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[コラム]何事も尹錫悦政権の「無能」を覆い隠すことはできない

登録:2022-07-19 03:20 修正:2022-07-19 08:57
日本すら分配と成長を共に考える「新しい資本主義」を考えている時代に、政府の国政基調には自律と競争以外には哲学もアジェンダも見えない。「温かい保守」というレトリックや「両極化の解決」のような誓いさえない。いま何もしなければ、時間が経てば経つほど韓国社会は退行から抜け出す機会を失うだろう。尹錫悦政権の歴史的使命は意外に重い。
大統領室は、NATO首脳会議に出席した尹錫烈大統領がキム・ゴンヒ女史と宿舎周辺を散歩する写真を3日に公開した=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 大統領選挙が終わった後に会った保守系の人々は、みな一様に「ようやく国が正常な道を歩めるようになった」と語っていた。文在寅(ムン・ジェイン)政権時代には、集まりさえすれば「国の心配」が絶えなかった人々も、もう国の話はしないと言っていた。

 ところが、近ごろ会うと流れが変わっている。心配事が増えているのだ。保守紙のジャーナリストたちが「せめてハンギョレがもう少し強く書くべきだ」とまで言う。確かに、発足わずか2カ月あまりで尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に対する心配やキム・ゴンヒ女史への批判が保守紙に代わる代わる登場するのは異例のことだ。彼らの懸念は主に「人事」と大統領の「アティテュード(態度)」に留まってはいるものの。

 だが人事とアティテュードだけの問題だろうか。文在寅政権は「積弊清算」と「自分に甘く他人に厳しい態度」で崩壊したと言われるが、その根底には「無能」フレームがあった。方向性に同意する友好層の中にも、政策能力の不足と複雑な現実を繊細に見つめることのない姿勢には批判的な人が多かった。その「無能」を執拗にあげつらった勢力が政権を握ったら、少なくとも「無能ではない」ことは示さなければならない。それこそ、尹政権が中道層と40%を超えるコンクリート反対層の心を少しでもつかみうる唯一の道だ。

 国民の記憶に残っているここ2カ月あまりの出来事が、大統領執務室、ドアステッピング(囲み取材)、キム・ゴンヒ、ハン・ドンフン程度であること。これについて政権勢力は本当に危機意識を持たなければならない。ほとんどの世論調査で「評価しない」理由の不動の1位だった「人事」に代わって、先週の全国指標調査(NBS)では「独断」と「経験と能力の不足」がわずかな差で1位と2位になっている。

 数日前に言い出した脆弱階層に対する金融支援は、すでに第2次補正予算に組み込まれていたものを「包み紙」だけ取り換えたり具体化したりした程度のものだった。減税と健全性を約束しているため、それさえも実現させる方法は金融機関の「腕をねじり上げる」くらいしかない。「科学防疫」と言っておきながら、新型コロナウイルス感染症の4回目のワクチン接種にどのような利益と不利益があるのか、国民を説得しうるデータもろくに示せていない。

 NATO首脳会議への参加、韓日関係などをめぐって外交論争が繰り広げられるべき時期は、キム女史問題で覆いつくされた。大統領と参謀たちが遅くまで働く姿を強調しても足りない政権初期に、何も映っていないパソコンの画面やキム女史が尹大統領を見下ろす演出写真を「NATOのBカット(あまり写りの良くない写真)」と題して公開したのは、正常な大統領室の発想だと信じがたい。

 尹大統領に政治経験がないということも、政策の効果を短期間で感じられることはないということも、誰もが分かっている。それでもわずか2カ月あまりでTK(大邱と慶尚北道)・壮年層が離脱し、「能力不足」との回答が増えたのは、我慢して見守っていた国民が「改善の余地」なしと考え始めたことを意味する。国民の力のパク・ミニョン報道担当が「文在寅政権よりはましだ、ではなく、尹錫悦政権でよかったと誇らしく語りたかった。だが今は分からない」と述べたことは象徴的だ。

 にもかかわらず、大統領の「左腕」とされるイ・サンミン行政安全部長官は「聯合ニュース」に対し「大統領が人気にこだわらず、国民の感性というより法と原則を前面に押し出しているため、一時的に支持率は低下しうるが、最終的に本気度が隅々まで伝わり、各種の政策がある程度熟していけば、すぐ反騰するだろう」と述べている。「精神勝利」なのかやせ我慢なのかは分からないが。

大統領室が「NATOのBカット」の一つとして公開し物議を醸した写真。大統領室は「写真の中の何も映っていないモニター画面は現地で大統領が国務会議案件を決裁した直後、画面が消えた状態を撮ったもの」と語ったが、その後ウェブサイトから削除された=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 問題は、無能そのものもあるが、その無能を覆い隠すために自ら有能だと考える大げさな捜査と前政権批判ばかりが前面に出ているというところにある。陣営論理と敵か味方かで分ける姿勢にうんざりしているという人々からすると、今の政権勢力の認識からは「敵対意識」ばかりが感じられる。国民の力のクォン・ソンドン院内代表が韓国放送(KBS)と文化放送(MBC)に対して、ここのところ決心したかのように連発する非難発言も同じだ。では、近ごろ尹大統領を批判している保守紙も民主労総が掌握したというのだろうか。

 保守メディアに「早期レームダック」に対する懸念がまず登場した。先日タクシーに乗ったら「この5年は長くなりそうだ」という同行人の話を聞いて、運転手が「5年もたないという話も多いですよ」と言って会話に割り込んできた。このような話が公然と出てくる状況は、尹大統領にとってもそうだが、韓国社会にとって大きな不幸だ。これでは今後も同じだろうからだ。政府の政策的判断が「犯罪」であることを前提にした捜査集中と「自分に甘く他人に厳しい態度」は、それに立ち向かう相手も似たようなものにさせていく。相次ぐ選挙での敗北に対する激しい自己反省と評価も行っていない共に民主党だ。敵対的共生システムに他ならない。

 李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)両政権の9年を経て社会と個人に内面化された能力主義と自己責任論は、文在寅政権時代のあいだ中、対立の背景となった。文政権の失敗には能力不足とともに、自分たちだけが正しいという慢心のせいで、このような認識の構造を変えることができなかったことも大きく作用した。日本すら分配と成長を共に考える「新しい資本主義」を考えている時代に、尹政権の国政基調には自律と競争以外には哲学もアジェンダも見えない。「温かい保守」というレトリックや「両極化の解決」のような誓いさえない。いま何もしなければ、時間が経てば経つほど韓国社会は退行から抜け出す機会を失うだろう。尹政権の歴史的使命は意外に重い。

//ハンギョレ新聞社

キム・ヨンヒ|論説委員室長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1051368.html韓国語原文入力:2022-07-18 14:51
訳D.K

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