尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の光復節(日本の植民地支配からの解放記念日)記念演説と就任100日の記者会見で提示した対北朝鮮協力構想には、確かに評価できる点がある。水曜日(17日)の記者会見で、尹大統領は「大胆な構想には米朝、朝米関係正常化に向けた外交的支援と、通常兵器システムの軍縮に向けた協議などが含まれる」と述べた。非核化についても「(北朝鮮が)先に非核化を完了すれば後で我々も動く、という意味ではなく、(非核化の)意志さえ示せば(対北朝鮮制裁緩和など)我々にできるすべての支援を行うという意味だ」と付け加えた。北朝鮮に「力による現状変更を進めない」と宣言した部分も斬新だ。先の大統領選挙当時、「(文在寅大統領の)南北軍事合意書の破棄もありうる」と発言した尹大統領が、文大統領の板門店宣言と平壌共同宣言を継承することを越え、朝鮮半島の平和をさらに一歩前進させるとは、どんでん返しともいえる展開ではないか。
このような大胆さにもかかわらず、「北朝鮮と対話をする用意があるのか」という質問には「(対話のための)政治ショーはしない」と距離を置いた。依然として、窮地に立たされた北朝鮮が非核化を約束し、頭を下げて対話の場に出てくるという希望的観測の延長線上にある。その上、北朝鮮に食糧やエネルギー、農業、インフラ、金融などを支援するという構想も、過去、文大統領がUSBに入れて北朝鮮に渡した「朝鮮半島新経済構想」に全て含まれている内容だ。北朝鮮としては目新しいものがないと認識する可能性が高い。対北朝鮮制裁の緩和に関しても、米国と国連を説得しようとする意志や行動を見せてこそ北朝鮮も好奇心を示すはずだが、そうではなかった。記者会見直後、米国務省のネッド・プライス報道官は「残念ながら(制裁緩和は)仮説にすぎない」と一線を引いた。「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)は国連安全保障理事会関係者の話として「北朝鮮の鉱物とレアアースの代わりに、食べ物と医療装備など非制裁品を提供すること(尹大統領の構想)は、依然として制裁違反」だと報じた。制裁の主体は国連と米国なのに、彼らの同意なしに制裁緩和を掲げる尹大統領の発言を誰が信じるだろうか。
このような現象は、対中・対日関係にも現れている。THAAD(高高度防衛ミサイル)追加配備に関し、在韓米軍と韓国国防部が「計画がない」と公言してきたにもかかわらず、尹大統領は大統領選候補時代から一人で「追加配備」を主張した。これは現在、いわゆる「THAAD三不(THAADを追加配備せず、米国のミサイル防衛体系に参加せず、韓米日軍事同盟を結ばない)一限(THAAD運用の制限」という中国との主権論争につながった。大韓民国の安全保障状況が変わっていないのに、論争のための論争で韓中関係にひびが入ってしまった。大胆すぎて問題になったというべきかもしれない。尹大統領は強制徴用労働者への賠償など歴史問題の解決策なしに、日本を「普遍的価値を追求する隣人」と称し、関係改善を掲げてばかりだから、これもまた実質的な進展がみられない。6月、大統領室と外交部は「日本は7月の参議院選挙直後から韓国との対話に乗り出すだろう」と公言したが、8月になっても状況は変わっていない。現政権の外交的修辞には真摯さが感じられない。
南北関係と関連した大統領の宣言は大きく分けて2つの類型がある。「7・7宣言」(1988)と呼ばれる盧泰愚(ノ・テウ)大統領の「民族自尊と統一繁栄のための大統領特別宣言」や、「ベルリン宣言」(2000)として知られる金大中(キム・デジュン)大統領の「朝鮮半島平和定着のための宣言」、文在寅大統領の朝鮮半島平和定着に向けた「新ベルリン宣言」(2017)などは、平和に対する一貫した信念と哲学、緻密な計画で周辺国を説得することで果敢な実行につながっており、それなりの成果も上げた。国際情勢のターニングポイントで歴史的転換をもたらしたこのような宣言は「大胆だ」と評価されている。その土台には長期的な視野の国家大戦略と、周辺情勢を韓国が主導するという決意がある。
一方、「統一大当たり論」を語ったものの統一からさらに遠ざかった朴槿恵(パク・クネ)大統領や、「非核・開放3000」を掲げたにもかかわらず北朝鮮が崩壊するのを待っていた李明博(イ・ミョンバク)大統領の対北朝鮮政策は、想像力と具体的な計画に欠けた自己満足型パフォーマンスだった。北朝鮮と日本を相手に融和政策と強圧政策を行き来しながら右往左往する姿は、あいまいで所信のない行動、すなわち浅はかさを示すものだ。このような所信のなさが、国民にどれほど多くの苦痛を与えたのか思い出してほしい。尹大統領の大胆な構想はどちらに属するのか。この質問の答えに窮するなら、大胆さへの誘惑を捨てて、まず冷静になってはどうか。