ジョー・バイデン大統領が初のアジア訪問を終えた。韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)新大統領に会い、韓米同盟を強化した。東京では、日本、オーストラリア、インドと結成したクアッド(Quad)に活力を与えた。トランプ政権が「環太平洋経済パートナーシップ協定」(TPP)から脱退した後のアジア経済に米国が再び割りこむために「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)を浮上させた。歴訪の焦点は一つだった。中国、中国、中国。
韓米同盟の強化は、北京にとっては、文在寅(ムン・ジェイン)政権との協調的な時代は終わったというシグナルだ。クアッド首脳会議は、アジア沿岸で港と軍事基地の確保を試みる中国の野心に対抗しようとする戦略の一環だ。IPEFは、中国と隣国の経済的関係を後退させようとする意図を帯びている。
中国を米国の利益における最も重大な脅威とみなすのであれば、このような動きはきわめて妥当だ。しかし、中国に対する恐れは盲目につながる。米国は、ライバルである強国の抑制に全力を注ぎ、絶好の機会を逃している。バイデン政権は、中国との関係を再び模索するために、ウクライナ戦争を活用すべきだ。中国と密着すれば、ロシアをいっそう孤立させることができ、世界経済をいっそう持続可能な方向に変えることができ、米国のインフレを緩和することができる。
最も容易で確実な方法は、トランプ政権時代に中国商品に課した関税問題を扱うことだ。関税引き下げにより、1年以内にインフレ率を1ポイントは下げられる。これは、リチャード・ニクソン政権の地政学的な冒険を思い起こさせるくらい、よりいっそう大胆な手段を講じられる糸口を提供できる。
1970年代にニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー国務長官は、中国の開放を推進した。当時の中国は、まだ殺人的な文化革命の最中にあり、老いた指導者であった毛沢東主席は、ますます気まぐれになっていた。しかし、ニクソン大統領とキッシンジャー国務長官は、中国とソ連という二つの共産主義強大国を仲たがいさせる機会とみた。また、キッシンジャー国務長官は、軍縮交渉でソ連がより妥協的になるよう圧力を加えることを望んだ。賭けは完璧に成功した。米国は、1970年代末までソ連とデタント交渉を行うことができた。米国の政策は、中国が文化革命から抜け出し、外部の世界と実用的に交流する一助となった。
米国は現在、中国が非常に成功していることに腹を立てている。北京は最大の経済大国である米国に挑戦している。南シナ海の隣人たちと台湾を脅かし、太平洋地域の最大の強国である米国の地位に挑戦している。
しかし、米国が中国に再び門戸を開放しなければならないきわめて妥当な理由がある。中国とロシアは、化石燃料のパートナーシップを構築した。中国とロシアは、自由選挙と表現の自由のような自由主義的なドクトリンに対する不信を共有している。このままの形で進んでいくのであれば、中国とロシアは反西側同盟の基礎を作ることになるだろう。そのような同盟は必ずしも避けられないわけではない。クレムリンは、中国のロシア極東地域に対する構想を長きにわたり懸念していた。中国は、ロシアがウクライナのような隣国の主権を侵害するやり方にひどく驚いた。ロシアは西側との和解を放棄したものとみられるが、中国は西側との経済関係を基本的には維持することを望んでいる。
最も重要なのは、米国が、クレムリンが約束するものとは違うクリーンエネルギーのパートナーシップを提案することだ。米中はロシアが提供する汚いエネルギーのパラダイムから抜け出し、再生可能エネルギー時代を導くことができる。
バイデン大統領が、ワシントンの対外政策のコンセンサスに反して中国との関係の再設定ボタンを押すのは、それほどまでに難しいことなのだろうか。バイデン大統領が、大統領選の候補だった時代、サウジアラビアを孤立させると述べた。しかし、今のバイデン大統領は、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子がジャーナリストを殺害し、イエメン内戦で多くの戦争犯罪を犯したにも関わらず、リヤドを訪問する計画を立てている。和解の理由はきわめて単純で、米国のガソリン価格を下げるために、サウジがよりいっそう多くの石油を供給してくれることを望んでいるのだ。
リヤドの暗殺者と友人になれるのであれば、バイデン大統領ははるかに大きな利益とはるかに有益な平和の展望のために、北京とも関係を改善できるはずだ。
ジョン・フェッファー|米国外交政策フォーカス所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )