所属事務所も、米国公演を「提案されたことがある」とメディアに明らかにしたことから、公演に冷淡だった安保室ではなく、国内にこの公演を積極的に進めた別の勢力があるようだ。安保室長の首を飛ばすほど文化公演に執着する力の強い勢力の正体は何か。
第二に、尹大統領は安保室が公演に関する米国側の問い合わせを少なくとも5回は無視したという事実を、誰から聞いて公職監察を指示したのだろうか。ある保守メディアは、3月9日に尹大統領が蔚山(ウルサン)に移動する途中で、首脳会談の準備のために米国を訪問中の外交部高官から、安保室が駐米大使館の電文を黙殺したという情報を聞いた、という内容のコラムを掲載した。筆者が取材したところによると、当時首脳会談の準備のために米国を訪問した人物は、外交部の儀典担当者であることが確認された。しかし、この人物がどうやって外交部長官と次官を差し置いて尹大統領に直接報告できたのか。このような異常な報告体系は、現在、大統領室の中に常識では理解できない非公式的な情報の流れがあることを暗示する。
第三に、安保室の高官たちを厳しく問責したのに、なぜキム・テヒョ第1次長には何の責任も問わないのだろうか。キム次長は国家安全保障会議(NSC)事務処長を兼任している。大統領に毎日報告される外交と安保分野の情報を管理する責任者がほかでもないキム次長なのに、この事案に関して問責を受けたというニュースが何も聞こえない。キム次長が特別である理由は何か。
安保室事態以後、後続人事はさらに奇妙だ。キム・テヒョ次長は李明博(イ・ミョンバク)政権時代、大統領府対外戦略秘書官を歴任した。当時のキム・テヒョ秘書官のもとでは、今回米国大使に指名されたチョ・ヒョンドン外交部第1次官、イ・ドフン外交部第2次官、イム・ジョンドク安保室第2次長、イ・ジョンソプ国防部長官が行政官として働いていた。ここに大統領室秘書官級の人物まで合わせると、現政権の外交・安保ラインはキム・テヒョ独走体制であり、「李明博(政権)シーズン2」と言っても過言ではない。
「韓国版ネオコン」といえる人々が掌握した安保室と国家安全保障会議は、大統領秘書室とも分離された独自の王国だ。過去に彼らが活躍した李明博政権当時は、米国産牛肉輸入問題、天安艦沈没と延坪島(ヨンピョンド)砲撃、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の密室締結の試みなど、外交・安保で多くの失敗と混乱の連続だった。国民感情と司法府の権威まで否定する現政権の国益放棄型屈辱外交は、まさにその延長線上にある。新しく赴任したチョ・テヨン安保室長が、この混乱をまともに収拾できるだろうか。期待しないほうがいいかもしれない。文化公演一つで焦土化された安保室で立場をわきまえなければ、前任者と同じ末路を辿ることになるだろうから。