ビル・クリントン米大統領は1993年10月、初のアジア太平洋経済協力(APEC)指導者会議を準備する過程で、賢人会議(EPG)の事前ブリーフィングを受けた。12カ国の首脳が参加するこの会議で、2020年までにアジア太平洋地域に自由で開放された貿易・投資共同体を作るビジョンを発表するのが主な内容だった。同会議には、韓国の金泳三(キム・ヨンサム)大統領と中国の江沢民国家主席も出席することになっていた。クリントン大統領は当時、賢人会議にこのような質問を投げかけた。「彼ら(中国)は、もう我々が必要ではない時がきたと判断したら『さよなら』を言うのではないか」。中国が世界市場と交易をするチャンスをつかんで恩恵を享受した後、米国を裏切るのではないかという疑念だった。賢人会議の議長だった米ピーターソン国際経済研究所のフレッド・バーグステン名誉理事は、このように振り返った。「クリントンは中国を抱きこむ賭けに出ることにした。当時、米国は世界経済に占める優越的地位がピークに達しており、中国はまだ経済発展の初期段階だった」
30年近く経った今、クリントンの疑念は現実となり、ワシントンの政治指導者たちは当時の決定が大きなミスだったと後悔している。米中関係がこのように破局直前の段階まで至ったのは、根本的に中国の経済・軍事力が米国を脅かすほど急成長したためだ。特に、軍民兼用で使用できる先端技術の急速な発展は、米国の経済覇権、ひいては軍事覇権まで脅かすものと米国はみている。
米国が先端技術全般で依然としてリードしているのは事実だが、中国は一部の分野ではすでに米国を追い越し、残りの分野でも猛烈に追撃している。ハーバード大学と北京大学がそれぞれ両国の技術力を比較分析した報告書に、このような点がよく現れている。ハーバード大学のベルファーセンターは昨年12月、「中国は一部の分野ですでに世界1位になり、現在の傾向なら他の分野でも10年以内に米国に追いつくだろう」と分析した。具体的に、5Gは中国がリードしており、人工知能(AI)はほぼ同級のライバルと評価した。量子情報科学は米国が全般的に優位だが、量子通信部門は中国が追い越した。半導体も米国が優位を保っているが、半導体製作とチップ設計部門では中国が追い付いている。グリーンエネルギー技術は米国が開発者だったが、生産と利用の面では中国が米国を圧倒する。
北京大学国際戦略研究院は今年1月、「中国は(米国との競争で)技術的に多数の分野で『追いかけており』、少数の分野で『肩を並べる』一方、ごく少数の分野では『追い越す』態勢を整えた」と評価した。中国は通信技術や港湾、機械、鉄道・交通などの分野で米国を追い越す可能性があると見られた反面、精密化学や半導体、航空エンジン、バイオなどの分野では格差が大きいと分析された。量子情報や人工知能など新興技術分野では競争関係にあるとみられている。
米中覇権争いは、今後10年が分岐点になると多くの専門家は予想している。中国がこれまでの傾向どおり経済発展と技術開発を持続すれば、10年後には米国の地位を脅かす可能性がある。国家間の技術移転は時間の問題であり、決して防げないことを歴史は物語っている。これをよく知っているからこそ、米国が中国牽制、ひいては中国の弱体化に拍車をかけているのだ。両国をよく知っている専門家として知られるオーストラリア元首相のケビン・ラッド氏は、著書『避けられる戦争:米中間にみる破滅的対立の危機(原題)』で、「2020年代は米中関係で決定的な10年になるだろう。両国の戦略家たちは皆これを知っている」と語る。同氏は「2020年代は危険な時期になるだろう」とし、「両国が共存の道を模索するなら、世界はもっと良くなるかもしれないが、失敗すれば戦争の可能性が置かれている道に進むだろう」と警告した。
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