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[コラム]梨泰院惨事、行政安全部長官の「法的責任」

登録:2023-01-11 02:39 修正:2023-01-11 08:39
パク・ヨンヒョン|論説委員
イ・サンミン行政安全部長官が6日午前、国会で行われた梨泰院惨事国政調査の第2回聴聞会で発言している/聯合ニュース

 6日の国政調査聴聞会で、梨泰院(イテウォン)惨事当日の龍山(ヨンサン)区役所の当直者だった主務官は証言台で涙ぐみながら語った。「子どもたちにとても…。とてもとてもとても…とてもとても申し訳ないし、親御さんたちにも本当に申し訳ないと思っています」。聴聞会では、この程度の自責の姿勢すらほとんど見られなかった。それよりはるかに高位にある聴聞会の証人たちは、知らぬ存ぜぬという態度と言い逃れを貫いた。区役所の主務官とは比較にならないほど高位の行政安全部長官は、辞任要求に表情ひとつ変えず「現在与えられている位置で最善を尽くす」と語った。

 その聴聞会の最後に注目すべき質疑応答が交わされた。

基本所得党のヨン・ヘイン議員:イ・サンミン証人、梨泰院惨事を最初に認知したという23時20分には災害管理の主管機関を決めましたか。

イ・サンミン行政安全部長官:決めていません。

ヨン議員:はい。していませんよね。ですが、災害安全法施行令によれば、行安部長官は災害管理主管機関を定めることになっています。これ、施行令を守っていないということですよね?

イ長官:いや、行安部が主管機関になったと言っているじゃないですか。

ヨン議員:さっき決めていないとおっしゃいましたよね。

イ長官:そうは申し上げておりません。すぐに決めたということです。

ヨン議員:さっき決めていないとおっしゃいましたよね。

 わずか一言二言の問答の過程で言うことが変わった。「災害管理主管機関」(以下「主管機関」)を定めなかったイ長官は、そのような行為は施行令違反に当たると指摘されるやいなや、「行政安全部を主管機関に定めた」と前言を翻した。イ長官が言うことが違ったり妄言を吐いたりするのは昨日今日にはじまったことではないが、今回の発言は特に注目する必要がある。

 災害安全法は災害の類型ごとに関係省庁を主管機関に指定している(例:学校で発生した災害は教育部)。だが梨泰院惨事は、事前に定められた類型に当てはまらない災害だった。このようなケースでは行安部長官が主管機関を指定するよう、施行令は規定している。それを指定していないとなれば施行令違反となる。イ長官と行安部はこれまで、梨泰院惨事の主管機関は決めていないとの立場に立っていた。行安部が主管機関に指定されたというのは、今回初めて飛び出した話だ。災害発生から2カ月が過ぎてようやく法に規定された主管機関が登場するとは、それ自体が非正常で災害安全法の失踪だ。実際に主管機関が決まっていたのかさえ疑問だ。

 イ長官の翻された答弁どおり主管機関が行安部と指定されていたとしても、問題は依然として残っている。主管機関の長は中央災害安全対策本部(中対本)とは別に中央事故収拾本部(中収本)を「迅速に」設置・運営するよう、法は規定している(主管機関の長が中収本の長になる)。梨泰院惨事で中収本は設置されていない。これについてイ長官は「行安部が主管機関である場合、中収本は別途設置せず、中対本を直ちに設置する」と釈明している。中対本が中収本の役割を兼ねるというのだが、ならば中対本はよりいっそう「迅速に」設置されなければならなかったはずだ。

 しかし中対本は、惨事発生から4時間が過ぎて大統領の指示があってようやく稼動した。イ長官は先月23日の国政調査特委の現場調査で、これについての批判に対し「中対本稼動は寸刻を争う問題ではない」と語っている。いま改めて振り返ってみると、より荒唐無稽でつじつまが合わない話だ。主管機関の長がどうしてあのようなことを言い得たのか。梨泰院惨事と同じ日の午前に忠清北道槐山郡(クェサングン)で発生した地震に対しては、行安部がわずか3分で中対本を稼動したのとは対照的だ。梨泰院惨事への対応では法に忠実ではなかったわけだ。

梨泰院惨事の遺族たちが6日午前に国会で行われた梨泰院惨事国政調査の第2回聴聞会を見守りつつ、涙を流している/聯合ニュース

 さらに、主管機関の長は中収本の長として具体的な役割を果たすよう規定されているが、それをきちんと履行したのかも疑問だ。ヨン・ヘイン議員は「イ長官は危機警報の発令、関係機関による協力体制の維持、被害者の家族の連絡体系の構築など、危機管理マニュアルに従ってやるべきことをやっていなかった」と指摘した。特に被害者家族の連絡体系構築については、イ長官は遺族名簿も確保できていないと自らが主張し続けてきた。共に民主党のチョ・ウンチョン議員も行安部の「中収本設置および運営に関する規定」に則った措置を紹介しつつ、「ここに出ている活動を何もしていない」と問いただした。イ長官は履行の内訳を「書面で提出する」と答えた。徹底した検証が必要な部分だ。

 災害安全法は市民の命と安全を守るために国の人材と資源、そして強制力を総動員することを定めた強力な法だ。一般市民が安全確保のための政府の命令に従わなければ懲役刑に処すこともできるよう規定している。もちろん、この法に則って災害に対処する公職者の義務と責任ははるかに重い。その法に「国および地方自治体が行う災害および安全管理業務を総括・調整」する総責任者と規定されているのが行政安全部長官だ。その責任は「自らの判断で」負ってもよいし、負わなくてもよいというような政務的・道義的責任ではない。厳格な法によって規定された「法的責任」だ。

 イ長官は惨事発生を認知してから現場に到着するまでの85分間に9本の通話をしているが、本人がかけた電話は1本だけだったことが分かっている。「その間に私が遊んでいたとでも? それなりにあちこち電話して状況はすべて把握しつつあった」とイ長官は語っていた。イ長官は惨事翌日にも「その前と比べると特に憂慮するほど多くの人が集まっていたわけではなかった」、「消防、警察の人員をあらかじめ配置することで(解決)できる問題ではなかったと把握している」というあきれた認識をあらわにしている。これに加えて、主管機関の長として中収本の設置と活動について法規定にきちんと従っていなかったことまで明らかになっているのだ。

 このような状況でイ長官が何の責任も取らずにやり過ごすことになれば、一線の公務員ばかりが責任を取って済まされることになれば、災害安全法は規範的意味を喪失した抜け殻に過ぎなくなる。法が権力者に対して義務と責任として作用せず、自身の責任を政務的・道義的に自ら決定する「自由」ばかりを持たせるものとなってしまったら、その体制はもはや法治ではない。

//ハンギョレ新聞社

パク・ヨンヒョン論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1075110.html韓国語原文入力:2023-01-10 14:16
訳D.K

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