中央災害安全対策本部(中対本)は、新政権下での初の防疫対策を発表する前日の13日に行われた事前ブリーフィングで、「科学防疫ではなく科学的コロナ危機管理という表現で、これからの我々の防疫と医療対応を説明する」とし、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の防疫スローガンだった「科学防疫」という表現を事実上放棄した。国家感染症危機対応諮問委員会のチョン・ギソク委員長は、これについて「根拠が見出せない場合は、最高の専門家が集まって集団知性によって結論を出す。それも一つの科学的根拠だと医学ではみなす」と主張した。しかし、科学的なコロナ危機管理を行うためには、専門家の集団知性ではなく、米国や英国やイスラエルのように実証的な研究を通じてまず「科学的根拠」を見出さなければならない。
防疫当局が8~10月の感染者を最大で20万人と予想している再拡散局面において、尹政権が示した防疫政策の核心は、4回目の接種の対象者の拡大だ。このような決定に先立って最も基本となるべき研究は、新型コロナウイルスワクチンの効果を継続的に評価する「コホート研究」だ。年齢群、基礎疾患ごとにワクチンの接種回数による感染、入院、重症化の予防効果にどのような違いが出るかを調べてこそ、誰がいつ追加接種を受けるべきかについての科学的根拠が見出せる。デルタ株が流行していた昨年末、高齢層の追加接種の前に社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)を緩和したが、療養所と療養病院の集団突破感染(ブレイクスルー感染)が発生し、主要国で韓国だけが致命率の急騰という結果を招いた。さらに、今後は韓国と外国の追加接種の時期がほぼ同じになるため、他国での接種研究の結果ばかりを待っていては防疫対策の時機を逃す恐れが強い。
療養院と療養型病院における集団感染を防ぐ医療環境基準についての研究も必要だ。病室当たりの入院患者数をどれだけ減らし、看護や介護の人員をどれだけ増やせば、米国や欧州と同水準にまで集団感染を減らせるのかについての科学的根拠を確保しなければならない。米国や欧州は、コロナ禍の初期には死者全体の50%ほどを占めていた療養所と療養病院の死者を大幅に減らしているが、韓国は依然として療養病院・施設の死者が全体の半数ほどを占める。
今後の防疫政策における争点となりうる感染者と濃厚接触者の隔離期間や、マスク着用の効果についての研究も、急がなければならない。外国のように隔離期間を7日から5日へと短縮したり廃止したりする際には、感染者がどれだけ増えるかを知っておかなければ、科学的な意思決定はできない。また、食堂やカフェではすでにマスク着用義務が解除されているが、オフィスや教室などでは屋内でのマスク着用を義務付けた防疫指針にどれほど効果があるのかも、データを通じた意思決定が必要な時期に来ている。
過去2年間、きちんとしたコロナウイルスについての研究がなかったために「科学防疫」が難しいなら、今は専門家の集団知性を云々する時ではなく、今からでも科学的根拠を見出さなければならない。医学においては、どれだけ信頼できるかによって根拠を6段階に分ける。信頼性の最も高い第1段階は複数の研究結果を総合した体系的な文献考察、第2段階はコロナワクチンの効果を評価する際に用いた無作為臨床試験、第3段階はワクチン接種効果がどれだけ持続するかを評価するコホート研究、第4段階は患者-対照群研究、第5段階はワクチンの副反応事例のような患者の症例だ。最後の6段階が専門家の意見だが、科学的根拠として認められているというよりは、根拠が見出せない場合に限られた「窮余の策」にすぎない。
現政権の防疫対策の決定過程も改善が必要だ。集団知性を発揮して防疫対策を立てたいのなら、科学的根拠にもとづいて複数の防疫代案を作り、国民の様々な意見を聞く過程を経なければならない。自営業者、学生、50代のワクチン副反応経験者など、防疫対策に影響を受ける国民の考えを聞くべきだ。良い防疫は、科学的根拠を基盤とするにしても、様々な利害関係を反映した政策的決定でなければならないからだ。また、今のように少数の専門家が集まって一日や二日議論した結果を集団知性だと強弁すれば、特定の集団の考えを社会全体の考えだと勘違いする「集団思考」に陥る危険性が高い。防疫対策に大きな影響を受ける障害者、自営業や小商工人分野の専門家はもちろん、精神の健康や行動科学の専門家も政策の決定過程に参加させなければならない。
キム・ユン|ソウル大学医学部教授(医療管理学) (お問い合わせ japan@hani.co.kr )