朝鮮の宣祖(ソンジョ)時代に生まれ、仁祖反正(1623年、光海君を廃位し仁祖を即位させたクーデター)の直後に処刑されたパク・ヨプ(1570~1623)は、殺伐とした明清交代期に平安道だけでも10年以上の長期にわたって勤務するなど、「北方専門家」として特異な経歴を歩んだ人物だ。光海君(クァンヘグン)政権の時代に義州府尹(義州府の長官)や平安道観察使などを務め、よく人々の口に上った。明知大学のハン・ミョンギ教授は著書「チェ・ミョンギル評伝」でパク・ヨプについて、人柄は荒く厳格で「在職時には草を刈るように人を殺」し、「光海君に常に賄賂をささげて信任を得た」という当時代の人々の評価を紹介している。
にもかかわらず、ハン教授が著書のかなりの分量を割いてこの人物の「運命」を紹介したのは、丙子胡乱(丙子の乱)の際に南漢山城から国を救ったチェ・ミョンギル(1586~1647)が残した評価のためだ。
1623年4月、クーデターに成功した後、チェ・ミョンギルは元勲キム・リュに書状を送り、「光海君側の人物」であるパク・ヨプの助命を要請した。「私が思うに、将来我が国を襲う兵乱としては北方の蛮族が最も心配です。天の気を察すれば、このように将帥の知略を持った人物は生かしておかねばなりません」 、「大監がもしこの人物を殺せば、それは大監の手で我が国の長城を壊すことになります。万が一北の蛮族が駆け下ってきたら、誰がそれを防ぎましょうか。必ずや後悔する日があるでしょう」
パク・ヨプは1619年9月に平安道の観察士になり、仁祖反正直後に処刑されるまで3年6カ月間その職にあった。彼が観察使職に就任したのは、カン・ホンリプ率いる1万3千の朝鮮軍がサルフの戦いで後金によって壊滅させられた直後だった。国が揺らぐ危機にあって、パク・ヨプは事実上、朝鮮の対後金外交の「全権」を握っており、大きな支障なく西北辺境の安定を保っていた。これを見ていたチェ・ミョンギルが、パク・ヨプの持つ後金との交渉能力や、スパイと財物を利用して構築、維持してきた外交ルートなどを惜しんだのだ。
当代政権の判断は異なった。キム・リュは、パク・ヨプは光海君に忠誠を尽くした人物なので、後顧の憂いを断つべきだと考えた。彼が処刑されると、恨みを抱いた者たちが棺を壊し、遺体を引きずり出してバラバラにした。
時は流れ、チェ・ミョンギルの懸念は現実のものとなった。丙子胡乱が発生した1636年、チェ・ミョンギルは再び書状を送って落胆した心境を吐露した。「パク・ヨプが生きていたなら丁卯胡乱もなかったでしょうし、今日のこのような憂患もなかったでしょう」
今月9日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領‐ハン・ドンフン法務部長菅の検察政権がソ・フン前大統領府国家安保室長を拘束起訴した。公務員のイ・デジュンさんが北朝鮮軍に殺害されたことが明らかになった時に、南北の和解協力を強調していた文在寅(ムン・ジェイン)政権の対北朝鮮政策に対する批判が高まることを懸念し、この事態を「自主越北」として処理し、報道資料などを作成して配布したとの理由からだ。
ふと、2018年4月27日の板門店(パンムンジョム)の光景が目に浮かんだ。朝鮮半島の平和と繁栄を夢見た「板門店宣言」が妥結した瞬間、当時のソ・フン国家情報院長は複雑な感情を抑え切れず、眼鏡を外してハンカチを取り出し、涙をふいた。嘉泉大学のラ・ジョンイル碩座教授は著書『ハノイの道』(2022)で、同氏は「李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)両政権時代、これといった職責もなく、妻とソウルの清渓川(チョンゲチョン)沿いで小さなワッフル屋を営んでいた」と記している。検察の言葉がすべて正しいとしても、ソ前室長がそれによって何を得たのか分からない。刑事処罰ではなく政治的批判で十分ではないか。
外交安保分野に対する統治行為とは、一寸先も見通せない真っ暗な大海原にあって国の針路を定めるという、難しく苦しい行いだ。それぞれの政権が切迫した状況と限られた情報の中で苦心の末に判断し、それを朝鮮半島の平和のための政策の推進に役立つ方向へと解釈したものが処罰されるのならば、歴代の政権担当者の半分以上は手錠をはめなければならない。外交行為の半分以上は、残念ながら、起こった現象と下された決定を自国に有利に解釈して説明する「粉飾」だと言える。
朴槿恵政権による慰安婦合意に対する前政権の過度な対応(合意を主導したイ・ビョンギ元大統領府秘書室長にも大きな苦難があった)によって韓日関係は破綻し、その後の過ちが今も韓国の足を引っ張っている。ソ前室長の処罰は、南北関係や韓中関係などに何倍もの大きな波紋をもたらすだろう。「ハノイ破局」後、韓国は道に迷った。これを挽回しようとした人間の前で、見当違いの「首切り役人」が剣の舞を舞っている。ソ前室長に過ちがあるならば、歴史が評価するだろう。検察政権は謙虚であるべきだ。
キル・ユンヒョン|国際部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )