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[寄稿]徴兵制の韓国で兵士の月給200万ウォンが意味するもの

登録:2022-06-07 03:40 修正:2022-06-07 09:15
パン・ヘリン|元軍人権センター活動家・予備役大尉
国民の力の大統領選候補だった今年1月、尹錫悦大統領がフェイスブックに掲載した文章「兵士の月給200万ウォン」=尹錫悦大統領のフェイスブックより//ハンギョレ新聞社

 先日、キム・ゴンヒ大統領夫人のオンライン上のファンクラブカフェに尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の自宅に対するテロ予告を書き込んだ10代の男性が、脅迫などの疑いで4日に検挙された。彼は警察で、尹大統領の「兵士の月給200万ウォン(約20万9000円)公約」が守られていないことに不満を抱いて書き込んだと供述した。彼は問題になった書き込みに「軍隊で月給200万ウォンくれると言うので休学したのに、時間を浪費することになった」と書いたという。

 少し時計を巻き戻して、第20代大統領選挙当時をみてみよう。「兵士の月給200万ウォン」公約は、当時の与党候補のイ・ジェミョン氏も前面に掲げていたし、正義党候補のシム・サンジョン氏は300万ウォン(約31万3000円)を公約として提示していた。大統領選当時、兵士の月給を少なくとも200万ウォン程度にまで引き上げることは、主要候補の間では普遍的に合意された事項だった。

 しかし詳しくみると、2人の候補と尹大統領の公約は出発からして異なることが分かる。イ・ジェミョン候補、シム・サンジョン候補は2人とも募兵制などへと兵役制度を改編することを条件として公約を提示した。しかし尹大統領は、兵役制度の改編や軍の構造改革などの条件なしに「兵役義務の履行に対する社会的尊重公約」として提示した。尹大統領は大統領選当時、自身のSNSで「とうてい納得できない所に使った予算を削減」すれば、兵士の月給引き上げが直ちに可能になるというふうに説明していた。

 2人の候補と尹大統領の公約の違いは、厳密に言えば兵役制度の改編ではなく、兵士たちの法的地位と労働者性を認めるか否かの違いだった。募兵制への転換は、兵士を徴兵体系を通じて集めたという理由のみで安くこき使える存在として扱うことをやめ、職業人として適切な賃金、手当て、福祉を享受できる地位を彼らに与えるということを意味する。職業軍人のような公務員になるのだ。尹大統領が上記のSNSへの投稿で自ら言及した通り「国家安保のために個人の犠牲が避けられない時、その犠牲に対する適切な補償をきちんと設計することは、国家の基本的な役割」という考えからだ。

 しかし、尹大統領の就任後、兵士の月給200万ウォン公約は議論ばかりが膨らみ、結局は兵士の月給を2025年までに150万ウォン(約15万7000円)ほどに引き上げ、政府支援金を加えて月の実質支給額を205万ウォン(約21万4000円)ほどにするという折衷的な段階的引き上げ案へと収れんされつつある。与党「国民の力」のイ・ジュンソク代表は5月11日、白ニョン島(ペンニョンド)の海兵隊部隊を訪問し「政権を引き継いでみたら、財政公約を完全に守ることは難しい状況」、「財政状況が良くなれば原案に近いかたちで実践することを最優先にする」と、苦しい答えばかりを残していった。

 尹大統領と国民の力は、兵士の月給200万ウォン公約について、いまだに「20代男性の慰撫」程度に理解しているようだ。兵役義務がきちんと評価されないのは、兵士たちが請約加点(アパート購入権の抽選で有利になる)や、給与算定での軍歴による加算、200万ウォンほどの月給が保証されないからではなく、本質的に兵士という階級が持つ法的地位の曖昧さのせいだ。

 兵士は公務員と同様の任務を遂行し、月給も国から受け取り、行政処分で懲戒も受ける。しかし、徴集兵だという理由で消耗品のように使われ、除隊すればそれまでという扱いを受ける。「必要な時は強制的に呼びつけて使うくせに、いじめられても、怪我をして除隊しても他人事」にならざるをえない地位にあるので、社会的にきちんと尊重されないのだ。

 兵士の月給200万ウォンに含意される職業人としての地位と性格をすべて推し量れば、兵役制度の改編から公務員の給与体系に至るまで、手をつけなければならないことが一つや二つでは済まない。兵役制度の改編は、軍の構造改革、ひいては国家の安保戦略ともつながっている。徴集人口が大幅に減ることで、現在の兵役制度では2030年以降の兵力維持は不可能になるという事実は、すでにかなり以前から指摘されている。「ひとまず今回だけなだめてやり過ごせば良い」というような、月給の帳尻を合わせておけば良いだろうという安易な考えでは、数年後に数々の問題がより大きな負担となって押し寄せてくるだろう。大統領は兵士の月給200万ウォンという一行の文の中に込められたこの意味をきちんと考えているのか、心配だ。

//ハンギョレ新聞社

パン・ヘリン|元軍人権センター活動家・予備役大尉 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1045907.html韓国語原文入力:2022-06-06 18:21
訳D.K

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