ウクライナと台湾は、海洋勢力と大陸勢力がぶつかる地政学的断層線の上に位置している。両勢力の利益権が重なる地政学的中間地帯に常に危険性があるのは周知の事実だが、武力衝突がいつも現実化するわけではない。構造の圧力の中でも行為者の冷静な対応と関連国間の制度的対応で、衝突を回避することもできる。
覇権国の米国にとって東欧のウクライナと東アジアの台湾は「挑戦国」のロシアと中国の勢力拡大を防ぐための橋頭堡であり、主要な戦略手段だ。一方、挑戦国にとって、これらの国は現状を修正するための突破口だ。中間国がこのような大国の論理に振り回されることになれば、覇権競争の犠牲になりやすい。
中間国が緩衝地帯として「ピースメーカー」の役割を果たすためには、解決すべき課題がある。第一に、国内政治に鋭く作動するアイデンティティ政治を警戒し、分裂と他者に対する嫌悪の動学を注視しなければならない。ウクライナでは国内政治において親西欧勢力と親ロ勢力が競争し、政権交代が実現するたびに度重なる対外戦略の変動と不安定性を露呈した。アイデンティティ政治が固着化すれば、外部勢力は自分の好みに合う相手とだけ交渉しようとする。台湾の場合、国民党政権と緊密な交流協力を促進した中国は、政権交代を実現した民進党に対し、対話と交渉の余地を残さなかった。中国が台湾社会の分裂を狙ったことに根本的な問題があるが、民進党勢力が理念の側面で安全保障問題を取り上げることにも問題がある。
国際政治において力の非対称性が存在する状況で、脅威は自然な現象だ。脅威が高まる流れに身を任せるのか、積極的に和平交渉を進めるのかは選択と戦略の問題だ。戦略とは、価値と感情に反しても、共同体の安全と利益を守るために理性的計算の下で動くことを意味する。
第二に、世論が一方に傾いてはいないかを注視し、バランス感覚を維持しなければならない。ウクライナ危機が発生してから、台湾の公論の場では圧倒的に米国マスコミの見解と観点だけが広まっている。プーチンの軍事的冒険主義は批判を受けて当然だが、地政学的観点からロシアが直面している安全保障上の脅威については十分に取り上げられなかった。ウクライナとロシアの間にはいかなる地理的障壁も存在しないため、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟することになれば、ロシアにとっては背中に刃が向けられた形になる。プーチン大統領は、NATOが東方拡大を進めないという1990年代の約束を破り、5回も拡大を繰り返してきたと非難した。自分が受ける脅威だけを強調し、相手が受ける脅威に対しては目をつぶるなら、対話と交渉は遠のき、戦争に近づくことになる。また、今回の侵攻でウクライナを通じて欧州に進出しようとする中国の大戦略が台無しになったにもかかわらず、中国とロシアが非道徳的軍事行動の共謀者であるかのように認識されている。
最近の米国の世論調査では、ウクライナのための米国の軍事介入に58%の米国人が反対した。しかし、昨年の世論調査では、米国が軍事的に台湾を防御すべきだという米国人が52%を占めていた。一方、台湾での世論調査では、台湾人の60%が中国の武力侵攻がある場合、米軍が軍事的支援を行うと信じていることが分かった。米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、台湾に防衛兵器を提供し、有事の際、軍事的支援をする法的根拠である台湾関係法の約束を数回確認したが、中国の侵攻時の米軍出兵については答えなかった。覇権国の力が弱まれば、安保公約を守ることができない状況が発生しかねないため、最悪の状況を想定し、自ら解決策を見出す努力が必要だ。
勢力転移論では、挑戦国の国力が覇権国の国力総量の80~120%に達する時が最も危険だとみている。中国は現在、世界第2位の経済大国であり、経済総量が米国の70%に迫っている。米中関係はすでに危険な時期に入った。覇権競争の時代にスケープゴートにならないためには、大国の論理に陥没せず、アイデンティティ政治を拒否し、国民の命と利益を優先する戦略的アプローチが必要だ。