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[寄稿]韓国の大統領選挙は不動産階級投票?

登録:2022-03-14 04:10 修正:2022-03-14 08:31
キム・ゴンフェ|慶尚国立大学経済学部教授
ソウル中区の南山から眺めたソウル市内のマンション/聯合ニュース

 ジェイン・オースティン(1775~1817)の小説は、その当時の時代像をうまく描写したことで有名だ。それは、既存体制の廃墟の上に資本主義が打ち立てられつつあった、ということも含まれる。二つの体制が交差する時期に登場したオースティンの小説が、資本主義特有の人間像、そして人間関係の本質を見事に捉えたということは、ある意味では自然なことだ。「比較」の視点を容易に持つことができたからだ。

 我々にとって資本主義とは空気のようなものだ。普段、我々は資本主義の何たるかをほとんど感じずに生きている。『高慢と偏見』や『マンスフィールド・パーク』のように200年以上経った作品が今日でも現実味を帯びており、改めて驚かされるのは、まさにそのためだろう。トマ・ピケティは経済学者としては珍しくこのような点を洞察し、自らの世界的ヒット作『21世紀の資本』でオースティンやバルザックのような人々の作品を積極的に引用しつつ論を展開してもいる。

 オースティンやバルザックの小説が伝える資本主義の特徴の一つは、財産の意義が変わるということだ。かつての財産は権力と富の象徴だった。今は違う。どこにどのような土地を持っているかではなく、その土地から1年にいくらの所得が得られるかが重要だ。小説の中の人物の描写や社交会の女性たちの耳打ちに「所得」がよく登場するということは、こうした変化を反映している。どんなに立派な古家を持っていても、そこから所得が得られなければ無用の長物だ。財産より所得が重要なので、その所得は必ずしも土地から生じる必要はない。工場の稼動にしろ金貸しにしろ、とにかく現金が定期的に入ってくればよいのだ。

 ところが、最近のニュースやソーシャルメディアを見ると、自分がどんな体制で生きているのかを忘れている人が多いとしばしば感じる。今回の大統領選挙の結果をめぐる解釈を見てもそうだ。ソウル市内の、現政権で住宅価格が大幅に上昇した地域において、保守候補に対する支持率が高かったことを示す資料が話題を呼んだ。実際に「江南(カンナム)3区」は言うまでもなく、木洞(モクトン)から麻浦(マポ)と龍山(ヨンサン)を経て聖水(ソンス)に至る漢江(ハンガン)ベルトが概ねそうだった。これを「階級投票」の結果だと言って、その原因を文在寅(ムン・ジェイン)政権の不動産政策の失敗に求める人が多かった。

 一見もっともらしい話だが、それにはいくつかの穴がある。まず、不動産政策が失敗したかどうかは別として、政府の政策によって住宅価格が大幅に上がったとすれば、その所有者は政府に感謝すべきではないのか。なぜその反対側の候補に票を投じるのか。次に、ある人は上にあげた地域に賃借人の割合が高いことをあげ、上の結果は不動産政策の失敗で伝貰(チョンセ、契約時に賃借人が巨額の保証金を所有者に預け、月々の賃貸料は発生しない不動産賃貸方式)契約金や家賃が上昇したことに対する反応だと解釈する。これももっともな話だが、住居費が高騰しているにもかかわらず、あえて江南などに住む人とはどのような人たちなのかも考えるべきないのではないか。

 これは常識的に考えても難しい問いではない。なぜ、あの江南の人々は、自分の住宅価格を引き上げてくれた政権にあれほど反旗を翻すのか。しょせん住宅価格というのは原則的な評価額に過ぎず、重要なのはオースティンが教えてくれたように所得だ。現政権は、意図せず江南地域の富裕層の住宅価格は上げたものの、所得税と法人税も引き上げ、不動産保有税と金融関連税制も強化した。高所得の専門職、大企業や公共機関の従事者が大半を占めるであろう江南の賃借人も、とどのつまりこうした政策の「被害者」にほかならない。総合不動産税などが課税実施の過程で「ざる」になったとしても、「進歩」政権の継続は、彼らにとっては死活をかけて阻止しなければならなかったのだろう。

 要するに、資本主義において階級性とは、財産よりも所得の大きさと性格に関連が深い。いわゆる「階級投票」の実体はまさにこれだ。にもかかわらず、メディアやSNSは不動産の話ばかりだった。振り返ってみれば、現政権発足以降つねに不動産はもっとも熱い経済問題だったが、それは身に余る注目だったのだ。

 一方、メディアがどんなに不動産問題を喧伝しようと、政府の政策が自分の所得を締め付けているというのは、金持ちにとっては厳然たる「現実」だ。金持ちばかりが自らの階級性を自覚したのは、その結果だ。人は出て行く金は気にしても入ってくる金は気にしないものなのか。金持ちの所得を規制する政策は、庶民にとっては丸ごと利益となるのだが、このことは集団的な自覚に至ってはいないようだ。そのような庶民の階級性を目覚めさせ、階級性のバランスを回復することは今後、韓国社会が前進するための重要な一歩となるだろう。ここにおいても財産より所得の方が重要であることは言うまでもない。

//ハンギョレ新聞社

キム・ゴンフェ|慶尚国立大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1034628.html韓国語原文入力:2022-03-13 16:05
訳D.K

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