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[寄稿] 保守勢力間の政権交代では、現在の韓国の問題は解決できない

登録:2022-12-10 10:02 修正:2022-12-10 11:08
選挙で勝って政権を握れば目的を達したかのように、どうせ守ることもできないもっともらしいビジョンを掲げることが何の役に立つのかというような尹錫悦政権こそ、もしかしたら新自由主義ヘゲモニー時代にふさわしい「謙虚な」政治権力の模範事例なのかもしれない。 

キム・ミョンイン|仁荷大学国語教育科教授・文学評論家
Jaewoogy.com//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足から6カ月が過ぎた。最初から期待よりは憂慮の方が大きかったが、せっかく薄氷の熾烈な選挙で勝って政権を握ったのだから、期待以上にうまくやるところを見せてほしいという希望もなくはなかった。李明博(イ・ミョンバク)政権や朴槿恵(パク・クネ)政権発足の時も同じだった。一方では、彼らがもし守旧保守の旧態を脱ぎ捨て、能力のあるスマートな合理的保守の道を歩み、日本のように保守勢力が長期的に政権を握る状況になったらどうなるのか、という奇妙な心配(?)をしながらも、彼らが国を滅ぼす水準の支離滅裂状態に陥るよりはましだと考えたりもした。しかし、不幸なのか幸いなのか、そんなことは起きなかった。

 尹錫悦政権は6カ月が過ぎても、率直に言って五里霧中だ。尹錫悦氏が大統領選に出馬したのは「大統領になることだけが目的だった」という巷の笑い話があるが、一体これからどんな国を作っていくつもりなのか、まったく分からない。公約集を見ると、雑多な各論は多いが、その各論を一つに統合した総論がない。事実上、何の内容もない「再び跳躍する大韓民国、共に豊かに暮らす国民の国」ということを国政ビジョンとして掲げただけだ。のちには根拠のない虚勢に過ぎなかったと明らかになったものの、李明博政権は「7%成長、1人当たり国民所得4万ドル、世界7位強国」といういわゆる「747公約」を掲げて経済大統領らしい大胆な公約だと思わせたし、朴槿恵政権も驚くべきことに「経済民主化」という進歩的議題を前面に掲げ、経済不平等に苦しめられた国民を一瞬ではあるが期待させた。しかし、尹錫悦政権はどういうわけか、もっともらしい青写真の一枚も出さなかった。なぜだろうか。

 この6カ月間、尹錫悦政権が行ったことを振り返ってみよう。大きな案件からいえば、大統領執務室を龍山(ヨンサン)の国防部の建物へ移転させたこと、青瓦台の全面開放、女性家族部廃止の推進、脱原発基調の原発推進基調への転換、北朝鮮に対する穏健路線から強硬路線への転換などが思い浮かぶ。あらゆる疑惑と雑音と高費用を生んだ執務室移転はもちろん、女性家族部廃止、原発推進政策、対北朝鮮強硬基調への転換といった非常にネガティブな変化が、果たして国民に希望を与える未来ビジョンにふさわしい変化なのか疑問だ。その他に、自ら宣伝したこの6カ月間の「功績」を調べると、青瓦台開放と執務室移転、脱原発廃棄の他に、大統領室縮小、庶民の住居費軽減、デジタルプラットフォーム政府の具現化、零細自営業者へのコロナ損失補償の強化といったものがある(政策週刊誌「共感」2022年11月17日)。各政府省庁の年間の通常業務を列挙したようなものが、発足6カ月を迎えた新政権の功績と言えるのだろうか。

 このような「自称の功績」で、新政権樹立にともなう国民の期待を満足させることができると思っているなら、それは傲慢すぎるか、純粋すぎるかのどちらかだ。やっと30%を超える程度の世論支持率からも分かるように、むしろ絶対多数の国民は、相次ぐ人事失敗や、検察・監査院などの公権力を動員した前政権の主要関係者および野党関係者に対する偏った司法的攻勢、協治とは程遠い独善的な国政運営、国際舞台での相次ぐ外交惨事で、過去のどの政権初期でも経験したことのない極度の疲労を感じており、この無能な政権の存在と行動に全面的な疑問を抱かざるを得ない。その上、最近は梨泰院惨事に対する無能で無責任な対応をきっかけに、このような疲労感と疑問は嘆きと怒りの次元に転化しているのが実情だ。

 だから、発足6カ月しか経っていない政権をめぐって退陣、弾劾などの極端な表現が登場するのも無理はない。実際、一部では早くも「尹錫悦退陣」を掲げて光化門(クァンファムン)や龍山などで十数回にわたり街頭大衆集会を開いている。それらは無能政権に対する国民の抵抗権の正当な行使として当然支持されるべきだ。しかし、大統領と現政権の行動が嘆きと怒りを誘発するとしても、それこそ国憲を蹂躙し、国の規律を乱す明白な犯罪的過誤を犯し、これを立証する確固たる証拠がない限り、朴槿恵のような弾劾訴追による中途退陣は容易ではない。発足から半年が過ぎたばかりの政権に退陣を要求しなければならないそのもどかしさは理解できるが、現在のところ現政権に対する審判は、総選挙や次期大統領選挙を通じてのみ可能だと考える。

 そして私としては、朴槿恵退陣後の学習効果という意味からしても、2016年冬のように一般国民が100万人集まって尹錫悦退陣を要求するという状況はなかなか起きないと思う。朴槿恵政権崩壊後、ろうそく市民の熱烈な支持で発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権は、その支持と声援に応えることに失敗し、それによって現在の守旧保守勢力(国民の力)と中道保守勢力(共に民主党)の間の政権交代では今の時代が直面している本当の問題を解決できないということを、端的に示したためだ。

 新自由主義ヘゲモニーが支配している現在、韓国社会を牛耳る真の権力は、市場を支配する総資本とそれを支えるテクノクラートである。見かけ上は非常に対立的に見える二つの勢力が構築した二大政党体制は、5年、10年ごとに交代しながら、この真の権力者の付き添い役を務め報酬を受け取る相互依存システムにすぎないと言っても過言ではない。このように見ると、選挙で勝って政権を握れば目的を達したかのように、どうせ守ることもできないもっともらしいビジョンを掲げることが何の役に立つのかというような尹錫悦政権こそ、もしかしたら新自由主義ヘゲモニー時代にふさわしい「謙虚な」政治権力の模範事例なのかもしれない。

 だからといって「無能で非道な政権」に対する批判とけん制をやめようということではない。現在の守旧保守政権の代案が中道保守政権への政権交代に過ぎないというこの貧困な悪循環をもう終わらせ、さらに遠く、深いところを見通そうということだ。新自由主義体制の野蛮な統治を終わらせ、襲い掛かる気候災害に積極的に対処し、すべての構成員のさまざまな生活上の希望と要求が満たされる真の民主主義社会を切り開いていこうとするならば、現状をこのまま受け入れることはできないと考える人々が、2つの巨大保守政党の回転ドアのような長期政権体制を断固として拒否し、新自由主義による支配体制に対する順応主義と敗北主義を果敢に乗り超える想像力を拡大し、これを現実の政治の領域で実現できる新しい政治運動を組織していくほかに道はない。

//ハンギョレ新聞社

キム・ミョンイン|仁荷大学国語教育科教授・文学評論家 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1070754.html韓国語原文入力:2022-12-08 19:41
訳C.M

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