本文に移動

[寄稿]尹錫悦大統領の就任演説を批判する

登録:2022-05-17 09:44 修正:2022-05-17 11:45
「ひとえに自由」と「成長至上主義」が答えなのか 

イ・ドフム|漢陽大学国語国文学科教授
尹錫悦大統領が10日、ソウル汝矣島の国会議事堂前の芝生広場で開かれた第20代大統領就任式で就任演説をしている=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の就任演説は、一言でいって「19世紀の資本家が書いた虚偽と矛盾だらけの声明書」だ。取り上げた概念と意識がその程度の水準であり、美辞麗句でくるんだだけで問題と原因、代案が互いに符合していないためだ。

 尹大統領は就任演説全体を包括する言葉で前口上を始めた。「この国を自由民主主義と市場経済体制を基盤として、国民が真の主人である国へと再建する」というものだ。資本主義体制400年の経験を通じて全世界の人々が知ったのは、牽制なき自由民主主義と市場体制を基盤にすれば、実情は国民ではなく権力者と資本家が主人になるという事実だ。企業の唯一の目的は利潤を増やすことであり、資本はそのために国家と同盟を結び、あらゆる不法と暴力、ひいては戦争も厭わないためだ。そのため資本主義が発展した米国と欧州は、自由の概念を再定義したり、これに正義を調和させたり、国家と市民社会が市場を牽制するシステムを作ったり、直接民主主義と熟議民主主義で補完したり、社会民主主義政策を採択したりしている。

 今回の就任演説のキーワードのうち最も核心となるのは「自由」だ。35回も出ただけでなく、すべての代案としてこれを掲げている。しかし、自由の概念も19世紀的概念にとどまっている。もはや自由は「すべての抑圧と拘束、暴力から抜け出し、思い通りに行うこと」だけを意味するのではない。これは消極的自由(freedom from)にすぎない。今や自由は、他者を貧困、抑圧、拘束から解き放つときに感じる喜悦である対自的自由(freedom for)、労働を通じて新しい価値を生産し真の自己実現をしたり、遂行と精進を通じて新しい存在に生まれ変わったりする積極的自由(freedom to)を含む。消極的自由だけを追求する限り、不平等、公正と正義の喪失、構造的暴力の増大など、自由からもたらされる弊害を克服することは難しく、エリートを除いた残りの自由はむしろ縮小される。

 尹大統領はパンデミック危機、気候変動、エネルギー危機、紛争の平和的解決の後退、両極化の深化、民主主義の危機などを指摘しつつ「最も大きな原因とされるのがまさに反知性主義」と述べるが、因果的誤りであり、「盗人猛々しい」と言いたい。民主主義の危機だけに限定しても、資本と国家の癒着、言論の企業化、市民社会と公論の場の崩壊、部族主義、SNSの拡大が原因であり、反知性主義はこれにともなう現象にすぎない。何よりも尹大統領はこれを画策した張本人だ。盗人猛々しいと言われないためには、まずは省察すべきだ。

 無知で独善的なことよりも恐ろしいのは、大統領の周辺に極端な新自由主義者が前面と後面の両方に布陣している点だ。案の定、気候危機と両極化を取り上げながらも「跳躍と速い成長を成し遂げなければ解決できない」と述べ、成長一辺倒の政策を取るということを表明している。最大の犠牲者である労働に対しては一言もない。気候危機と不平等の根本原因は、成長一辺倒の新自由主義だ。新自由主義体制の司令部である国際通貨基金(IMF)が、落水効果は虚構であり、その反対に低所得層を支援して経済を活性化する分水効果の方が効力があるとし、すでにかなり以前からUターンをしてきた。ピケティやスティグリッツのような進歩的な経済学者だけでなく、保守主義者たちも不平等と気候危機の代案として、持続可能な発展と租税革命、グローバル資本税などを代案として提示している。気候危機と不平等の原因は牽制なき自由主義市場経済と成長政策だが、これを代案として提示したのは矛盾と誤りの極致だ。

 科学技術と革新を代案として提示したのも旧世紀的な発想だ。中世の呪術の庭園から啓蒙の時代へと向かう時代には、科学技術が代案だった。しかし、20世紀からすでに科学技術の非人間化、道具化、反知性化が指摘されている。気候危機と不平等、パンデミックの原因の一つもこれであるのに、人間と生命の顔をした科学技術が代案として提示されている。平和も、暴力と戦争がない状態という消極的で古い平和観に留まっている。構造的暴力をなくすことが真の平和の道だ。

 最後にもう一言。国内問題であれ、北朝鮮問題であれ、国際問題であれ、協力と連帯を強調しているが、問題を原因と対策なしに当為的に個人の協力と連帯で解決しようというのはヒトラーが好んで使っていた語法だ。時代に合った認識と省察を望む。

//ハンギョレ新聞社

イ・ドフム|漢陽大学国語国文学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/1042479.html韓国語原文入力:2022-05-12 02:35
訳C.M

関連記事