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[コラム]これが「克日」という保守の甚だしい勘違い

登録:2023-03-11 06:57 修正:2023-03-11 08:41
一部保守層はこのような「大乗的決断」が「竹槍歌」式の反日とは異なり、先進国となった韓国の真の「克日」であり、未来志向的なものだと考えているようだ。歪んだ歴史認識がもたらした甚だしい勘違いだ。歴史問題をめぐる韓日間の軋轢は常に存在したが、本格的な懸案に浮上したのは、両国が垂直的な関係から抜け出し、水平的な関係に変わってからだ。
6日午後、光州東区錦南路5・18民主広場で開かれた尹錫悦政権の強制動員被害者解決策の発表を批判する記者会見に参加した強制徴用被害者、ヤン・クムドクさんの姿=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 # 毎年6月30日、秋田県大館市(旧花岡)では中国人生存者と遺族が出席する中、「花岡事件」の犠牲者慰霊式が執り行われる。1945年6月30日、花岡鉱山で鹿島組(現鹿島建設)の水路変更工事に強制動員された中国人たちが、日本人監督などを殺して脱出した。1年間にわたりここに連れてこられた中国人986人のうち死亡者が418人という記録からも分かるように、劣悪な労働条件と苛酷な虐待が原因だった。「蜂起」はたちまち鎮圧された。逮捕された全員が厳しい拷問を受けた。数十年後、強制動員被害者が鹿島建設を相手取って起こした損害賠償訴訟は、紆余曲折の末、東京高等裁判所の勧告を通じて2000年の「花岡和解」へとつながった。鹿島建設は責任を認め謝罪し、中国赤十字会に5億円を信託することで、強制動員被害者全員に「和解金」が届くようにした。尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権をめぐる紛争で中日関係が最悪の時も、市が主催する慰霊式は行われた。日本市民の募金で花岡平和記念館も建てられた。

 #一方、花岡事件の約1年前の1944年5月29日、同和鉱業が管理していた花岡鉱山坑道で起きた「七ツ館事件」の現住所はみすぼらしい。強制動員された朝鮮人11人と日本人11人が炭鉱事故で坑内に生き埋めになった。避難場所も把握され、1週間以上生存者がいることが分かったが、「採掘作業の遅延」を理由に上級官庁は避難者を「殉職」として処理し、埋没することを許可した。このような事実は、日本の作家と地域市民団体の粘り強い努力によってようやく明らかになった。朝鮮人を含む被害者たちの遺骨はまだ見つかっていない。保養施設の開発のために共同墓地の隅に移された弔魂碑には説明もなく、創氏改名された名前だけが刻まれている。

 数十年前の歴史を改めて思い出したのは、元日本弁護士会会長の宇都宮健児さんと最近電話で話し合ったからだ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が発表した日帝強占期の強制動員の「解決策」に対し、宇都宮氏は「強制動員の本質が人権侵害であることを無視した、じつにおかしな解決策」だと何度も語った。「国家間条約で放棄するのは『外交的保護権』であり、個人の請求権が消滅していないのは日本政府も、日本の最高裁も認めてきた。1972年の日中共同声明でも賠償請求権は放棄されたが、中国人強制動員に対しては企業が謝罪してお金を出しており、日本政府はそれを妨害しなかった。日本が『ダブルスタンダード』を適用しているわけだ」。花岡和解以後、日本企業の中国人強制動員問題の解決策には、企業の責任認定と謝罪▽訴訟原告だけでなく被害者全員に「和解金」の支給▽歴史教育などがほとんど含まれるようになった。

 韓日外交で完勝、完敗という評価は望ましくないと考えてきた。善悪の対決だけが増幅され、被害者が尊厳性を回復する道はさらに遠のく歴史を見てきたためだ。尹錫悦政権と保守系のメディアが批判してきたように、文在寅(ムン・ジェイン) 政権が最高裁(大法院)判決以後、被害者と日本政府・企業を向き合わせる努力を放棄したこともまた事実だ。しかし、だからこそ、今回の方案が「大乗的決断」だとか「世界全体の自由、平和、繁栄を守る」という韓国政府と大統領の主張は詭弁としか言いようがない。日本政府や企業の謝罪もなく、賠償どころか和解金もない解決策のどこに被害者の人権があるのか。日本の「ダブルスタンダード」を認め、煽っているのは誰なのか。

林芳正外相が6日、記者会見で、韓国政府の強制動員「解決策」発表について「韓日関係を健全な関係に戻すもの」だと評価した後、会見場を後にしている=東京/AP・聯合ニュース

 一部保守層はこのような「大乗的決断」が、「竹槍歌」式の反日とは異なり、先進国となった韓国の真の「克日」であり、未来志向的なものだと考えているようだ。「植民地支配を受けた国の中で今も謝罪や賠償をしろと叫び続ける国は韓国以外にはどこにもない」というソク・ドンヒョン民主平和統一諮問会議事務処長の妄言もそのような脈絡から出たものかもしれない。歪んだ歴史認識がもたらした甚だしい勘違いだ。日本にきちんとした謝罪と反省を求めるのは決して「劣等感」によるものではない。歴史問題をめぐる韓日間の軋轢は常に存在したが、それが本格的な懸案に浮上したのは両国が垂直的な関係から抜け出し、水平的な関係に変わってからだ。たとえ「条約の壁」があるとしても、中国の事例からも分かるように被害者の人権を中心にした解決策を模索するのは不可能なことではない。

 何より、人権と被害者の権利に対する認識の進展は、歴史問題においても新しい課題を投げかけるものだ。それこそが自由民主主義社会である韓日が共有すべき普遍的な価値である。にもかかわらず、予め我々の手の内を見せて性急に日本にしがみついたのは、両国関係を再び過去の「垂直的」な関係に戻すという発想に他ならない。

 日本の弁護士の内田雅敏さんの著書『元徴用工 和解への道』には、2016年に三菱マテリアルが中国人強制動員に対して謝罪した一節が紹介されている。「過ちを改めざる、是を過ちという」。韓国の発表がこのような省察を引き出すはずがない。尹大統領個人は米国政府の露骨な称賛と日本政府の歓待を受けるかも知れないが、大韓民国の大統領としては屈辱的な「悪手中の悪手」を打った。

//ハンギョレ新聞社
キム・ヨンヒ|編集者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1082789.html韓国語原文入力::2023-03-11 01:32
訳H.J

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