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[コラム]尹大統領の右往左往外交、「丙子の乱」招いた仁祖よりも危うい

登録:2022-08-09 08:42 修正:2022-08-09 09:18
映画『天命の城』で、丙子の乱が起き南漢山城に避難した仁祖と臣下が降伏するか抗戦するかをめぐって論争している場面=CJエンターテインメント提供//ハンギョレ新聞社

 中国大陸の諸国と長い歳月にわたり緊密な関係だった朝鮮半島は、どうして中国の一部にならなかったのか。イェール大学のオッド・アルネ・ウェスタッド教授は『帝国と義の民族(Empire and Righteous Nation: 600 Years of China-Korea Relations)』で、知識とアイデンティティをその理由に挙げている。朝鮮のエリートたちは明清帝国をきちんと把握していたため、帝国から独立状態を維持する策をつくりあげることができた。朝鮮半島の人々が早くから中国と違うアイデンティティを持っていたことも重要だった。「義の民族」とは、外勢に抵抗した義兵などで現れる「義」の概念が朝鮮半島に住む人々の民族アイデンティティの土台になったことを意味する。

 朝鮮半島はほとんどの時代、内政の自主性を維持したが、中国大陸の帝国は東アジア覇権をめぐって他の大国と競争する場合には朝鮮半島に軍事的・政治的に介入しようとした。壬辰倭乱(文禄・慶長の役)期の明の出兵や丙子の乱、壬午軍乱、甲申政変、日清戦争、朝鮮戦争などがそのような事例だ。ノルウェー出身の歴史学者であるウェスタッド教授は、大国の観点ではなく、第3世界の人民の経験を重視する冷戦史と中国の国際関係研究者として知られているが、朝鮮半島が中国の影響を一方的に受けるのではなく、中国に特別な影響を及ぼす地域だったと強調する。

 このような歴史の慣性は、国交正常化30周年を控え悪化しつつある韓中関係にも働いている。中国がTHAAD(高高度防衛ミサイル)と「チップ4」問題で韓国を強く圧迫するのは、韓国のTHAAD追加配備と半導体同盟への参加で、米中間での戦略的バランスが米国側に一気に傾く恐れがあるとみているためだ。今後、韓国がクアッドへの参加を進め、韓米日軍事協力を強化した場合、同じ理由で中国は韓国を激しく威嚇し、報復に出る可能性が高い。中国は韓国との外交で米国との「帝国間」対決を重要に考えている。「中華民族の偉大な復興」を強調するほど、「膨張と序列」という帝国の特性が強くなり、中国が「伝統的勢力圏」と考える朝鮮半島に対する影響力を強化しようとする傾向が強まる。

 台湾問題も韓中関係でますます「危険な」イシューに浮上するだろう。中国指導部は常に台湾統一を目標にしてきたが、毛沢東時代には建国、鄧小平~胡錦濤の時代には経済成長という重要な成果があった。中国は大国になったが、超高速成長が終わり、不平等と人口減少などが深刻になった今、「台湾統一の実現」は習近平主席の統治の正当性を支える最重要「公約」であるわけだ。中国の軍事力も過去とは比べものにならないほど強くなった。ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問を「名分」に台湾を包囲する軍事演習を始めた中国は、今後「台湾侵攻演習」に近い軍事的圧迫と「封鎖」を続けようとする可能性が高い。韓国に台湾問題が「中国の内政」であることを認めさせようとする圧力も強まるだろう。

 米国と中国の二者択一を強いられるこのような事案で、韓国がいかなる決定を下すかは、韓国の未来だけでなく、世界秩序にも大きな影響を及ぼす要因となる。事案の意味と余波をきちんと把握し、原則を明確に決めて、米中からの圧力と脅威に簡単に動揺してはならない。そうしてこそ、韓国を牛耳ろうとする大国の圧力を緩和できる。ピューリサーチの今年の世論調査で、韓国人の80%が中国に拒否感を示し、「国内政治に対する中国の関与」を最も主要な原因(54%)に挙げたのはどのような意味だろうか。中国が韓国を「宗主国-属国」の関係で接そうとしているという国民の懸念がうかがえる。

 韓国は緻密に「転換時代の準備」を進めていかなければならない。韓国が輸出した部品と中間材を活用して中国が完成品を世界に輸出する韓中経済共生の時代は、終わりを告げている。中国の技術発展と自給自足を強調する政策、そしてグローバルサプライチェーン再編の結果だ。朝中ロの協力が緊密になっており、北朝鮮とミサイル問題の解決において、中国の有意義な協力を期待することは今のところ難しい。中国に対する過度な市場・原材料依存を減らし、平和を守りながら対話の復元を準備する韓国の一貫した政策を、静かながらも精巧に進めなければならない。

1992年8月24日、中国北京尖閣の国賓館でイ・サンオク外務部長官と中国の銭其セン外交部長が韓中外交関係樹立に関する共同声明に署名した後、握手を交わしている=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が、台湾訪問後に韓国を訪れたナンシー・ペロシ米下院議長と面会する代わりに電話会談を行った過程で見せた右往左往は、国際的にも冷笑を買った。中国への刺激を懸念した外交だったとしても、前日夜に演劇観覧とその後の打ち上げの写真を公開し、面会の可否に関する大統領室の発言が変わり続けるなど、外交のコントロールタワーが作動しているのかどうかを疑わざるを得ない事態が起きた。先日はハン・ドクス首相が「中国経済の失速が激しい」と大口をたたいたが、中国との関係が悪化する場合に備えた経済的備えがないと懸念する人が多い。

 今の国際秩序の変動は、よく明清交替期に喩えられる。当時、明に対する義理に縛られた仁祖(朝鮮時代の第16代国王)の無能な外交が丙子の乱の惨禍を招き、仁祖が清のホンタイジに三跪九叩頭の礼(3回お辞儀をして9回頭を下げる)をする恥辱を受けた。ソウル大学のク・ボムジン教授は、満州語の史料まで総合的に研究した『丙子の乱、ホンタイジの戦争(原題)』で少し異なる話を聞かせてくれる。丙子の乱前夜の朝鮮の朝廷は、それなりに清の侵攻情報を把握し、持久戦の防衛戦略を立てたが、朝鮮の服属を皇帝即位の主な名分と考えたホンタイジが親政に乗り出し、清軍が超高速進軍作戦を使って朝鮮の意表を突いたと、ク教授は分析している。朝鮮半島が大陸の帝国に対応するのは、それくらい難しい。威勢は張るが対策がなく、原則もなく右往左往する尹大統領の外交は、仁祖よりも無責任で危うい。

//ハンギョレ新聞社
パク・ミンヒ|論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1053759.html韓国語原文入力:2022-08-08 02:53
訳H.J

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