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[寄稿]南北共同安保の方が独自の核武装より大胆だ

登録:2023-02-07 06:42 修正:2023-02-07 07:52
[ハンギョレS] ムン・ジャンリョルの安保多焦点 
尹政権の「朝鮮半島非核化構想」の矛盾
2日、ソウル駅で市民がテレビ画面を通じて、北朝鮮がミサイルを動員して大規模な軍事パレードを行う場面を見ている/AP・聯合ニュース

 朝鮮半島の非核化と関連し、二つの「大胆な」構想が幽霊のようにさまよっている。一つは北朝鮮の先非核化論であり、もう一つは韓国の独自核武装論だ。いずれも現実化の可能性が「全く」なく、幽霊そのもののようだが、時折出没し人々を揺さぶる。

 昨年、光復節記念式典での演説で尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が発表した「大胆な構想」は、北朝鮮の非核化を基本前提にし、北朝鮮に大規模な経済支援を行うと共に、政治・軍事的相応措置にまで進むことで、果敢かつ包括的な南北関係の改善を目指すものだ。だが、北朝鮮の反応は予想通りだった。「すでに廃棄された10年前の李明博(イ・ミョンバク)政権の『非核・開放・3000』のコピー版であり、前提そのものが間違っている」、「(韓国の大統領という)人そのものが嫌いだ」、「絶対に相手にしない」などの「暴言」が返ってきた。

 大胆さには行動に伴う危険を甘んじて受け止め、何があっても目標を達成しようとする意志と勇気がなければならない。相手を全く知らず、自分から能動的に行動を起こすこともできないのに、考えだけが大胆というのとは全く違う次元の「大胆さ」だ。歯に衣着せず言わせてもらうと、それは卑怯さに過ぎない。ここ数カ月間、朝鮮半島での軍事対決と戦争危機が息つく暇もなく高まってきた理由もそこにあるのではなかろうか。

独自の核武装は失敗国家への道

 独自核武装論は、先非核化論より30年以上古い話だ。北朝鮮の国力と軍事力が韓国より優位にあった1970年代、カーター政権(1977~1981)の在韓米軍撤退計画が明らかになったことを受け、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領は核開発を進めた。朴大統領の計画は成功できなかったが、少なくとも進められた点で実体があり、「没」して幽霊となった。

 先月30日、韓国ギャラップが実施した世論調査(チェ・ジョンヒョン学術院依頼)で、国民の約77%が「独自の核開発が必要だ」と回答した。昨年5月、峨山政策研究院のアンケート調査でも70%程度の支持を示し、2021年末に米シカゴ国際問題協議会(CCGA)が韓国リサーチに依頼した調査結果も71%程度だった(2022年2月23日付の「聯合ニュース」報道)。他の世論調査でも、近年、ほぼ半分をはるかに超える回答者が独自の核武装を支持していることが明らかになっている。

 このような世論調査自体が間違っているわけではない。むしろ国民多数の考えを把握するために必要かもしれない。しかし、核保有という非常に複雑で国家の命運がかかっている事案に対し、単純に賛否を問う形の世論調査の結果は、その信頼性と効用性について慎重かつ批判的に受け止めなければならない。

 選挙における支持率調査ではなく、政策に対する世論調査は、回答者が果たして問題の本質をどれくらい知っているかを考慮して設計しなければならない。いきなり「韓国独自の核開発が必要だと思うか」と聞かれたら、専門知識のないほとんどの一般人はどう答えるだろうか。目に見えている。「よく分からないけど、必要かもしれない」、つまり「イエス」という回答を選ぶ。特に、調査時期に北朝鮮ミサイル発射実験が続き、朝鮮半島の軍事的緊張が高まっているなら、なおさらその原因に対する理性的判断より恐怖と敵対感情の方が力を発揮するだろう。これに主権意識と核保有国の「プライド」を持ちたいという欲も一役買うかもしれない。回答者に罪はない。

 韓国独自の核開発がどれほど非現実的かは、国内外の多くの専門家が事実的論拠を通じて「説破」してきた。米国の反対と韓米同盟の瓦解、朝鮮半島非核化の放棄、核兵器不拡散条約(NPT)の脱退と外交的孤立、核燃料供給中断と電力大乱、全般的な経済制裁、核開発の費用と核実験施設の用意、通常の紛争の核戦争化、地域の核軍拡競争と安保ジレンマの深化などの問題は、いずれも現実的な解決や受け入れが不可能なものだ。

 これらの困難にもかかわらず、「大胆に」核武装に踏み切ったとしても、韓国は国際的に認められない「ならず者国家」(rogue state)、経済が破綻した失敗国家(failed state)に転落する可能性が高い。南北は平和体制はおろか、永久分断よりも険悪な永久戦争体制の中で暮らすことになるだろう。このような常識的であまり時間を要しない議論をした後にアンケート調査を行ったなら、結果はどうなるだろうか。

平和が戦争より大胆だ

 認識は世界を構成し、世界は再び認識を支配する。国民の絶対多数が核武装を支持するという世論調査の結果は、社会的通念の反映であり、それを決定する役割を果たしうる。本当の危険はここから始まる。それが政治と政策に影響を及ぼすからだ。

 尹錫悦大統領は先月11日、国防部業務報告で、北朝鮮が挑発を強化した場合、「大韓民国が独自の核を保有することも考えられる」と述べた。朴正煕以来、大韓民国の大統領としては初めての「公開」発言であり、まさに北朝鮮の先非核化論に続く「大胆な構想第2弾」とも言える。米国は言及する必要さえ感じなかったかもしれないが、「親切にも」直ちに反対意思を表明しており、大統領室と国防部は不本意だと釈明し、尹大統領自身も海外メディアとのインタビューで「NPT体制を尊重する」と「疎明」した。

 一部の民間の学者の独自核武装の主張は彼らの自由だが、責任ある政治家と政策決定者が(彼らと同じく)自由であってはならない。世論調査の結果を見てポピュリズムの誘惑にかられるかもしれないが、それに陥ってはならない。それが国内の社会経済的悪材料と国際情勢の悪化が重なった場合、戦争につながりかねないことを歴史が物語っている。

 尹錫悦政権がそれほど高くない支持率を維持するために、南北の対決と韓米日軍事協力中心の冷戦的安保ポピュリズムに頼っているわけではないと信じたい。実現可能性は低いかもしれないが、平和的方法で平和を実現しようとする大胆な構想を発表する姿が見たいと思っている。

 南北が米国とともに「同盟」を結成できるという構想も示されているではないか。(「A Grand Bargain With North Korea」、「フォーリン・アフェアーズ」、2021年7月29日)

 特定の敵を想定する同盟ではなく、包括的な安保協力を追求する「共同安保」体制を南北が主導することは、実は真新しいことでも、とんでもないことでもない。真の大胆さだ。

元国防大学教授。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の国家安全保障会議(NSC)戦略企画室国防担当、文在寅(ムン・ジェイン)政権の大統領直属政策企画委員会委員などを歴任した。『軍事科学技術の理解』などの著者として参加した。

ムン・ジャンリョル|元国防大学教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1078275.html韓国語原文入力:2023-02-04 17:29
訳H.J

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