「女性家族部廃止」。国民の力の大統領候補ユン・ソクヨル氏が同党のイ・ジュンソク代表と再び手を取り合い、心機一転してまず最初に出したメッセージが、このたった2つの単語だ。アンチフェミニストたちは歓喜した。しかし、本当に廃止の立場に立っているのかは不確かだという。ウォン・ヒリョン政策本部長も、自分は知らないと言う。言いっぱなしで女性憎悪をもてあそんでいるのだ。
「滅共(ミョルゴン)」。新世界グループのチョン・ヨンジン副会長が、中国の習近平国家主席の写真と共にSNSに載せた単語だ。ユン・ソクヨル候補は翌日、新世界のイーマートを訪れて買い物をした。「ユン・ソクヨル公約ウィキ」はこの日に買った品を「卵(タルギャル)、ネギ(パ)、にぼし(ミョルチ)、豆(コン)。タルパミョルゴン」(タルパは文在寅大統領打破、ミョルゴンは共産主義を滅ぼすという意味)と要約した。続いてナ・ギョンウォン、キム・ジンテ両前議員らが「タルパミョルコン!滅共!自由!」とリレーした。
説明も、論理も、内容もない。しかし、この見かけ上の脈絡のなさは多くのことを意味する。メッセージの発信者と特定の受容者集団が、彼ら同士の文脈においてすでに共有している「ある意味」がここで再確認され、それを通じて共同のアイデンティティが強固になる。幼稚な遊びのように見えるが、実は特定の有権者層を正確に狙った結集戦略だ。
そして、ここに真の危険さがある。思慮のない行動、時代錯誤的な理念論は問題ではない。青年男性たちの様々な苦悩と欲求の中で「反フェミニズム」という火種を憎悪の山火事になるよう煽り、「滅共」をモットーに一部の高齢者層の極右感情と一部の青年層の反中感情を絶滅の言葉で極端化することを、いま極めて戦略的に行っているのだ。極端かつ挑発的な主張を大衆の前に投げかけては消え去りを繰り返しながら、ひそかに社会内の憎悪勢力を糾合していくこのような戦略は、過激主義の研究者にとっては珍しくない。極端な思考を持つ暴民を動員して自らの基盤を固めるという、社会の変化の主流から疎外された周辺部の政治勢力の技術だ。それをこの国の野党第一党がやっているのだ。
いま目にしているこのような光景において私たちは、韓国の保守政治が経済、雇用、不動産、外交安保などの、社会の核となる部門についての健全なビジョンを提示する能力を喪失したという証拠を見ている。保守政治は、国民と国家から弾劾された後も何の省察も刷新もなさなかった。その結果、いま保守に残っているのは、このような小物の浅知恵だ。保守は弾劾後の数年を、文在寅(ムン・ジェイン)政権と民主党に対する嘲笑と非難に費やした。その間、自らの問題と闘うためには何もしなかった。新たな保守を率いる新たな思考も、新たな指導者も、新たな勢力も生まれなかった。脱進歩の有権者が非保守として残っている理由がここにあるはずだ。
今の保守政治には価値がない。弾劾後、セヌリ党は自由韓国党、未来統合党、国民の力と、党名を何度も変えた。しかし、保守政治の時代認識と志向、路線、政策をめぐるまともな省察と論争は一度でもあったのか。今、国民の力が志向する、未来の韓国社会を定義する概念とはいかなるものなのか、誰も知らない。
今の保守にはリーダーもいない。文在寅大統領が任命したユン・ソクヨル、チェ・ジェヒョン、キム・ドンヨンのような人物がいずれも保守の有力な大統領選候補として登場し、そのうちの一人が結局は野党第一党の候補となった。見方によっては、去る者を登用した文大統領の人事の失敗と考えることもできるが、見方を変えれば、今や保守政党の指導者も民主党から出ているわけだ。
今の保守政治は、韓国社会の経済人、中産階級、労働者などの常識的な多数を支持基盤にしてもいない。保守の戦略的拠点は非主流の極端勢力にある。高齢層の太極旗部隊と青年層のアンチフェミニスト、これが世代包囲論、世代結合論の実体ではないか。これらは国民の多数どころか、高齢者や青年の多数にとっても最も中心的な問題ではない。国民の大多数は階層格差、雇用の安定、安全な労働、住居と老後、青年の不安な未来こそが最も緊急の課題だと言っている。文在寅政権と民主党に失望した人がいるとすれば、何よりもこれらの問題についてではないのか。ならばこれらの問題について民主党は反省と革新を、保守はより良い可能性を示そうと競争することこそ常識だ。
今、韓国の保守政治に最も失望させられるのは、このような難題に対していかなる能力、資質、慎重さも見られないということにおいてだ。その無能さを隠し、極端な支持層を固めようとして繰り広げている扇動政治は、実に危険だ。保守はこのままでやって行くつもりなのか。選挙戦略ではなく保守の良心について問うているのだ。
シン・ジヌク|中央大学社会学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )